~第704夜~「箱の中の世界(その4)」
プリオとポステリを乗せたバスは、隣の街へと到着しました。
バスは2人を降ろすと、元いた街へと帰っていきました。きっと、誰かが存在を消すまで永遠に2つの街を往復し続けるのでしょう。
「さて、次はどうするの?」と、たずねるポステリ。
「まだ決めてない」と答えるプリオ。
「じゃあ、とりあえずその辺をブラブラしましょう」
「そうだね」
隣の街は、元いた街と大差ありません。
住民たちが好き勝手なデザインの家を建て、勝手に住んでいるだけ。公園もあればプールもあります。必要な施設があれば、その都度、誰か思いついた人が生み出すだけ。
この世界では、全員にその権利が与えられています。
何をやっても構わないし、何もしなくても構わない。究極の自由が与えられた世界。そうして、散々やりたい放題やって飽きた人から消滅していく。
そんな世界で、多くの人たちは刺激を求めていました。
けれども、目の前で“楽しい”とか“かわいい”とか“おいしい”とか“気持ちいい”とか感じるだけでは、すぐに飽きてしまいます。
そこで、世の中には物事を深く考えたり、長い目で見た時に役に立つモノを生み出そうとする人たちも出てきました。
そうでもしないと、生きていけないのです。
人生は永遠の退屈しのぎ。退屈を感じ、限界に達した者は、この世界を去るしかありません。
人々は、退屈に追いつかれないように、常に新しい遊びや文化を生み出すことに懸命でした。
*
2人が歩いていると、近所の住民たちがアクションゲームを作って遊んでいるところに出くわしました。
空き地に立体的なダンジョンを作って、その中を探検して回るのです。
ダンジョンの中には、数々のトラップが仕掛けてあり、トラップにハマると死んでしまいます。
もちろん、完全に死んでしまうわけではなく、元のデータが残っている限り肉体は何度でも再生できます。
「おもしろそうね。ちょっとやっていきましょうか」と、ポステリが提案します。
「この手のゲームは散々やり尽くしたんだけど…ま、いっか。他にやるようなコトもないし」と、プリオも同意します。
この世界にはお金が存在していないので、チケットを購入する必要はありません。
ただ、順番を待って参加するだけ。公園で行儀よくルールを守ってすべり台を楽しむ子供たちのように。
住民たちに混じって並んでいると、プリオとポステリの番がやって来ました。
ダンジョンの中に入ると、中は暗がりでうっすらと灯りがともっているだけ。
灯りは超古代に存在していたオイルランタンです。
「へ~、結構しゃれたデザインをしてるじゃないか」と、最初は入るのを渋っていたプリオも感心しています。
「見て。こっちの石壁の素材。10世紀以前に存在していた城壁を参考にしてるのよ。よく勉強してるわね」と、石の壁をサワサワとさわりながらポステリも言いました。
ダンジョンの中では、大型のコウモリのバケモノや、鎧の兵士などが襲ってきます。
2人は敵が現われるたびに、手近にあった武器で戦ったり、機転をきかせて敵を罠にかけたり、攻撃を回避したりして先に進んでいきます。
時には、連続でジャンプして障害をクリアする必要もありますし、ダンジョンに設置されたギミックを、頭を使って動かさなければならないこともあります。
もちろん、この世界では、望めばどのような姿にでもなれるので、背中に翼を生やしたり、とんでもなく強力な魔法を使って敵を倒すこともできるのですが…
それではツマラナイので、みんな普通の人間の姿でゲームを楽しんでいます。
2人は、いいところまで進んでいたのですが、途中に仕掛けられていた落とし穴に落ちて、穴の底に設置されていた針の山に串刺しにされて死んでしまいました。
「ああ~あ、ゲームオーバーだよ」
串刺しにされて血だらけの死体になってから、入り口に戻されたプリオが言いました。
「残念だったわね。快調に進んでたのに」
それから、2人は何度かダンジョンに挑戦し、最後には見事クリアしました。
「おめでとうございます!楽しんでいただけましたか?」と、出口のところで制作者の人が声をかけてきました。
「ええ、なかなかおもしろかったですよ」「雰囲気が出てて、実によくできていました」と、プリオとポステリは答えました。
「それは、よかった。こちらは、ゲームクリアの記念品です。
そう言って、制作者は小型のモンスターの人形を2人に手渡しました。
もちろん、この世界ではなんだって自由自在に生み出せるので、物質的にはあまり意味はありません。けれども、その気持ちがうれしいものなのです。
遠い昔、まだ物が貴重だった時代。自分たちが育てた作物を使って、料理やお団子を作って近所の人にあげると喜ばれました。
文明が進み、自動生成AIによりイラストや音楽が一瞬で作れるようになっても、AIを使って作り出した作品をプレゼントすれば喜ばれました。
それと同じように。
さて、この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




