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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
55/1003

~第54夜~「孤児院での暮らし」「漆黒に染まりし者」

「孤児院での暮らし」


 グアリーレが7歳。ドゥップルが6歳。ラカノンが5歳の時です。ラカノンとドゥップルが孤児院にやって来てから2年以上の月日が経過していました。

 グアリーレに引き取り手が現れます。「母親になってもいい」と申し出たのは、街でも評判の「白き魔女」と呼ばれたセアラ・ヴァレットでした。


 セアラは街の近くの森に住んでおり、家族もなく人々のために尽くす日々を過ごしています。白き魔女の名の通り、傷ついた人や病気になった人の助けをしながら生きているのです。ま、簡単に言えば「お医者さん」ですね。


 引き取り手が現れたことは喜ばしいことではありましたが、ラカノンとドゥップルのふたりにとっては寂しい出来事でもありました。この2年間、まるで姉弟のように暮らしてきたのですから。

 それでも、ふたりは笑顔で見送ります。当のグアリーレは、終始ブスッとした表情で不満そうでしたけどね。


 その後、さらに7年間を孤児院で過ごしたふたり。

 引き取り手のなかったふたりが孤児院を脱出したのは、ドゥップルが15歳。ラカノンが14歳の時でした。

 けれども、それはまた別のお話。時が来たらお話しするといたしましょう。


         *


「漆黒に染まりし者」


 ある時、ある世界で…いえ、「ある世界で」ではありません。ある時、地球において、ひとりの人間が生まれました。

 その人間は、性別でいえば男。けれども、生物学上の男女は、あまり関係ありません。心は女でもあり、男でもあり、どちらでもないと言えましたから。

 そもそも性別自体重要ではありません。

 重要なのは、その人間が「生まれながらの悪ではなかった」という点にあります。生まれた瞬間には、白でもなく黒でもなく灰色でもありませんでした。ただ純粋に無色透明。

 では、なぜ彼が黒になったのか?

 全ては「固定観念の成せる(わざ)」にございます。


 最初、母親は少年を「理想の人間」に育てようとしました。その目論見は、途中までは順調に進んでいました。ところが、「強過ぎる理想」というのは得てして破綻しがちな者でありまして、この母子の場合も例外なく「理想の人間育成計画」は物の見事に破綻してしまいます。


 そうして、少年は反発します。「真っ白に育ててやろう!」という想いが強過ぎて、今度は逆に「真っ黒に」成長していったのです。どこまでもどこまで深き闇のごとく。


 天から(しずく)がしたたり落ちてきて、水面に落下したシーンを思い浮かべて見てください。

 雫も水面もどちらも透明な液体でできていたとしたら?その場合、雫は水中に溶け込んで見えなくなってしまいますよね?

 では、雫は「真っ赤な血液」で、水面だけ透明だったとしたら?今度は、透明な水中にパ~ッと赤い色が広がっていくことでしょう。

 さらに、雫の色が闇色で、水面が透明だったとしたら?あるいは、真っ白な牛乳のような液体でも構いません。この場合、墨汁のような闇が水中へと広がっていくことでしょう。

 雫が1滴、2滴の内はまだよいとして、100滴、1000滴、万滴と天から落ちてきたとしたら?きっと、地上にたたえられた水は闇の色へと染まっていくはず。最初が透明であろうが純白であろうが、いずれは漆黒色にそまっていくはずでしょう?


 少年の人生は、それと同じでした。

 この世に生まれ落ちた瞬間は透明であったのに、やがて真っ白になり、真っ黒になった。

 そんな人間が、この世界で一体何をするでしょう?


 そう!

「世界を滅ぼそう!」と考えたんです。神にも匹敵する力を持ってして。

 はからずも、かつて神様が望んだように「自分と同じだけの能力を持つ者」をこの世界に生み出してしまったのです。「敵であり、ライバルであり、友人である存在」を…

 いいえ、能力的には全く同じではありませんでした。ある点では神には遙か及びませんでしたが、別の部分では神をも凌駕(りょうが)してしまっていたのです!


 少年は大人になって、自らを「悪魔」と名乗るようになりました。

 そうして、必要なのは「戦闘能力」だと信じ、世界の端から魔法を覚えていきました。戦闘において役に立つなら、どんなコトでもやりました。

 彼自身、自分では「努力なんて大嫌いだ!一生懸命にがんばるなんてクソの役にも立たない!」などとうそぶいていましたが、それを努力と呼ばずして何と呼ぶのでしょう?

 そういう意味では、天才魔術師と呼ばれたスズキイチローくんと同じでした。そんなものは努力でもなんでもなく「ただ楽しいからやっていただけなのだ」と。

 きっと、それも1つの固定観念であり、信念であったのでしょう。


 時が経ち、戦闘においてその悪魔には誰も勝てなくなります。基本能力が非常に高かった上、応用技や誰も知らないような強大な魔法を無数に扱えたからです。

 やがて、人々は彼のコトを「伝説の悪魔」と呼ぶようになりました。


 さて、今夜もそろそろ時間となったようです。

 この続きは、また明日の夜といたしましょう。

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