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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
46/1003

~第45夜~「ルチルガさん、子供を助ける(その3)」

「なぜ、先に言わなかった!」と、グラベートを問い詰める。

 萎縮して小声になる背中の曲がった小男。

「だ、だって、ルチルガさんが最後まで話を聞かないから…」

「回りくどい言い方をするからだ!『奪ってきてもらいたいモノ』とかなんとか。最初から『人間の子供を取り戻してきて欲しい』と言えばよかっただろう!」

 その言葉を聞いて、グラベートは嬉しそうに答える。

「じゃあ、受けてもらえるんですね?依頼」

「当然だろう。時間がない。今夜の内に侵入する」

「え?今夜ですか?もうちょっと準備なさってからの方がいいんじゃ…」

「どこか別の場所へ移送されたら、どうする?場合によっては、屋敷の中で殺されるか、そうでなくともよからぬコトに使われるかもしれんだろう」

「よからぬコト?エロいコトですか?子供を使って?」

「そこは想像せんでいい!とにかく詳しい情報を教えろ」


 やれやれ、私も損な性格だ。

 なんの関係ない子供ひとりのために命を張るだなんて…


         *


 ところが、子供はひとりではなかった。

「だから、準備が必要だって言ったでしょ!」と背中の曲がった小男の声が耳に響く。

 私は、目的のウトピアベリー伯爵の屋敷に忍び込んでから後悔していた。ひとりくらいならどうとでもなるが、何人もの子供をどうやって連れ出す?

 ええい!迷っている暇はない!なるようにしかならん!


 屋敷に中には、案の定、警備兵が複数用意されていた。

 私は彼らに気づかれぬよう、隠密行動を取ったが、それにも限界がある。子供たちがとらわれているであろう部屋にたどり着く前に見つかってしまった。

 仕方なく、音を立てながら警備の兵士をなぎ倒すと、次に現れたのは動く石の人形。ゴーレムであった。


「さすがに、コイツは無理か…」


 私は、早々に倒すのをあきらめ、任務遂行を最優先とする。石人形のよいとこは、動きが遅いとこだ。

 そのまま地下室への階段を駆け下り、扉を破壊して中へ足を踏み入れた。すると、ちょっとばかし予想外の事態が起きていた。いや、ちょっとばかしではない「大幅に」だ。


 部屋の中には、子供たちがいた。とらわれた子供たちが。ただし…

 予想外その1。子供の数が思ったよりも多かったこと。せいぜい数人程度と考えていたのだが、パッと見た瞬間十数人はいることがわかった。

 予想外その2。屋敷の主であるウトピアベリー伯爵が、部屋の中にいたこと。

 そして、予想外その3。異界への道が開かれてしまっていたこと。


「やれやれ、騒がしいことですね」と、伯爵はこちらを振り向きながら言った。実に落ち着いた声であった。まるで、居間で読書をしていて、ふと窓の外に目をやると、ちょうど庭に猫が入り込んできた瞬間だったように。


 一閃!


 私は斬りかかっていた。

「手ごたえあり!」と思ったが、私の振り下ろした剣は空中で空振りし、伯爵はすでに天井近くまで舞い上がっていた。

 ウトピアベリー伯爵のまとったマントは、まるでコウモリのようであり、開いた口からは2本の牙がのぞいていた。


「吸血鬼…か」と、私はつぶやく。

「ご名答」と、伯爵。


 ならば、弱点は多い…と言いたいところだが、あいにく吸血鬼の弱点になりそうなモノは何も持ってきていない。ニンニク、十字架、太陽の光…あとはなんだったかな?心臓に杭を打つとか、流れる川とか?

 仕方がないので、物量で対応する。手にしたクナイ(忍者が投げて攻撃する道具)を飛ばし、隙をついて、家具を踏み台にして天井付近にまで跳び上がり攻撃する。


「そいつは正攻法過ぎないか?」と、伯爵は余裕の表情を見せ、渾身の一撃で振り下ろした私の剣を軽々とかわす。


 こんなコトなら、グラベートの言う通り、もっと準備をしてくるべきだったか?

 だが、それでは子供たちは救えなかったろう。ただのひとりも。

 ここまで私の取った行動は間違っていなかったはず。運命は味方してくれていると考えたい。ならば…


 続けて「光の魔法」を放つ私。一瞬、ひるむ伯爵。

 さすがに太陽とまではいかないが、多少の効果はあったようだ。

 私は伯爵を蹴り飛ばし、暖炉の中に開いている異界への道へと放り込んだ。


「シュ~~~~~~~ト!」と、無意識の内に私は叫んでいた。


 その瞬間、ドゴオオォンという大きな音と共に、扉のあった壁が破壊され、崩れ落ちる。

 さっきのゴーレムだ。こんなところまで追ってくるとは…

 ヤバい!いや、これでいい。


 私はとっさに機転を利かせ、壁に掛けてあった伯爵のマントをまるで闘牛士のように振ってゴーレムを誘う。子供たちは部屋の隅に固まって震えている。


「さあ、来い!デクの坊!」


 そう叫ぶと、巨大な石の人形はこちらに向かって突進してくる。私の背後には、さっき伯爵が見事にゴールインしていった異界への道がある。

 ゴーレムの突進をサッとよけると、間抜けな石の塊は、頭から暖炉へと突っ込んで抜けなくなってしまった。

 頭だけ埋もれ、手足をバタバタさせる様子は、なんだかかわいらしくもある。


「さあ、今の内に!」


 そう言って、子供たちを率いると、私たちは地下室から逃げ出した。

 ゴーレムが降りてきたあとだけあって、1階への階段は半分壊れかけていて少々上りにくくはあったが、それでも無事地上へと脱出することができた。


         *


 さて、ちょうどお時間となりました。あと、もうちょっとだったんですけどね。仕方がありません。

 この続きは、また明日の夜とさせていただきましょう。

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