~第63夜~「夜脇ケンジと美野先アカリ」
「夜脇ケンジと美野先アカリ」
地球と異世界の間に道ができて、地球にも魔法文明が導入され、いろいろと便利な世界になりました。
たとえば「魔力で空を飛ぶ車」が登場したり、火種もなしに炎を起こしたり。以前にもお話ししたように、医学魔法が飛躍的に向上し人々の生活に浸透したり。
その一方で、困ったコトも起こります。
たとえば、道を歩いていて気に入らない態度の人と出会ったら、魔法で攻撃するという事件が頻発します。特に小中学生を中心に。もちろん、これは犯罪です。けれども、分別のつかない子供たちは、学校で習った魔法を安易に使ってしまうのでした。
以前であれば、大人や体格のいい人が有利でした。目が合っただけ、肩がぶつかっただけでイチャモンをつけてくるガラの悪い人もいましたが、大抵は力の強い方が勝つようになっていました。ところが、魔法の登場で、体格や力の強さに関係なく勝てるようになってしまいました。いわば、逆転現象が起きたわけです。
ほら、ここにもそんな小学生たちが。
「ヒャッハ~!こいつ、弱いんでやんの!」
「オラオラオラ、オレたちに勝てると思ってんのかぁ?」
「見ろよ、コイツ。ビビッてるぜ」
「やめさいよぉ。力もない大人をいじめるなんて、かっこ悪いわよ~」と注意してり女子まで、顔はニヤニヤと笑っています。
小学生の持つ杖の先から発せられている炎であぶられて、気弱そうな青年が困っています。
「や、やめてください。そういうの犯罪ですから」
その言葉を聞いて、子供たちは余計に調子に乗ります。
「犯罪だぁ?」
「オレたちゃ、わざとやってんの」
「そんなコトは百も承知なんだぉ」
…といった具合で、ますます調子に乗るばかり。
そこに1人の女子校生が現れます。
少年たちの前に躍り出ると、手にした杖をパッと降り、子供たちを吹き飛ばします。疾風の魔法です。
「うわ~」「ウヘェ」「ムギュゥ」などと情けない声をあげ、小学生の男の子たちは後ろに倒れ込みます。
「なにやってんのよ、アンタたち!魔法も使えないよっわいよっわい人間相手に!恥を知りなさい!恥を!」
若き女性の言葉に、気弱そうな青年も心が傷つきます。
「魔法も使えないよっわいよっわい人間って…」
「アラ、ごめんなさい。ちょっと言い過ぎたかしら?オッホッホッホ」と女子校生はごまかします。
「ま、いいんだけどね。ほんとのコトだから」
そう答えた気弱そうな男の名前は「夜脇ケンジ」
「アッハッハ!自分で言うなって!」
笑いながら、夜脇青年の背中をバンバン叩いている威勢のいい女子校生は「美野先アカリ」
ふたりは、この時のコトで仲良くなります。
「アンタたちも、もう大人をいじめるんじゃないよ!いくら魔法が使えるようになったからって、いい気になってたら、今にしっぺ返しを食う時が来るんだからね!」
アカリの言葉を聞いて、尻もちをついていた少年たちは「は~い」と、しおらしく返事をしたあと、友達の女の子を連れてトボトボと去って行きました。
夜脇青年は、そんなアカリの姿を見て、心臓がドキリンコと脈打つのを感じました。一瞬で恋をしてしまったのです。
もちろん、そのような気持ち、おくびにも出しません。いえ、出していないつもりでした。けれども、挙動不審な態度で気持ちが表に出てしまいます。
「ど、ど、ど、どうもありがとう。た、た、た、助けてくれて」
そんな夜脇青年の態度を見ても、アカリはフツーに答えるだけでした。
「いやいや、どういたしまして。どういたしまして」
相当に鈍い女の子だったんですね~
でも、そんなコトがあってから、夜脇青年は自分でも魔法の勉強を始めることにしました。
性格的にも攻撃魔法には向いていませんでしたが、仲間を守る防御魔法やサポート魔法にはうってつけ!グングンと腕を上げていきます。
魔法というのは、資質や経験で成長度が変わります。向いていない魔法をどんなに一生懸命に学んでも、なかなか上達はしません。逆に、自らの資質に合っている魔法を修行すれば、短期間でも急激に能力が伸びていきます。
このコトは、地球に魔法文明が持ち込まれてすぐに発覚し、学校や魔法研究所でも、この方針に従って指導が進められています。
元々、一般企業で働いていた夜脇青年ですが、サポート魔法の使い手になったコトから「魔法塾」の講師に転職します。
この時代、高齢者を中心に、魔法習得が苦手な人が大勢いました。そういった人たちに向けて、初心者向けの魔法講座が開かれていたのです。英会話やパソコンスクールみたいなモノですね。
夜脇青年は、前線に出て戦うのは苦手でしたが、講師には向いていました。
世の中にはいろいろな職業の人たちがいるんです。一口に「魔法」と言っても、属性やジャンルは様々。人によって向き不向きもあります。モンスターと戦闘するだけが魔法使いの仕事ではありません。
地球と異世界がつながることにより、文明の化学反応が起き、魔法に関する職業も幅広くなりました。異種混合魔法文明が一気に花開いたのです。
そろそろ夜が明ける時間となりました。
それでは、この続きは、また明日の夜といたしましょう。




