~第62夜~「ルチルガさんと保育園(その2)」
大商人メルキデウスが以前の取り引き(第35~37夜)で、思わぬ大金を手に入れたおかげで、近所に保育園を建てることができました。
おかげで、ルチルガさんが引き取った子供たち(第43~46夜)も、安心して預かってもらうことができるのです。
「それにしたって、憎むべきはグラベートの野郎よ!」
グラベートというのは、背の低い背中の曲がった男で、ルチルガさんに仕事を回してくれるありがたい存在であります。けれども、同時にやっかい事を持ち込む、ありがた迷惑な存在でもあるのです。
「え?何かおっしゃいましたか?」と、ルチルガさんの独り言を耳にしたアヴィールが尋ねます。
「オホホホホ。いえいえ、なんでもないのよ。あなたは、しっかりと子供たちの面倒をみてくれれば、それで」
「わかりました。では、いってらっしゃいませ~」
そう言われて、ルチルガさんはトボトボと冒険に出かけます。
グラベートの罠にはまり、20人近くの子供たちの世話をさせられることになったルチルガさん。お金を稼がないといけないのです。子供は食欲旺盛です。食費だけでも、毎月結構なお金が飛んでいくのでした。
「まったく、お金がかかるったらありゃしないわ。おかげで新装備も、ちっとも買えやしないし…」
ブツクサ言いながら、近所の魔物が巣くう森へと出かけていくルチルガさん。
ルチルガさんは魔法剣士なので、主に武器や防具にお金がかかります。最近は、魔物も急激に凶暴化し、それに伴って「スライム融合型防具」などの新商品も次々と発売されています。
けれども、子供たちの養育費に全部吸い取られてしまうルチルガさんからすると、手の届かない高嶺の花ばかりでした。
なので、旧装備でがんばって魔物退治にいそしむ日々。
ただし、魔物が凶暴化したことで良いコトもありました。報酬額が格段に上がったのです。それに引きずられるように生活費も上がっていきます。
魔物が凶暴化する → 装備にお金がかかるようになる →報酬額が上がる → 世の中が全体的にインフレ化する
この繰り返しで、どんどん物価が上昇しています。
よいのか悪いのかわからないけれど、異世界では、物価上昇のスパイラルに突入していたのです。
「はぁ…」と、ため息をつきながら、一体、また一体と魔物を撃破していくルチルガさん。いくら凶暴化したとはいえ、この程度ならば、敵ではありません。こう見えて、ルチルガさん結構強いんです。
地球に住んでいた頃は、しがない会社員で、つまらない事務だとか雑用だとかの作業をこなすだけの日々でした。それが異世界に移住してきてから才能が一気に開花します。もしかしたら、地球時代のうっぷんを晴らすことで、自然にレベルが上がっていったのかも知れません。
いずれにしても、結構優秀な部類に入ります。無数にいる冒険者の中でも「中の上」から「上級者の端くれ」くらいには位置するでしょう。なので、旧式の装備でも余裕で魔物たちと戦えているのです。
そもそも「魔法剣士」という職業自体、それなりのセンスを必要とします。だって「剣士」で「魔法も使える」んですよ?両方の資質がなければ、やっていけないに決まってるじゃないですか!
「それにしても、あの子たちもかわいそうなものよね…」と言いながら、次の魔物の頭を剣でなぎ払うルチルガさん。頭は弾け飛びます。
「あの子たち」というのは、もちろんグラベートにハメられて引き取ることになった子供たちのコトです。以前に、あるお屋敷に侵入して吸血鬼退治をした時に、やむなくルチルガさんが面倒を見ることになってしまったのです。
吸血鬼(ウトピアベリー伯爵)が誘拐してきた子のほとんどは、貧しい家の出でした。なので、「いなくなってくれて助かった!」と思っている親も多く、当然、引き取りには来ません。中には、口減らしのために「あえて『人買い』に売り払った」という親も何人もいました。
みんな貧乏が悪いのです。お金がなければ子供だって育てられません。育てられもしないのに、なぜ産んだのかって?
ウ~ン…ま、その辺はいろいろと事情があるのでしょう。気持ちいいコトしたら、勝手に生まれちゃったとか。
ルチルガさんには、その辺の事情はわかりませんでしたが、それでも「私には関係ないわ!」と無下に放置することもできませんでした。そういうとこ、やさしいのです。
結果、20人近くの子供たちを預かり、食いぶちを稼ぐ日々。
ただ、ルチルガさんとしても、そんな日々を心のどこかで楽しんでいる節もあります。少なくとも、地球に残りつまらない労働の日々に明け暮れているよりかは遙かにマシでした。
なんというか「生きていく目的」のようなモノを得られたからです。
人間、目的もなく生き続けるのはツライですからね。
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「異世界に移住して、幸せになった人も多いのね」と、シェヘラザード。
「そうですね。元々は神様の気まぐれでつながった地球と異世界2つの世界ですけど、それにより何かを得た人もたくさんいたんです。物理的な利益も、心の幸せも」
「そう考えると、2つの世界に道ができたのは、悪いコトじゃなかったんじゃないの?」
「どうでしょうね?人にもよるかも。『急激な進歩』というのは、人を幸せにもするけど、不幸にもするんです。時代の流れに上手く乗れた人からすれば最高でしょうけど、置いてけぼりになった人からすると『神様はなんて余計なコトをしてくれたんだ!』と憤ってもおかしくはないでしょうね」
ここで今夜の話は打ち切りにして、次の物語は明日語ることにした。




