~第73夜~「ドワーフのポックリの旅(その2)」
さて、京都を訪れ、神社仏閣を巡って日本での旅を楽しんでいたドワーフのポックリですが…
ここで、ある人物と出会います。
それは、晴明神社を訪れていた時のコトです。
晴明神社とは、伝説の陰陽師で安倍晴明をまつった神社。
閑散とした敷地内をふたりの人間が参拝しています。1人は初老のおばあさん。もう1人は、中学生か高校生とおぼしき少年。
2人の内、おばあさんの方がポックリに話しかけてきます。
「あ、もし。異世界の方ではありませんか?」
「え?ワシ?確かに、わしゃ向こうの世界からやって来たが」と、勢いでポックリも答えます。
「やっぱり。では、少し私の話を聞いていただけませんか?」
「ああ、ええけど。別に急ぎの旅でもないし」
*
むかしむかしのお話よ。
いえ、そんなにむかしでもないかしら?ほんの15年ほど前のお話。
私たち家族は、それはそれは幸せに暮らしていたの。
私と、夫と、娘と3人暮らし。そこに、異世界からエルフの男性がやって来た。最初は、私たちも喜んだわ。非常な好青年でしたからね。
ちょうどその頃、地球と異世界の間に道ができて、エルフの男性は交換留学生として地球へやって来て、うちにホームステイしてたのよ。
逆に、夫は異世界に単身赴任に行ってしまったわ。それでも寂しくはなかった。私と娘とエルフ男性と3人で仲良く暮らしていたから。
ところが、仲良くなり過ぎてしまったのね。娘とエルフは恋仲になり、男は娘をはらませてしまった。そうして、そのまま知らんぷりして異世界へと帰って行ってしまったの。
その時に生まれたのが、この子よ。
さて、エルフのコトを忘れられなかった娘はどうしたと思う?
そう。異世界へと追いかけて行っちゃったの。この子を残してね。
仕方なく私は、残された子を一生懸命育てたわ。まるで、実の子のごとく。ま、実際、実の孫なわけだけど。
けれども、待てども待てども、娘は帰ってこない。それどころか、今度は夫まで行方不明になってしまった。
いきなり国家公務員の職を捨てて、蒸発してしまったの。一体、どこへ行ったのやら。風のウワサによると、娘と一緒に異世界を冒険して回ってるらしいんだけど。それも、ここ最近は全く話を聞かなくなってしまった。
もしかしたら、魔物にでもやられて、すでにこの世にいないのかもね。
でも、私にはわかるの。娘も夫も、きっとどこかで生きている。母親として、妻としての直感よ。あるいは、単なる願望かも知れないけれど。
いずれにしても「生きていて欲しい」と願っている。
さて、ここから先はお願いなんだけど…
もしも、あなたが異世界に戻るなら、娘と夫を探してもらいたいの。もちろん、お礼はするわ。夫が残してくれた退職金と遺産が残っていますからね。
夫の名は、総一郎。「安藤総一郎」よ。そして、娘は、杏。安藤杏。「アンアン」とも呼ばれているわ。ちなみに、娘をはらませて異世界へと逃げ帰っていったエルフは「エクスオール」よ。
*
「なるほどなぁ。まあ、探すのは構わんが、あんまりアテにはせんでくれ」と言いながら、ドワーフのポックリは内心「おもしろそうじゃな」と思っていました。
(もしかしたら、こりゃ、新しい商売になるかもしれん。人探し。そういうのもええな。地球のドラマで見たコトがある。「探偵」とか言うヤツじゃな。よっしゃ!1つ、ワシも探偵になったるか!)
そんな風にさえ考えました。
「ありがとうございます。では、お願いします。これが私どもの連絡先です」と、おばあさんは連絡先を書いた紙を渡してきました。
紙には「安藤夏美」という名前が書いてあります。
ちなみに、夏美おばあちゃんが渡してきた紙には、日本語で文字が書いてあります。
ドワーフのポックリがスマホで紙をピッとスキャンすると、即座に異世界の言語に翻訳され、データとして保存される仕組み。この時代には、すでに科学技術がこのレベルまで進歩しているのです。
ここで、突然、これまで押し黙っていた少年の方が口を開きます。
「僕を異世界に連れて行ってくれませんか?」
「え?お前さんを?」
「はい。僕の名はホリゾンテ。『安藤帆理尊手』です。父エクスオール、母アンズの息子。僕は、この日を待っていました。いつの日か、異世界に両親とおじいちゃんを探しに行く日を」
それを聞いて、夏美おばあちゃんは驚きます。
「何を言ってるの!?やめなさい!ホリちゃん!」
「いいえ、おばあちゃん。僕、ずっと前から決めてたんです。ね?いいでしょう?ドワーフのおじさん」
「ワシは構わんが、そちらのご婦人が…」
「ダメよ!ダメ!絶対に許しません!夫と娘を失った上、あなたまでいなくなってしまったら、私は生きていけないわ!」
夏美おばあちゃんは必死に引き止めようとしますが、ホリゾンテの決心は固く、決して折れようとしませんでした。
結局、エルフと人間のハーフである安藤ホリゾンテは、ドワーフと共に異世界へと渡ることになります。
さて。ちょうどお時間となりました。
それでは、この続きは、また明日の晩に…




