~第43夜~「ある青年の回想(その2)」「ルチルガさん、子供を助ける」
けれど、幸せな日々は一瞬にして破壊された。
僕を守っていた堅牢な壁は、ある日突然、取っ払われてしまったのだ。
部屋の扉は何の事前通告もなくいきなり開かれ、何人もの男たちによって僕は無理矢理に外の世界へと引き出される。頭には「外が見えないように」と布製の袋がかぶせられ、そのまま家の外へと引きずられていって、車に乗せられた。
目では確認できなかったが、音や感触でそれがわかった。
「引きこもり強制更生団」のしわざだった。
「ヒロシ、あなたのためなのよ」と、遠くから母親の声が聞こえる。
「しっかりと更生して、真人間になって戻って来いよ!」
こちらは父親。
何が起こったかわからなかった。いや、「何が起こったか?」はわかっていたが「なぜ、こうなったのか?」がわからなかった。
両親の気持ちを考えれば頭では理解できる。「こんな人間をいつまでも家に置いておくわけにはいかない。異世界へと送り込み、ダメ人間を脱却させるのだ」「悪くても、異世界で命を落とし、厄介払いはできる。親戚や近所の人たちも同情してくれるだろう」と。
ただ、心から共感することはできなかった。
僕はダメ人間だった。自分でもそれはよくわかる。
インターネット上に自分の好きなマンガやゲームの感想を書き、それ以外の作品や人を徹底的にこきおろした。持てる言葉の全てを使って罵詈雑言を書き殴る。
今になって思えば、たいした語彙力でもなく思想でもない。ただ単に「自己弁護」がしたかっただけだ。自分の価値を高めるため、それ以外の全てを否定していた。それだけの行為。「自己満足」と言い換えてもいい。
チッポケな人間だったな。実にチッポケな人間。世界は狭く、心は狭量で、偏見に満ち満ちていた。
だから、僕に与えられた罰は当然の報いだったのかも知れない。それでも…
(それでも、もっと別の方法があったのではないだろうか?)
そう思うコトがある。
いや、それは「今になって思えば」だ。あの頃の僕に他の方法はなかっただろう。強制的に異世界へと送られて冒険者に仕立て上げられる。うまくすれば一流の冒険者となって生き残り、名を馳せられる。ヘタをすれば、命を落として「はい、それまでよ!」(あるいは、そちらの運命こそ「うまくすれば」だったかも知れないが…)
あの頃、世界は僕を中心に回っていた。でも、今は違う。そのギャップに耐えられない者もいるが、僕は違う。生き延びてみせる!この地獄のような世界を!そして、いつか復讐するのだ!僕をこんな場所に叩き落とした奴らに!
その思いだけが僕を支え続けた。
いずれにしろ、僕は生き残った。ただし、「引きこもり強制更生団」の人たちや両親が思っていたような形ではなかっただろうが。
僕は、ちっとも感謝していない。誰にも感謝などできはしない。あるのは、ただ復讐心のみ。地獄のようなこの世界に僕を叩き込んだ奴らに復讐をするのだ。「同じ思いをさせてやる」コトで!
そうして、僕は「組織」を作った。何もかもを蹂躙するための組織を。
ロイト・ルネバンドール博士も言っていたではないか。
「人が何かを恨む時、それは最高の力となる」
*
「ルチルガさん、子供を助ける」
1人の女性が、大勢の子供たちを前に立ち尽くしています。
「困ったな。どうすればいいんだろう?」
女性は一言、そうつぶやきました。
彼女の名はルチール・ルガール。通称ルチルガさん。
ルチルガさんは、この世界にやって来たばかりの頃を思い出していました。
*
ボンッと、魔物の頭が吹き飛んだ。
頭が吹き飛んだのは、私の放った爆裂魔法によるものだ。
(向いていたのだな…)と私は思う。
きっと、この世界に向いていたのだ。
ある日、突然、地球と異世界の間に道ができて、交流が始まった。数年もすると、一般人でも行き来できるようになった。
だから、私は異世界へと移住した。
(なぜだろう?)
わからないけれど、私は自分の住んでいた世界を捨てて、生活の一切がっさいをかなぐり捨てて、異世界へと移住した。
きっと、退屈していたのだろう。子供の頃からずっと「フツーの人間」をやってきて。小学校も、中学校も、高校も、大学も、就職してからだってずっとずっとフツーの人間をやってきた。「演じてきた」と表現してもいいかも知れない。
心のどこかで「これは違う。これは本当の私の姿ではない」という想いを抱えながら、それでも自分をだましだまし生き続けてきた。
それにも、もう限界だった。そんな時、ちょうど異世界への道が開かれた。
だから、なんでもよかったのか知れない。「本当の自分」で居られる場所ならば、どこでも。異世界でなくても、外国とか、全然違う職種の職場とか、結婚とか。「偽物の自分」をかなぐり捨てて新しい人生を送れる場所ならば、どこだって。
*
さて、そろそろ夜が明ける時間ですね。
では、この続きは、また明日の夜に…




