~第707夜~「箱の中の世界(その7)」
大自然の中、チラチラと雪が舞う下で、岩風呂につかって会話しているプリオとポステリ。2人とも裸の少女の姿をしています。
「でね。人類がまだ物理的な肉体を持っていた時代。世の中には、お金というモノが流通していて。人々はお金に踊らされて生きていたの」と、ポステリが言いました。
「そういう話は、よく出てくるね。物語にも、過去の歴史資料にも」と、プリオ。
「で、自動生成AIという技術が生まれ、世の中で使われ始めた時代。人々の意見は真っ二つに割れ、論争になった。『これは悪魔の技術だ。使うべきではない!』と激怒する人たちと、『なんて便利な発明なんだ!ぜひとも積極的に活用していくべきだ!』と興味津々の人たちにわかれて」
「フム。それも、よくあるコトだね。新しい技術が誕生するたびに、反対派と賛成派にわかれて激論がかわされる。それが人類にとって本当に必要な画期的発明であれば、大抵は賛成派が勝つようにできているのだけれど」
「もちろん、賛成とも反対とも決めきれない人たちも大勢いた。そういう人たちは、『どちらが正しいのだろうか?』と結論が出るまで静観していたの。ただ、それとは別の勢力も存在していた」
「別の勢力?」と、ここで初めてプリオは意外そうにたずね返しました。
「そう。離れた所から賛成派と反対派の争いを眺めていて、それを利用してた人たちよ」
「利用?どうやって?」
「争いは最高のエンターテインメントよ。物語の多くも、戦争やバトルを主題にしてるでしょ?それは、読者や視聴者が、心の底で争いを望み、楽しんでいるから」
「フム…一理あるかも」と、少女の姿をしたプリオはアゴに手をやって考えます。
「当時、世界には“まとめサイト”というモノが存在していたの」
「まとめサイト?」
「世の中の人たちの発言をまとめ、時には自分の都合のよいように切り貼りして、読者に伝える役割をになっていた人たち。その代わり広告を見てもらって、それで収入を得ていたの」
「へ~、おもしろいモノがあったんだね。古代の世界には」
「もっといえば、ジャーナリストもこの一種だった。テレビとか新聞とか雑誌とか、インターネットの記事なんかを書いていた人たち。そういうお仕事」
「なるほど。そうやって金を稼いでいたわけか」
「その通り。ただし、ジャーナリズムは『より事実に即し、可能な限り正確に、人々に物事を伝える』という使命があったの」
「けど、そこは人間がやるコトだから、もちろん個人的な思想や感情も入り込んでたんだろ?」
「それはね。コンピューターとは違うから。いえ、当時のコンピューターはまだ未熟で、どちらかといえば人間に近いモノだったの。ミスもすれば、意図せず誤った情報も伝える。それって、人間の感情っぽくない?」
「ウ~ン…感情とは違うかもしれないけど、実に人間っぽいね」
「で、自動生成AIが普及し始めた直後には、賛成派と反対派をあおって議論を加速させ、おもしろおかしく記事に仕立て上げてお金を稼いでいた人たちがたくさんいたってわけ」
「なるほど。ポステリ、君の言いたいコトがだいぶわかってきたよ。僕らにも、それをやれってわけだね?」
「そうよ、プリオ。別の世界に新しい生物を作って、同じ種族同士を戦わせるの。それって、最高に楽しい遊びになると思わない?永遠の退屈しのぎになるんじゃない?」
「それは考えつかなかったな。同じ種族同士を戦わせ続ける…か。そして、飽きてきたら、新しい技術や文明を与えてやり、より強力な戦闘を行わせる…」
「実は、このアイデアも、データベースにあった遠い昔の物語からヒントを得たの」
「どんな物語?」
「遠い昔に“悪い魔王が世界を支配していて、勇者たちが立ち上がって魔王を倒す”って物語が流行っていた時期があったの」
「それで?」
「それで、実は魔王は永遠の命を持っていて、退屈のあまりわざと戦争を起こさせるようなコトをしていた。つまり、自分と勇者が戦うコト自体、魔王が書いたシナリオだったってわけ」
「永遠の命を持っていて退屈していた…まるで、僕らだ。じゃ、さしずめ僕らは魔王ってわけだ」
「でしょ?けど、物語には別のバージョンもあって、魔王も勇者も真実は知らされていなかった。実は、裏で糸を引いていたのは“神様”で。神様が退屈のあまり、2つの勢力に力を与えて戦わせてたってわけ」
「そのストーリーに従うなら、僕らは神様になるのか…」
「そういうコト。どう?魔王ごっこでも神様ごっこでも構わないけど、2つの勢力に拮抗した力を与えて争わせるってアイデアは悪くないと思わない?」
「悪くないどころか、おもしろい!最高だよ!まさしく最高のエンターテインメントだ!」
「じゃ、さっそく始めましょうか。まずは、どんな世界にどんな種族を生み出すか…から考えないと」
こうして、プリオとポステリは新世界を創造し、住民たちを争わせることに決めました。
この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




