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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~箱の中の世界~
711/1003

~第710夜~「アリ人間たちの戦争(その3)」「箱の中の世界(その9)」

 エルピージョは、戦場において破竹の勢いで活躍します。

 固い外骨格の上からでも敵兵にダメージを与えられるように関節技(サブミッション)を身につけ、次から次へと赤アリ人間たちの手足を折っていきました。


 最初はバカにしたり忠告を与えたりしていた荷物運びの同僚や先輩兵士たちも、しだいにエルピージョのことを尊敬するようになってきます。


「オイオイ…もしかしてアイツ、マジモンの天才なんじゃないか?」


「人間的にはちょっと欠けている部分もあるけど、戦場じゃ大活躍だもんなぁ」


「生まれながらの戦士って、ああいう奴のコトを言うんだろうな」

 などとウワサするようになりました。


 そんな声を耳にして、エルピージョも悪い気はしません。


(ヘヘッ!どんなもんだい!)と、心の中で誇りに思うのでした。


         *


 そんな日々が何ヶ月続いたでしょうか?

 ついにエルピージョも痛い目を見る日がやって来ます。


 これまで無敵を誇っていた“命知らずのエルピージョ”ですが、調子に乗って前線に出過ぎて、気づいた時にはひとりきり。

 周りに味方は誰もおらず、全員が敵の赤アリ兵士という状況。

 さすがのエルピージョも、死を覚悟しました。


(クッ…僕の人生も、ここまでか。だが、後悔はない。あんな狭く暗い巣の中で荷物運びをして長生きするくらいならば、この方がまだマシ!本望ってもんだ!)


 その瞬間、いつだったか先輩兵士が言っていた言葉がエルピージョの頭の中をよぎりました。


「戦場では勇敢な者から命を落としていく。生き残るのは決まって臆病者さ」


(ならば…やってみるかッ!)


 そう決心した彼は、恥も外聞もなく逃げ出しました。

 走って、走って、走り尽くし。逃げて、逃げて、逃げまくりました。

 途中、追っての赤アリ兵士に何度も攻撃され、左腕を切り落とされ、それでも駆けて、駆けて、駆けまくります。


 そうして、ついに力尽き、ドサッと倒れた場所は花畑。美しい花々が咲き乱れる空間。

 エルピージョは急いで左腕を止血し、それ以上は何もできず、そのまま大の字に倒れたまま、天をあおぎます。


「ハァ…ハァ…ハァ…もう限界だ。逃げるのもここまで。人生の最期がお花畑とは、これまた上出来じゃないか」

 そう言って、エルピージョは笑います。


「フフフフ…ハハハハ!アッハッハッハ!」


 そこに近づいてくる1匹の赤アリ人間。

 今度こそ本当にエルピージョは覚悟を決めました。


「さぁ!やれ!やれよ!僕は、もう1歩も動けない。トドメを刺すがいい!」

 エルピージョはやって来た赤アリ人間に向かって叫びます。

 ところが、そこに現われたのは赤アリ兵士ではなく、なんの戦闘力も持たないただの赤アリ女性でした。


「あなた…?ケガをしてるのね。大変!それも大ケガじゃないの!」


 それから赤アリの女性は、できる限りの応急処置をしてくれ、食糧も持ってきてくれました。

 元がアリなので、腕の1本くらい失ったくらいで、死んだりはしません。それでも、エルピージョは生きる気力を失っています。


「この辺は、私たちの領土よ。傷がよくなったら、すぐに自分の土地にお帰りになった方がいいわ」

 女性は、言いました。

 けれども、エルピージョは自分の巣に帰る気など、もはや消え失せてしまっていました。


「いいや、僕は戻れない。戻ったところで、この腕ではもう戦えない」そう言いながら、半分なくなってしまった左腕を見せるエルピージョ。


「では、どうする気?」と、赤アリ女性はたずねます。


「さぁね?このまま朽ち果てるか。あるいは、一生君に(やしな)ってもらうとするかな?」

 自嘲(じちょう)気味に半笑いで答えるエルピージョ。


「それもいいかもしれませんね。私も戦いの日々に疲れました。ちょうど『もうこんな世界で生きていきたくはない…』と思っていたところなのです」


「いやいや、冗談だよ。決まってるだろう」


「私は本気です。あなたと一緒に死ぬのも一興。あるいは、どこか遠くに逃げるのも一興。このままの人生を続けるには疲れ過ぎました…」


 女性の言葉を聞いて、エルピージョも考えます。

 しばらく黙ったまま、ジッと彼女の瞳を見つめるエルピージョ。

 それから、突如、口を開きました。


「どうやら本気らしいな。君の目がそう語っている。いいだろう。どこまで行けるかわからないが、一緒に逃げよう。逃げて、逃げて、限界に達して。そこで2人して倒れて命を終えよう」



「箱の中の世界(その8)」


「オヤオヤ、なんだかおかしなコトになってきたね。ポステリ」


「ほんとに。これはちょっと予想外な展開ね。プリオ」


 外の世界から“アリ人間たちの世界”を観察していたプリオとポステリは、言いました。


「どうする?このまま放っておく?それとも…」と、プリオ。


「私、読んだことある。これって『ロミオとジュリエット』よ。敵同士の男女が恋に落ちるの」


「僕も知ってる。けど、その結末は悲劇なんだろ?この2人の物語も悲劇で終わらせるかい?」


「ううん。私はもっと続きが見てみたい。このあと、どういう展開になるのか。どんな歴史をつむぎ出すのか」と、ポステリは答えます。


「僕もその意見には賛成だよ。それに正直驚いた。世界の食糧事情をコントロールしてやれば、きっと戦争が起るだろうとは思っていた。けど、こんなストーリーになるだなんて…」


「そうね。プリオ。世界は争いだけじゃないのかもしれない。生き物は自然に共存を選ぶようにもプログラムされているのかも」


「いずれにしろ、続きを見てみないと。そのために、ちょっとばかし彼らに手を貸すことにしよう」

 こうして、プリオとポステリは、2人のアリ人間を援助してやることに決めました。


 さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。

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