~第52夜~「赤い着物のリリオルナ」「真っ白な部屋の少年」「生き残ったウンディーネ」
「赤い着物のリリオルナ」
ある世界ある街を、ひとりの女が歩いています。女は真っ赤な着物を着ていて、着物には、あでやかな花の模様が。
そんなでしたから、女は街でも評判で、狙っている男はいくらでもおりました。
女の名は、リリオルナ。
いつも街の中を目的もなくふらりふらりと歩いておりました。
「どこか頭がおかしいのではないか?」「せっかく見た目は美しいのに、もったいない」などと街の人々はウワサします。
ところが、リリオルナは、ある瞬間パッと男を捕まえるのでございます。まるで野生のカエルがベロを伸ばしてハエを捕食するかのごとく。それは、もう見事なものにございました。
捕らえられた男は、もう虜。最初はどんなに剛毅な男であったとしても、リリオルナの魅力にはあらがえません。数日もすれば、完全に操り人形のようになってしまうのでした。
不思議なコトに、リリオルナの魅力に取り憑かれた者たちは、皆、何らかの犯罪を犯します。それが、スリや物取り程度ならよいのですが、押し込み強盗の末に人をあやめたり、通り魔と化してしまうことも少なくありません。
さすがに人々もいぶかしがり、リリオルナを捕らえようとし始めます。すると、決まって誰かしらがやって来て彼女の身を守ろうとします。
「このように美しい者を傷つけてはならん!」というわけです。
そうして、ついに街は二分され、住民総出で争うようになります。こうなると、もうダメ。ふらりと姿を消し、リリオルナはどこにも見当たりません。次の街へと旅立ってしまったあと。
そのような行為を何度繰り返したでしょうか?
魔性の女は、ついに自分の居場所を見つけます。それはある国の王宮でありました。
リリオルナは、いつものごとく謎のオーラで王を魅了します。そうして、王を骨抜きにすると、自分は王宮の奥へと引きこもりました。ここが世界で一番安全な「巣」となったのです。
その後、王は圧政を敷き、国民は苦しんだ末、革命の道を選択します。その際、いずこかよりふらりとやって来た「革命の女神」が手を貸し、戦乱の世へと突入していくのですが…
それは、また別のお話。
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「真っ白な部屋の少年」
少年は、気づくと真っ白な部屋の中にいました。
そうして、「ここは、どこだろう?」と不思議に思います。
(どこかで味わったコトのある感覚。懐かしい…)
でも、どこだかは思い出せません。ただ、とても居心地がよく。いつまでもいつまでも、この世界で暮らしたいなと思うだけでした。
やがて、少年は何もない真っ白な部屋を寂しく思うようになり、部屋の中にいろいろな物を置くようになっていきます。
素敵なデザインの家具。観葉植物。タンスの中には、色とりどりの服をそろえます。床いっぱいにNゲージの線路を引き、線路の上には機関車を。もちろん、ちゃんと自走するヤツです。
ふかふかのソファ。クイーンサイズのベッド。大型の超薄型液晶テレビに9.1chの音響設備。最新のゲーム機に各種ソフト。もちろん、巨大な本棚には一生かけても読み切れないほどの本がズラリと並んでいます。
実は、部屋の中にいたのは、この少年だけではありませんでした。
世界中に似たような部屋が無数に存在していて、何千万、何億という少年少女が自分の部屋で暮らし続けています。ただし、部屋の色は白とは限らず、紫、黒、赤、灰色、透明、虹色、サイケデリックなグラフィックアートの描かれた部屋もあります。
そこはお母さんのお腹の中だったのです。子供たちはみんな、お母さんのお腹の中で、様々な空想にひたりながら成長を続けています。部屋の中で見た夢は、外の世界に生まれて出てから、現実に経験するコトばかり。
だから、お母さんのお腹の中で限界いっぱいまで夢を見る必要がある。そうしなければ、退屈でつまらない人生になってしまうから。
ただし、冒頭の少年だけは違っていました。
いつまでもいつまでも、この居心地のいい部屋で夢見ながら眠り続けましたとさ。
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「生き残ったウンディーネ」
ある世界に、1匹のウンディーネが住んでいました。
ウンディーネというのは水の精霊で、たいていは美しい女性の姿をしています。
人間の男と恋をして、男が別の女のもとに走った時、ある誓いを守らなければなりません。「愛した男を殺す」か「男の浮気相手である女を殺す」のどちらかを選ばなければならないのです。さもなければ、ウンディーネ自身がこの世から消えることになってしまいます。
逆に、愛した男との間に赤ん坊を身ごもれば、ウンディーネは人間になるコトができます。
さて、この物語に登場するウンディーネは、人間の男を愛し、浮気されてしまいました。激情に駆られた彼女は、怒りに身を任せ、男と浮気相手共々、近くの街を全滅させてしまいます。
ところが、お話はここでは終わりませんでした。実は、ウンディーネのお腹の中には新しい命が宿っていたのです。誰も殺す必要はなかったし、彼女自身消えることはありませんでした。
そろそろ太陽の登る時間ですね。
では、この続きはまた明日の夜といたしましょう。




