~第72夜~「ドワーフのポックリの旅」
「ドワーフのポックリの旅」
世界のどこかで大きな戦争が起きている一方で、関係ない地域の人々は、相変わらず平和に暮らし続けていました。
まるで、戦争など起きていないかのごとく。あるいは、テレビやインターネットでしか伝えられない「箱の中の世界」のようでもありました。
第2次世界大戦の真っ最中に、日本では明日の食べ物にも事欠く事態に直面していたのに対し、アメリカでは「オズの魔法使」が劇場で公開されていました。
日本では「欲しがりません!勝つまでは!」なんてやっていた頃に、アメリカでは一般人が映画館に足を運び楽しんでいたわけですからね。これでは、戦争に勝てるわけがありません。
そんな風に、世界は1つではないのです。激しい戦いが行われている一方で、「え?戦争?そんなのどこで起こっているの?」と、素知らぬ顔をしている人が大勢いるのが、世の常でした。
この時代、ルビアルス連邦が恐怖政治を敷いているのと同じ世界で、大多数の人々は、昨日と変わらず一生懸命に働いたり、お目当ての女の子に熱を上げたり、地球から輸入されたアニメやゲームに興じながら生きていました。
ここにも、そんな人がひとりいます。彼の名は「ポックリ」ドワーフ一族の男性です。
異世界と地球の間に開いた道は、日本の鳥取県に通じています。
20年ほど前のある日、鳥取砂丘に突如、巨大な穴が空きました。空間にポッカリと空いた穴は、別の世界へと通じていました。表から見ると別世界の風景が見えるのに、裏から見るとただの壁といった具合。
穴の直径は20メートル程度。穴は、砂丘の上に半円形を描いて空いたまま微動だにしません。
地球と異世界の間に道が通じた直後は、お互いの世界の住民たちが牽制し合い、一触即発の自体が続きます。
けれども、数年も過ぎると、険悪なムードもどこへやら。お互いの文化や特産物を輸出し合う仲へと発展します。
鳥取砂丘には、異世界へと旅立つ旅行者の列ができ、土産物屋などが建ち並び、異常なレベルの町おこしとなりました。
ドワーフのポックリもこの流れに乗り、地球からやって来る観光客相手に旅館を始めたり、異世界の特産物を販売して、一財産築きます。
「やれやれ、ワシもそろそろ引退かな」
20年前、20歳そこそこだったポックリも、すでに40歳を超えています。40歳というと、地球でも引退にはまだ早い年齢。まして、ドワーフの寿命は250歳とも300歳とも言われています。
それでも、異世界旅行ブームが起こり、結構な額の資産を作った中年ドワーフなら、無駄づかいせずに質素な生活を心がければ、残りの人生はあくせく働かずに生きていけるかも知れません。地球の職業でたとえるなら、優秀なプログラマーが若くして成功し、早めにリタイヤして第2の人生を送るようなモノでしょうか?
ちなみに、ドワーフというのは、若くして年配に見える傾向にあり、体毛も濃い種族。ボウボウのヒゲヅラということもあって、30歳も過ぎれば、中年男性と呼ばれてしまいます。
「さて、これからどうやって暮らしていこうか?」
自分の店を売り子にまかせて、悠々自適に生きていこうと決めたポックリですが、特に目的を決めているわけでもありません。
そこで、しばらくの間、旅に出ることに決めました。
思い立ったが吉日。ポックリはサクッと準備を整えると、手荷物1つで地球へと旅立ちました。
こういう時、ドワーフは便利なものです。あまり身支度にも気を使わず、ファッションにも興味がないので、ひとり旅にはうってつけ。
地球と異世界の間に道ができてから20年が経過し、2つの世界の間にはすでに鉄道が通っています。線路と道路と光ファイバーの回線が並んで敷設されている形。
鳥取砂丘駅に降り立ったポックリ。境港市にある「水木しげる記念館」を訪れます
「ほほ~お。これが『妖怪』というヤツか。地球にもいろいろな魔物がおるものじゃなぁ」と感心することしきり。
その後、島根県の出雲市へと移動し、出雲大社で「商売繁盛」の祈願をします。
「ホエ~!地球にもえらくたいそうな神さんがおるもんじゃ。ワシらの世界でも、神さんをまつった建物はいくつもあるが。どうしてどうして、なかなかのもんじゃな」
そう!異世界にも宗教があり、教会や神社などが世界中に点在しているのです。
ここ最近、ルビアルス連邦の侵攻により、あちこちの宗教施設や貴重な遺跡が破壊され、社会問題になっていますが…
「さてと。次はどうするかな?」と思案したポックリ。「そうじゃ京都へ行こう!」と思い立ちます。
そこから鈍行を使って、面倒くさい乗り換えを繰り返し、福知山を経由して、どうにかこうにか京都へとたどり着きました。
京都で神社仏閣を巡ったり、日本茶と和菓子をいただいたり、京野菜料理に舌鼓を打ったりしながら、のんびりと旅を楽しんだドワーフのポックリ。ここで意外な人物と出会います。
…と、そろそろお時間がまいりましたので、この続きは明日の晩にいたしましょう。




