~第69夜~「魔王の杞憂(その2)」「神様、ご満悦」「風氷将軍ヒュードロス」
魔王となったトマレットは、毎日毎日、呪いのような思考に頭を支配され、常に恐れおののきながら生き続けていました。
あるいは、それこそが本物の「呪い」だったのかも知れません。「死後、決して安息の日々は訪れぬ」と言われた「ソロモンの指輪」
指輪は、死後どころか生前においても、精神を病む呪いをかけていたのかも…
いずれにせよ、トマレットは毎日毎日、悩みと迷いに苦しむ日々を過ごします。
(数々の強大な魔術を身につけ「世界にかなわぬ敵はない」と思い込んでいた。それが、どうだ?いざ、世界征服を開始してはみたものの、世界はあまりにも広すぎる。倒しても倒しても、キリがない。敵は、いくらでも湧いて出てくる)
トマレットは疲れていました。疲れ果てていました。「こんなコト、もうやめてしまおうか?」と、何度考えたでしょうか?
しかし、それを誰も許してはくれません。一度始めた戦いは、行き着くところまで続けるしかないのです。敵も部下も全く関係のない第三者も、誰も彼もが戦い続けることを望むのです。
(こうなったら、本当に世界を征服するか、さもなければ自分が死ぬまで戦うしかない)と、トマレットは悟りました。
そうして、仕方なく戦乱に身を投じ、ますます眠れない日々を過ごすのでした。
*
「神様、ご満悦」
神様は、このところずっと機嫌良く過ごしています。
なぜなら、人間界において「魔王」を名乗る者が現れ、あちこちに戦争を仕掛けているからです。
「良きかな、良きかな。人間とは、こうでなくては♪」
そう言って、神様は天使たちにも笑顔を振りまきます。
神様は人間の「善なる部分も」「悪なる部分も」好きでした。
「世界は完璧な理想郷でなければならない」などと考えはしません。人間の美しい部分も醜い部分も含めて、全て愛しているのです。
あるいは、それこそが「真の愛」というモノかも知れません。人を理想視し、美しい部分だけを愛するだなんて偽物です。そういうのは、人の表面的な部分しか見ていない者のやること。
そういう意味で、神様は誰よりも公平であるとも言えます。
それと同時に、神様は人間のコトに対して無関心でもありました。なにしろ「人間なんてアリンコ程度に過ぎない」と思っているのですから。
生物学者が、アリを飼育して様々な実験・観察をするがごとく、興味の対象であり同時に無関心でもあったのです。
そんなでしたから、今回の件でも次から次へと大量の人が殺されたり、虐待されたり、奴隷化されているのに、神様は笑って眺めているだけでした。むしろ、「もっとやれ!もっとやっちまえ!」と応援する始末。
まるで映画かアニメでも楽しんでいるようです。
いえ、神様にとっては、人間界の観察こそが、まさに「娯楽そのもの」でした。
悠久の時を生き続けてきた神様にとって、もはやそれくらいしか楽しみがなかったのです。
イジワルに思えるかも知れませんが、それが神様の選んだ道であり、進化の形。人間から見れば「狂っている」としか言いようがなかったとしても…
食べたり飲んだりする必要もなく(その気になれば、お酒を飲んだりごちそうを食べたりはできますが…)、ありとあらゆる快楽を経験した神様が、最後にたどり着いた究極の娯楽。それが「人間育成ゲーム」
人間たちが平和に暮らし、文明を発展させていければ、それもよし。人間同士でいがみ合い、殺し合い、大きな戦争になっていけば、それもまたよし。いずれにしろ、神様は満足するのです。
もちろん、今回のように魔王が誕生したり、戦争が起きた方が、この神様にとっては喜びが大きいみたいですけどね。
あまりにも退屈な日々が長く続くと、神様や天使が直接介入することもあります。
巨大な地震を起こしたり、大津波で世界を水没させたり、凶悪ウイルスをばらまいてみたり。でも、今回はそうではありませんでした。神様自身は、なんの介入もしていません。
あえていうならば、遠い昔に天使に持たせて地上の王に渡した「ソロモンの指輪」が影響したくらい。あ、それと、20年ほど前に「地球と異世界の間に道を作ったコト」ですね。あとは、自然の成り行きにまかせていただけ。
あまりに直接介入し過ぎると、ゲームも楽しくなくなってしまいますからね。
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「風氷将軍ヒュードロス」
魔王トマレットが眠れない日々を過ごす一方で、ルビアルス連邦には続々と優秀な人材が集まってきていました。どのような戦乱の世であろうとも、地位や名誉・金を求めてやって来る人間というのはいるものです。
その光景は、まるで、甘い蜜に誘われて花に集まる昆虫を思わせます。
「風氷将軍ヒュードロス」も、その内のひとり。
ヒュードロスは、魔族の出身で、見た目の醜悪さから子供の頃からいじめられてばかり。その恨みのパワーは、彼を強大な力を持つ大人の戦士へと成長させてくれました。
何ごとも考えようですね。「ツライ」と感じていた思い出が、人を強くもしてくれるし、成長させてもくれるのです。
おっと。そろそろ時間が来たようですね。
では、この続きは、また明日の夜に…




