~第709夜~「アリ人間たちの戦争(その2)」
黒アリ人間のエルピージョは、外の世界に出たくて出たくてたまりませんでした。外の世界で、敵である赤アリ人間たちと戦闘するのが夢だったのです。
そして、ついにその夢がかなう日がやって来ます。
数ヶ月の戦闘訓練を追え、実戦任務につく日がやって来たのです。
「さあ、これより戦場だ!皆油断するなよ!」
部隊長の指令に従って、黒アリ兵士たちは『オ~!』と一斉にときの声を上げました。
もちろん、ひときわ高く声を上げたのは、あの“命知らずのエルピージョ”です。
エルピージョたちの任務は、敵である赤アリ人間たちと遭遇した際、仲間の食糧調達員を守ること。
もちろん、必要に応じて戦闘をこなすこともありますが、状況によっては仲間を守りながら撤退を選択しなければならないこともあります。
(逃げるなんてイヤだな。それだったら、戦って死んだ方がまだマシだ)と、エルピージョは思いましたが、そこは任務です。上官の指令には従わなければなりません。
「それにしても、食糧はどこから降ってくるんでしょうか?」と、周囲を警戒しつつ食糧調達員たちを守りながらエルピージョがたずねました。
「それが不思議な話なんだ。いつの間にか食糧が置いてある。さっきまで何もなかった場所に、気づくと現われていたなんて話す奴もいる。まるで、神様が置いていったみたいにな…」と、先輩兵士が答えました。
「神様か…もしも、そんなものが本当にいるなら、会ってみたいな」と、エルピージョはつぶやきました。
その時です!
眼前に敵兵が現われたのは!
それと同時に、食糧のありかもわかりました。
「食糧発見!食糧発見!」という声と「敵兵発見!敵兵発見!」という声が同時に辺りに響き渡ります。
「ヨッシ!さっそく来たか!チャンス到来!」と、思わず叫んでしまうエルピージョ。
非戦闘員の食糧調達員たちは、即座に物陰に隠れ、ベテランの戦闘員たちが前面に出ていきます。
エルピージョたち新米兵士は、バックアップ及び非戦闘員を守るのが任務。
ところが、すぐに戦闘に突入し、場は大混乱!
敵味方入り乱れての泥沼の戦場と化してしまいます。
その機に乗じて、エルピージョは敵の真っただ中へと出ていきました。
斧や剣や弓矢などを使って戦闘している者も大勢いますが、アリ人間たちは特殊な外骨格に覆われているので、素手での戦闘も得意です。
うまく攻撃が決まれば、相手の外骨格上からダメージを与えるコトも可能!
エルピージョは、初陣とは思えないほどの大活躍で、次から次へと敵の赤アリ人間を打ち破っていきます。
それはそうです。子供の頃からずっとこの日を夢見て生きてきたのです。戦闘訓練だって、誰よりも熱を込めてこなしてきました。“ただなんとなく”あるいは“無理矢理に”戦闘に参加させられている者とは気概も戦闘能力も全然違っていました。
スキを突いて食糧を奪取して運び始める仲間の黒アリたち。
やがて部隊長によって指示がくだされます。
「撤収~!撤収~!任務完了!敵兵を排除しつつ、すみやかに退避されたし!」
敵兵に注意しながら、即座に撤収していく黒アリ人間たち。
追撃してくる赤アリ人間も何体かいましたが、その数も減っていき、やがてさっきまで戦場であった場所には誰もいなくなってしまいました。
*
「よくやってくれたな。お手柄だ。さすがは“命知らずのエルピージョ”といったところか」
部隊長はエルピージョの独断を責めることなく、それどころか褒めてさえくれました。
そうして、今後は戦闘の先端を切る“特攻役”へと取り立ててくれたのです。
「ヘッヘッヘ…まあ、ザッとこんなもんですよ」と、子供の頃から戦場へ出たがって生きてきたエルピージョは得意顔。
けれども、先輩兵士には釘を刺されてしまいます。
「あまり調子に乗るなよ。戦場では勇敢な者から命を落としていく。生き残るのは決まって臆病者さ」
(なんだい、あの人?僕が功績を立てたからやっかんでるのかな?きっと、そうだ。そうに決まってる)と、エルピージョは先輩の言葉など意に介しません。
それからしばらくの間は、順調に過ぎていきました。
エルピージョは食糧調達部隊が外の世界へ行く時には決まってついて行き、いざ戦闘となれば大活躍!
“命知らずのエルピージョ”の名は、黒アリ人間だけではなく赤アリ人間たちの間でも知らぬ者のない存在となっていきます。
それにしても不思議なのは、食糧です。
なにしろ、裸のままではなく、ちゃんと梱包されて地面に置いてあるのですから。
もちろん、読者の皆さんは、誰が置いているのかはご存じですよね?
そう。
神様ごっこを始めたプリオとポステリです。
2人は、アリ人間たちがちょうど困る程度の量の食糧を地面の上に配置していきます。
人口が増えれば、それに応じて量を増やし、赤アリ人間と黒アリ人間全員に行き渡らないよう必ず不足した量に調整するのでした。
そうすれば、お互いの軍で争って戦争を起こしますからね。
さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




