~第44夜~「ルチルガさん、子供を助ける(その2)」
結果的に、私は冒険者になった。それは、向いていたなと思う。
剣を振るい、魔物の首をはね。魔法を放ち、敵を駆逐する。そういう生き方に合っていたのだろう。
別に子供の頃から憧れていたわけでもなんでもない。
たとえば、子供の頃からマンガ家に憧れて、小学校の休憩時間に寸暇を惜しんでイラストを描き、やがては短編の読み切りマンガを完成させ、出版社に投稿し、持ち込みで講評をもらい、努力を重ね、何度も何度も描き直し、何作も何作も作品を完成させ、どうにかこうにか小さな賞をひとつもらってマンガ家としてデビューする。
そういうのとは全然違う。やってみたら、なんとなくできた。それだけのコト。
人によっては、それを「うらやましい」と思うだろう。あるいは「天才だ!」と言う者もいるかも知れない。でも、そんなのとは全然違う。
現実の自分を否定して、新しい人生を送ろうとしたら、たまたま新世界で上手くいってしまった。ただ、それだけのコトなのだ。
なんだったら、この生活だって、捨ててしまってもいい。今すぐ捨てて、別の世界へ行ったっていい。ただ、そういう世界が見つからない。だから、しばらくこの世界で生きてみようと思う。
*
「ルチルガさん!ルチルガさん!」と呼び止める声がある。
ちなみに、ルチルガというのは、この世界での私の呼び名だ。「ルチール・ルガール」縮めてルチルガ。ま、ペンネームみたいなモノかな?
「なんだ?」と言って、声の主の方へと振り向く。
見ると、背の低い背中の曲がった男がひとり。お世辞にもイケメンとは言いがたい。名はグラベート。仕事の仲介役だ。
地球と違って、この世界で仕事をするには「ギルド」と呼ばれる組織に所属しなければならない。大抵の仕事がそうなのだが、冒険者も例外ではない。
ギルドに所属すれば、安定して仕事を紹介してもらえるし、なにかと援助もしてもらえる。代わりに、結構な割合で「上納金」を納めなければならないし、なにかと面倒なことも多い。余計な頼まれごと(大抵はボランティア)をこなさなければならないのだ。
そこで、私はギルドには所属せず、適当にその辺の魔物を狩って暮らしている。当然、仕事の依頼など来ない。なので、グラベートのような仲介屋に頼んで仕事を斡旋してもらうことがある。この方が自由気ままな生活を送れるのだ。
「ルチルガさん、ルチルガさん。お暇ですか?」と、グラベートは声をかけてくる。
正直、あまり気乗りはしない。こんなヤツの顔を見る気分でもなかったが、少々懐の方が寂しくなってきた時期だった。
「なんだ?」と、私はぶっきらぼうに答える。
「仕事の依頼なんですけどねぇ。今、お暇ですか」
「暇か?暇でないか?と問われれば、前者の方だろうな」
グラベートはその言葉を聞くと、ニヤリと笑って答える。
「そうですかぁ。それはよかった。ちょうど頼みたいコトがあるのですが」
面倒くさいな、と思いながらも要件を聞く。
「仕事内容は?」
「奪ってきてもらいたいモノがあるんですけど。さるお方のお屋敷に忍び込んで」
その言葉を聞いて、私はきびすを返した。
「なんだ、盗みか。他をあたれ。私は盗みはやらん。モンスター退治とか、そういうのがあれば持ってこい」
「あ!ちょ!ルチルガさん!ルチルガさんったら!」
私は、さっさと歩みを進める。グラベートの声はどんどん小さくなっていき、やがて聞こえなくなった。
*
街の酒場。
冒険者やゴロツキの類がたむろしている。酒と汗の臭いが織り混ざり、そこら中にプンプンと漂っている。私は、この臭いが嫌いではない。どこか心が安らぐ。少なくとも自分を偽ってまでこぎれいなオフィスで働き続けるのに比べれば。
ワインが美味い。それが、この土地の良いところだ。
異世界だからといって、どこでもこの味が出せるわけではないだろうが、それにしてもだ。
逆に食い物の方はたいしたことがない。これならば、地球の加工品の方がまだマシかも知れない。チェーン店のファミレスの方がいい味を出す。地球にいる頃には「またファミレスで食事か…」などと思ったものだが、あんなものでも懐かしい。
私はボトル1本で酔ったりはしない。いや、ホロ酔い加減といったところだろうか?
どうやら私はアルコールに強い体質のようだった。その点は両親に感謝しなければ(あるいは、酔わない体質が逆に体にはよくないかも?)
そんなコトを考えていると、ガラの悪い男どもが酒場に入ってきて、テーブルの一角を陣取り、騒ぎ始める。
ま、こういう場所だ。少々の大声で叫ぶくらい、許容範囲内だろう。
ところが、その話の内容に気になるところがあった。
「今回の仕事は楽だったな~」
「ああ、なにしろ、ガキども相手だったからな」
「お館様も喜んでくださっておられる」
「シッ!声が大きい。誰かに聞かれてたらどうする?」
などと大声で
(誰かどころか、みんな聞いてるよ)
…と、私は思ったが、口には出さなかった。仕事内容をこんな酒場でベラベラしゃべるのも間抜けな話だが、それよりも気になるのは話の中身の方だ。
子供を誘拐しているのか?それは許せないなぁ。
こんな世界で、魔物相手に斬り合いをやるしょうな職業だ。決して褒められた生き方をしているわけではなかったが、そんな私にも「信条」というモノがある。やりたくない仕事は請け負わない。ワガママなようだが、それが私の生き方だった。
そんな私からすると、年端もいかぬ子供の誘拐など、ヘドが出る行為だ。
その後も聞き耳を立て続け、どうやら男どもの雇い主らしき人物の名がわかった。
「クソッ!」と私は声を上げる。
どこかで聞いた名だと思ったら、昼間、グラベートの奴が依頼してきた侵入先じゃないか!
私は、酒場のバーテンに代金を投げつけると、そのまま扉をバタンと開けて外へ出た。
*
さて、この続きはまた明日の夜といたしましょうか。




