~第50夜~「死にたがりの魔女ラ・スースー(その2)」
魔法というのは、使い手の資質によって、得手不得手が生じます。同時に、使い手の性格も影響するもの。
たとえば、怒りに身をまかせて戦うタイプならば、炎の魔法が得意。普段から冷静沈着な性格ならば、氷の魔法といった感じで。
セアラが得意とするのは、そのやさしい性格を反映して「回復魔法」でしたが、ラ・スースーの資質は、明らかにそれとは違っています。無意識に放った魔力の塊は、不完全ながら闇の属性を帯びていました。
「さて、この子の資質を伸ばしてやるべきだろうか?それとも…」
迷った末、セアラはラ・スースーに「闇の魔術」を学ばせます。ただし、同時に「光の魔術」も。
結果、ラ・スースーは両方の魔法を極めていきます。ただし、灰色にはならず、「白と黒の魔女」として成長を遂げていくのでした。
「いいこと?あなたの覚えた闇の魔法は、非常に強力なモノよ。きっと、その力はあなたを守ってくれるでしょう。でも、同時にあなたの人生を不幸にするかも知れない。だから、同じだけ光の魔法も強めていくの」
セアラは、いつもそのように忠告し、ラ・スースーを育てます。
「2つの魔法が拮抗している内はいい。けれど、どちらかの力から…あなたの場合は、闇の魔法ね。闇の力が大きくなり過ぎると、自ら身を滅ぼすかも知れない。だから、必ず2つの能力をバランスよく伸ばしていくのよ」
ラ・スースーは恩を感じていました。
孤児院から引き取ってくれた恩。マダラグマから救ってくれた恩を。だから、セアラの言葉にはできる限り従うようにしています。
ウンウンと首を何度も縦に振り、「ちゃんと聞いていますよ」と行為で示します。
それでも「自分には生きている価値はない。早く死んでしまいたい」と思うコトはよくありました。
たとえば、ふたりが一緒にお風呂に入った時のコトです。
「何年経っても消えないのね」と、セアラの背中に走る4本の傷あとをさすりながら、ラ・スースーが言います。
「魔法も万能じゃないからね。傷を治すといったって、回復のスピードを速めるだけ。傷あとまでは完全に消せないわ」
その言葉を聞いて悲しそうな顔をするラ・スースー。
続けてセアラは取りつくろいます。
「けど、あなたが責任を感じる必要はないのよ」
「だって、アタシのせいでしょ?」と、即座に言葉をかぶせてくるラ・スースー。
「バカねぇ。あなたは、私の娘なんだから。母親が娘を守るのは当然でしょ?」
その言葉を聞いても、ラ・スースーは納得できません。
(母親か…血もつながってないのに。なんで、この人はアタシにこんなにもやさしくしてくれるんだろう?)と思っただけでした。
(アタシがいなければ、誰かいい男の人でも見つけて結婚できるかも知れないのに…)とも。
セアラは若くして魔女になったので、今からでも結婚して自分の子を産めるかも知れません。それに、見た目だってきれいだし、相手になってくれる男性はいくらでもいるでしょう。
なのに、不思議と誰ともつき合おうとせず、ラ・スースーのコトを本当の子供みたいに大事にしてくれるのです。
(アタシさえいなければ、この人はもっと幸せになれるんだわ)
そんな風に感じて、ますます死にたくなってしまうラ・スースーでありました。
*
時は巡ります。
セアラのもとにラ・スースーがやってきて、7年の時が過ぎました。孤児院からもらわれてきた時7歳でしたので、今はもう14歳。もうすぐ15歳の誕生日です。
ラ・スースーは、今度の誕生日を迎えたら、この家を出ていこうと決めていました。それがセアラのためだと思ったから。
この時代、この世界では、このくらいの年齢で働き始める女の子はいくらでもいました。なので、「そろそろこの家を出ていきたい」と言った時も、セアラは特に反対はしませんでした。
寂しそうな顔をしながらも、ただこう言っただけです。
「そう。それもいいかも知れないわね。けど、忘れないで。あなたの名前は『メス馬』の意味を持つというコトを。どこでどんな暮らしをしようと、野生の馬のように自由に生きてね♪」
お別れの日、ラ・スースーは最後にこう言いました。
「これまで育ててくれて、どうもありがとう。まるで、本物のお母さんみたいだった。アタシここでの生活は一生忘れない!」
「何言ってるの。本物の娘よ。あなたは、私の本物の娘。だから、つらくなったら、いつでも戻ってらっしゃい」
そう言って、セアラは自分の娘をギュッと抱きしめます。
しばらくの間、そのままでいたラ・スースーですが、ついに意を決してその場をあとにします。
「さようなら、アタシのお母さん。どうか幸せになってね…」
家を出るとすぐに、そうつぶやいて歩き始めるラ・スースーでありました。どこへ行くとも知れず、目的地も決めず、遠い遠い世界を目指して。
ほんとはいつまでも一緒にいてくれることが、セアラにとっての最高の幸せだとも知らずに…
さて、今夜もお時間になったようです。
次の物語は、また次の夜に語るといたしましょう。




