~第56夜~「悪意に魂が宿った人間」「異世界ライトノベラー」
「悪意に魂が宿った人間」
地球の日本という国に、ひとりの引きこもりがいました。
引きこもりは、ずっと自分の部屋に閉じこもり、トイレの時くらいにしか部屋を出ません。お風呂にも滅多に入りませんでした。
彼は、自分の好きなモノだけを愛し、自分の好きなモノだけに没頭しまし、それ以外のモノは全部メチャクチャに攻撃しまくりました。完全に誹謗中傷というヤツです。
部屋の中に閉じこもり、本名を隠してインターネット上で見ず知らずの他人を攻撃する行為は、実にスッキリします!まるで、神にでもなった気分です。
謎の全能感と高揚感は、部屋の中にいる時の彼を幸せにもしましたが、同時に不幸にもします。部屋から1歩でも出れば、完全に無力なのです。世界中の誰にも勝つことはできません。彼は、そのコトが許せませんでした。
自分が無力であるというコトを決して認めず、インターネット上で自分を攻撃する者には全力で刃向かって反撃します。まるで、狂犬のごとく。
魂に悪意が宿っているのではなく、悪意に魂が宿ったような人間でした。最初に悪意があって、そのあと、人として生まれてきたのです。
そんな人間に存在価値はあるか?って。
わかりません。わからないけれど、現実の世界に住む人のほとんどは「価値なし」と判断するでしょう。中には「さっさと死んでしまえ」とさえ考える人もいるかも知れません。
わずかな人たちは、手を差し伸べ、彼を救おうとするかも知れません。慈善家とか、偽善者とか、あるいは真の博愛主義者ならば。その試みが成功するかどうかはわかりませんけどね。ま、おそらくは失敗するでしょう。
ほとほと困り果てた両親は、最終手段として彼を「引きこもり強制更生団」へと送り込みます。この組織は、彼のようにどうしようもないクズ人間を異世界へと送り込み、立派な冒険者として更生させてくれるのです。
もちろん、その過程で死亡したり廃人化してしまう者もいましたが、意外と更生率は高く、70%以上を誇っていました。
ただし、立派な冒険者となっても、地球に戻ってくる者は、まれでしたけどね。ほとんど、そのまま異世界で暮らし続けます。そりゃ、そうです。地球に戻ってきたって何もできない引きこもりに逆戻り。そのまま異世界で冒険者として荒稼ぎする方が幸せに決まっています。
話を元に戻しましょう。
両親によって強制的に引き渡された男は、異世界でもやはり役立たずでした。モンスターと対峙しても逃げ出すばかり。口ばかり。他の冒険者たちからも散々にバカにされます。彼は、ここでも落ちこぼれだったのです。
そんな人間に生きる場所はあるのでしょうか?
それがあったんですよ!それも、最高の環境が!
縁あって、彼はロイト・ルネバンドール博士の研究所へと送られます。そこで、天才的な才能を発揮することになります!新たな凶悪モンスターや毒物・トラップの数々を生み出すことになるのです。世界が生み出した「悪意の塊」は、人を傷つけることにかけては、誰よりも天才的でした。
やがて、ロイト・ルネバンドール博士の片腕として、そして後継者として名を馳せるコトとなってゆくのでした…
*
「異世界ライトノベラー」
ある時、地球のある国、ある街で、ひとりのライトノベル作家が頭を抱えていました。
「グヌヌヌヌ…」
ライトノベル作家は、突然、発狂したように叫び出します。
「ダ~メだ~!アイデアが出てこん!全く出てこん!ちっとも出てこん!枯渇したぁ!アイデアの泉が枯渇しやがったぁ!」
どんなに叫んでもどうしようもありません。彼の才能は枯れ果ててしまっているのですから。
「それも、これも地球と異世界がつながっちまったせいだぁ!」
そう。地球と異世界の間に道ができ、交流が始まっていた、この手のライトノベル作家はみんな頭を抱えながら生活しています。
なぜなら「本物の異世界」が誕生し、「本物の冒険者」や「本物のモンスター」たちとの戦闘が行われるようになったからです。
読者からは「なんてリアリティのない本なんだ」「こんな嘘っぱち、今までよく読んでいられたな」「お前のウソ話は2度と読まん!」などと言われて、廃品回収の古紙にされてしまいました。
出版社が出すファンタジー系ライトノベルも、軒並み売り上げがだだ下がり。返品の嵐と化します。そうして、次から次へと出版社が倒産していきました。
一言で言えば「舐めていた」のです。「どんなくだらない作品でも、紙の本として印刷してしまえば、どこかの初心者ライトノベルファンが買ってくれるだろう」と安易に出版点数を増やし続けた結果でした。
ライトノベルなんて、10作の内9作が駄作でも構わないのです。残り1作がヒットさえすれば、全部元が取れるのですから。
ところが、地球と異世界がつながり「本物のファンタジー世界がどういうモノか?」がバレてしまった今となっては、その「10作に1作のヒット」さえ生まれなくなってしまったのです。
そろそろ夜が明ける時間ですね。
それでは、この続きは、また明日の夜といたしましょう。




