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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
54/1003

~第53夜~「生き残ったウンディーネ(その2)」

 愛する男との間に赤ん坊を身ごもっていたウンディーネ。殺す必要のない人を手にかけてしまい、後悔します。それも、全然関係のない街の人たちまで含めて。

 けれども、覆水盆に返らず。今さら後悔などしても仕方がありません。


 愛する人との間に赤ん坊ができ、人間になったウンディーネは、名前を決めます。人間として生きるための名前です。

 アイーラ。アイーラ・シーズリー。それが人としての名前でした。

 生まれてきた子にも名前をつけます。生まれてきたのは男の子でした。そこで、男の子らしく「ラカノン」と名づけます。ラカノン・シーズリー。それが、愛する我が子の名。


 アイーラとラカノンは、人間の社会に溶け込みながら暮らし始めます。

 ところが、これが意外と大変でした。元ウンディーネであったアイーラは、人間として生きるコトが、いかに過酷かしらなかったのです。

 人として生きるには、食べる物が必要です。住むところも要ります。そのためには、お金を手に入れなければなりません。お金を稼ぐには働かなければ!


 それまでウンディーネとして自由気ままに生きてきたアイーラにとって、「一生懸命マジメに働く」なんて、苦痛以外の何ものでもありません。

 最初は、マジメに市場の売り子などをやって日銭を稼いでいたアイーラですが、すぐに飽きてしまい、夜の仕事に転向します。これならば、男の人と一緒にお酒を飲みながら楽しくおしゃべるするだけなので、どうにかこなせます。

 もちろん、どんな仕事にもツラい日はありますし、泣きたくなるような出来事もたくさん起こりました。それでも、市場の売り子として単純作業に従事するよりかはマシでした。


 そうこうしている内に、アイーラは家に帰らなくなってきます。仕事先で知り合った男と出歩くようになったからです。

 ひとり家に残されたラカノンは、毎日、泣きながら暮らします。

 昼間は、雇われのベビーシッターがやって来てくれたので寂しくはありませんでしたが、夜になるとひとりぼっち。誰も面倒をみてくれません。お昼の間にベビーシッターが作ってくれた夕食(それも、完全に冷めてしまっている)を口にし、飢えをしのぎます。それが終わると、何もすることがなく、ただボ~ッと闇を眺めながら眠くなるのを待つだけでした。


「お母さん、早く帰ってきて。お母さん、どうして僕はいつもひとりぼっちなの?」

 ラカノンは物心ついた時から、そんな風に考えながら暮らします。


 ちょうどこの頃、地球と異世界の間に道ができて、異世界にも新しい文化がガンガン流入して生きていました。

 「個籍(戸籍ではなく個籍。個人の情報を記した帳簿を国が管理)」が作られ、異世界においても、一括で国がデータ管理する時代に突入しています。

 ラカノンの境遇を(うれ)えて、誰かが通報したのでしょう。「児童保護局」の人がやって来て、幼い子供ひとりが置き去りにされている惨状を目の当たりにします。


「もう!まったく!なんて酷い母親なのかしら!」


 児童保護局で働いていたルトゥーラという若い女性が文句を垂れています。

 ルトゥーラは、さっそくラカノンを引き取ると、児童養護施設へと連れて行きました。保護されたラカノンは、似たような境遇の子たちと一緒に暮らし始めます。


 最初は戸惑っていたラカノンですが、時と共に周りの子たちにも打ち解けていきます。

「君も、親がいないの?」と、同部屋になった男の子が話しかけてきました。

 この時、ラカノンは若干3歳を越えたばかり。話しかけてきた子は、4~5歳といったところ。

「僕にはお母さんがいるよ。家には帰ってこないけどね」

「そっか、ならいいね。僕の方はお父さんお母さんもいないから」と、相手の子が答えます。

 この時に話しかけてきた子は、ドゥップルという名で、のちにラカノンの親友となります。この時には、そんなコト、ふたりとも(つゆ)と知りませんでしたけどね。


         *


 ドゥップルとラカノンは、児童保護施設での保護期間を終えても保護者が引き取りに来なかったので、ふたりとも孤児院へと移送されます。

 孤児院には、やはり似たような境遇の子たちが何人もいて、その内のひとりは「グアリーレ」という名の女の子でした。


 グアリーレは、なんだか暗い雰囲気の女の子で、年齢はドゥップルよりもさらに1つ上でした。口数も少なく、いつも死にたがっているような子でした。


「アタシ、なんでこんなところにいるんだろう?なんで生まれてきちゃったんだろう?」

 そんな風によくつぶやいていました。

 もっとも、孤児院にはそういう子は何人もいましたけどね。そりゃ、そうです。せっかくこの世に生を受けたのに、楽しいコトなんて何ひとつなく、親や親戚にも見捨てられて、こんな空間に放り込まれているんですから。


 それでも、ラカノンとドゥップルのふたりは、孤児の割には明るく振る舞っていましたし、グアリーレもどうにかこうにかこの世界にしがみついて生きながらえていました。


 ちょっとばかし暗いお話になってしまいましたが、そろそろお時間が来たようです。

 それでは、この続きは、また明日の晩といたしましょう。

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