~第708夜~「箱の中の世界(その8)」「アリ人間たちの戦争」
電子世界の中で、プリオとポステリは別の世界を創り出します。
最初、それは非常に単純なモノでした。たとえば、アリやネズミなどを飼育し、お互いに戦わせようとする試み。
アリの大群の真ん中にエサを置くと、彼らは仲よくわけ合って、自分たちの巣へとエサの断片を運んでいきます。
「なかなか、うまくいかないね。戦争を起こすって…」
プリオが言います。
「じゃあ、別の種族を作ってみようか?」
ポステリはそう言って、赤いアリの軍団を生み出しました。元々いたのは黒いアリの種族です。
すると、今度はうまくいきました。
赤アリと黒アリでエサを取り合って、戦争を始めたのです。
「うん、悪くない。けど、ちょっと単調だね」と、プリオ。
「そうね」と、ポステリ。
それから、次に2人はネズミで試してみました。
エサの量を増やすと、それぞれのネズミたちが満足するまで食べ、誰も争おうとはしません。
「これが僕らの世界。そして、ある時代の人間社会だ。エネルギーや食料が充分に行き渡って、誰も戦争を起こそうとはしない」
エサの量が少ないと、ネズミたちはお互いに争ってエサを取り合います。戦闘に敗れたネズミは、傷つき、食料も足りないので、どんどん痩せ細っていって、最後には死んでしまいました。
「こっちは、もっと前時代的な社会ね。食べるのものが不足しているから、暴力で奪おうとする。あるいは、それは物理的な攻撃ではなく、武器や力まかせではなく、“お金”という力であったかもしれないけれど」
「そうだね。人間の争いは、もっとおもしろかった。知性があったから。アリやネズミじゃ、あの感覚は味わえないね」
「じゃあ、知性を与えてみる?この子たちに」と、ポステリが提案します。
「いいね!じゃあ、さっそく知性を与えてみよう」
こうして、アリの軍団に人間と同じような能力が与えられました。
「アリ人間たちの戦争」
アリ人間のエルピージョは、今日もせっせと働いています。
エルピージョの仕事は、外の世界から運ばれてきた食料を分類整理し、倉庫へと運ぶこと。外で食料を探す役割に比べれば、随分と安全なものでした。
なぜなら、食糧調達部隊は、敵と遭遇した際に戦闘を行わなければならないからです。
敵とは赤アリ人間たちです。
ちなみに、エルピージョたちは黒アリ人間。
「ああ~あ…なんで、こんな退屈な仕事なんだろう?僕だって、外の世界で立派にやっていけるのに。赤アリの奴らなんて怖くはないさ。たとえ、戦闘で命を落としたって、それはそれで本望さ」
単調な仕わけと荷物運びを淡々とこなしながら、エルピージョは誰に聞かせるともなく言いました。あえて言うなら、自分自身に語って聞かせていたのです。
たまたま、それを耳にしていた同僚の黒アリ人間が声を荒げて言いました。
「バカなコトを言うんじゃない!オレらは恵まれてるんだ!戦場から遠く離れた場所で安全に働いて、おまんま食って生きていける。命を粗末にするようなコトを言うもんじゃないぞ!」
けれども、エルピージョはそんな同僚の言葉など、屁とも思いませんでした。
(フン。なんて臆病な奴なんだ。こんな暗い穴ぐらで一生を終えるだなんて。考えただけでも頭が痛くなってくる。そんな一生を過ごすくらいなら、戦場で戦ってはなばなしく散った方がまだマシってもんだ!)
心の中でエルピージョはそう思いましたが、口には出しませんでした。
*
そんなある日、願ってもないチャンスが訪れます。
食糧調達部隊に欠員が出たのです。
「最近、赤アリ軍団との戦いが激化しておる!我が軍も、なお一層の戦力を整えねばならん!そこで志願兵を募集することとなった」と、部隊長が声高らかに叫んでいます。
「この中に『我こそは!』という者はおらんか?」
エルピージョは、隊長の声かけに、真っ先に手を上げました。
「ハイ、ハイ、ハ~イ!ここにいま~す!僕です!僕が戦闘に参加しま~す!」
その言葉を聞いて、同僚の黒アリはチッと舌打ちをしました。
(バカな奴。わざわざ死にに出て行くとは…)と、同僚は心の中で思いました。
「フム。感心な若者だ。名は?」と、部隊長はたずねます。
「エルピージョ。エルピージョですッ!」
「そうか。では、お前は今日から“命知らずのエルピージョ”と名乗るがいい。ついて来い!」
「ハイッ!ありがとうございます!」
そう言って、エルピージョは食糧調達部隊を守る警備隊の一員となりました。
*
それから、しばらくの間は、訓練が続きました。
いくら勇敢だとはいっても、戦闘経験の全くない若者をいきなり戦場に連れ出すわけにもいかなかったからです。
エルピージョの他にも新人の訓練兵が何人もいました。
彼と同じようにみずから志願した者。そうではなく、無理矢理参加させられた者。家族のために仕方がなく兵士となった者などなど様々です。
この時代、戦争とはいっても、武器はまだ原始的で、主に槍や弓矢などを使用していました。
おっと。そろそろお時間となったようです。では、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




