~第79夜~「情報系魔法の発展」
「情報系魔法の発展」
地球と異世界の交流が始まり、地球に数々の魔法が入ってきた時、戦闘に使う魔法というのはあまり発展しませんでした。
そもそも、地球上では戦争はあまり起こっていなかったからです。
もちろん、まったくのゼロというわけではありませんし、紛争や内戦は常に地球上のどこかで起きてはいましたが、異世界のように日常で戦闘魔法を使う機会というのは、あまりありませんでした。
せいぜい、光の魔法で目くらまししたり、スピードアップの魔法で足を速くして逃げ出すといった程度。それよりも、魔法は平和利用されることの方が多かったのです。
たとえば、以前紹介した「重力魔法」によって、宇宙デブリを除去したり。空中浮遊をスポーツに利用したりといったように。
科学と魔法が融合することにより、情報系の魔法も進化を遂げます。
これまでスマホに頼り切りだった翻訳作業も、「翻訳魔法」によって、道具を使わず可能になりました。異世界間の言語のみならず、英語や日本語、中国語やロシア語なども瞬時に翻訳されていきます。
さらに便利になった翻訳魔法は、同時通訳までこなします。しゃべった言語が、そのまま相手の言語に変換され、まるで全員が同じ言葉で会話しているみたいです。
今やスマホの翻訳アプリを使っているのは、魔法が使えない人だけ。世界の言葉の壁は取っ払われたのです。
情報系魔法の役割は、これだけではありません。絵画や音楽など、芸術の世界でも活躍しています。
昔は、音譜が読めなければ作曲ができなかったり、デッサンの基礎がなっていないとキッチリとした絵が描けなかったりしましたが、そんなのはもはや遠い昔の出来事。
人々は、心の中でイメージしたメロディや映像を、魔法を使ってそのまま表現できるようになっています。
学校でも「魔法」が必須科目とされ、小学校の1年生から魔法の授業が始まります。
「炎」「雷」「氷」「風」などの基本魔法も、もちろん習得させられますが、先ほども申し上げた通り、地球では戦闘魔法はあまり役に立ちません。そこで、日常でも使える補助魔法の方を主に学ぶことになるのでした。
地球と異世界の間に道ができ、20年が経過しました。
この時代になると、地球の科学技術も劇的な発展を遂げ、iPS細胞を使った再生医療も進んでいます。
再生医療と魔法の融合で、回復魔法も、1つ上のステージへと進みました。それまで、回復魔法というのは「人間が本来持っている治癒力を上げてやり、急速に傷を治す」というものだったのですが…
再生医療の導入で、回復の概念が変わります。それまで不可能だった欠損部位の再生まで行えるようになったのです。
たとえば、戦闘により指や腕を失った場合、傷口はふさがっても、指や腕は戻ってはきません。これが、回復魔法の常識。
ところが、最新の回復魔法では、骨や筋肉をはじめとして、血管、神経、あらゆる臓器を元の状態にまで戻せます。それも、瞬時に!
それに伴い「蘇生魔法」の概念も変わります。ボロボロになった肉体でさえ再生できるようになったため、死んだ人が生き返る確率も格段に上昇しました!
ただし、分子分解などで完全に元の肉体が失われた場合は、お話が別です。あくまで「原形をとどめているレベル」で死亡した時のみ。全くのゼロから命をよみがえらせることができるなら、それは「新たな生命を誕生させる」のと同じですからね。
この時代、「魂」については、まだ解析されていませんでした。
「人がどこから来て、どこへ行くのか?」「死とは何なのか?」「心とは?」「肉体が存在しているのに精神が通っていないことがあるのはなぜなのか?」「人間と人形の違いは?」
それらがわからなければ、「完全に死んでしまった人間をよみがえらせること」はできません。「蘇生魔法」なんていっても、しょせんは「死後直後の人間を回復させる」だけに過ぎませんからね。
ホラ、心肺が停止した人を心臓マッサージでこの世に呼び戻す方法があるでしょう?アレの発展版だと思ってもらえればよいかと。
魂が完全に失われた人間を復活させるだなんて、それこそ神様でもなければできない所業。
それに、そんなコトができるなら、何もないところからパッと新しい生命を生み出すコトだってできるでしょう。精子と卵子が受精して新たな生命が誕生するのとは違う、それこそ「魔法」のようなもの。
人間がその領域に達するには、まだまだ長い時を待たねばなりません。
*
「魂ねぇ。考えてみれば、命ってのは不思議なモノね。どこからかやって来て、ある日突然、終わりを告げる。望まれもしない命があるかと思ったら、どんなに望んでも手に入らない命もある」と、シェヘラザードは言った。
「さようでございます。『生命の神秘』とも申しますからね。もしも、神様が人間を超えた高次元生命体であるとするならば、その辺りの謎も解いてしまっているのでしょう」
「なんでもできる万能の神様も、さらに上の神様から見たら、チッポケな存在なのかも知れないわね」
「万能の上。億能とでも申しましょうか?その上に兆能とか京能の神様も宇宙のどこかには存在しているのかも知れませんね」
ちょうど時間となったので、僕は話を打ち切って、次の物語は明日の晩に語ることにした。




