~第42夜~「ヤミさんクロワさんの異世界道中記」「ある青年の回想」
「ヤミさんクロワさんの異世界道中記」
元ドラゴンキラーのクロワさんには「プライドもクソもあったもんじゃねぇ!」という生き様がにじみ出ていました。
だって、愛する子供たち(と、ついでに奥さんも)を養っていかなければならないのです。
かつての人気芸人が汚れ仕事をするごとく、必死に異世界に食らいついて生きながらえていました。
「ヤミさん、ヤミさん。アッシは、元ドラゴンキラーのクロワってケチなもんなんすけどねぇ」と、大人気チューバにすり寄っていったのも仕方がありません。
そんなクロワさんを、ヤミさんも最初は足蹴にするような行為に出ます。
「フンッ。落ちぶれ冒険者風情が!お前なんぞに用はないわ!」と、酷い言葉をあびせかけます。
インターネットで生配信を眺めていた視聴者たちも、「そうだ!そうだ!」「引退冒険者に用はないわ!」「帰れ!帰れ!」と、同調したコメントを書き込みまくります。
ところが、クロワさんは必死です。この機会を逃したら、おまんまの食い上げ!次にチャンスが巡ってくるのは、いつになるかわかりません。
「いやぁ~、そんなコトおっしゃらず!雑用でも何でも構いませぬ!あっしをこきつかってくだせぇ」と、食い下がります。
足蹴にするヤミさん。食い下がるクロワさん。いつしか、ふたりは長年連れそった名お笑いコンビのように息が合ってきます。
その様子を見ていた視聴者たちも、しだいにクロワさんを擁護するようになっていました。
「おうおう、かわいそうじゃないか、ヤミ!」「雑用として雇ってやれよ~」「案外、異世界の案内役として役に立つかもよ?」などと、応援のコメントが寄せられます。
勘のいいヤミさんのことですから、すぐにピ~ン!ときました。
(クックック、これはオイシイ。オイシイぞ!なんだか『商売』の臭いがする。よ~し、クロワとかいうこの落ちぶれ冒険者、雇ってやろうじゃないか。いくらかのはした金を渡し、ボコボコの叩かれ役に仕立て上げてやろう)
そんな風に考えて、クロワさんを自分の配信に出演させるようになっていきます。いわばサーカスのピエロ役。
「ヤミさんクロワさんの異世界道中記」という番組を立ち上げて、試しに配信してみると、これが意外と視聴者からの評判がいいのです。
元ベテラン冒険者をバカにする有名チューバー。バカにされ、叫んだり、おどけたり、涙を流して懇願する落ちぶれ冒険者。この図式がバカウケし、話題に話題を呼んで、連日アクセス数のトップを飾ります。
そうなってくると、ヤミさんも本気でクロワさんのコトをバカにできなくなってきます。ギャラも底上げしてやり、まっとうな額を支払うようになり、配信が終わると影でねぎらいの言葉までかけるようになりました。
「いや~、すみませんでしたね、今日は。ほんとはオレとしても、遙か年上の方にこんな扱いしたくないんですよぉ。けど、視聴者ってのは非情ですからね。誰かが『叩かれ役』をやらないと、すぐに離れていっちゃうんです」
「いやいや、わかってるよ。ヤミくん。オレも、その辺の事情はちゃんとくみ取ってるから。番組中は、遠慮なく罵倒してくれたまえ」と、クロワさんも大人の対応で応じます。
「さすがですね!やっぱ命のやり取りをして、死地を何度もくぐり抜けてきた本物の冒険者はひと味違いますよぉ。場数が違いますね!場数が!」
…と、こんな感じで結構仲良くなったふたりでありました。
*
「生き延びるって大変なモノなのよね。どこの業界も」と、シェヘラザード。
「『自然淘汰』という言葉もありますからね。時代の流れについていけなかった者たちは、ただ消えゆくのみ。それが嫌なら、自らの信条を曲げてでも、時代に合わせていくしかありません」と、僕は答える。
「簡単そうに思えるけど、それが結構難しいのよねぇ。プライドだとか信念だとかがあり過ぎると、生きづらくなるのが、世の中ってものだから」
「さて、では、次もそんなお話をしてみますか。これは以前にお話ししたあるエピソードにも関連しているのですが…」
「それは楽しみね♪さあ、話してちょうだい」
「では…」
そう言って、僕は「ある異世界の青年の」そして「その青年の地球での少年時代の物語」を語り始めた。
*
「ある青年の回想」
ある酒場にて。
ひとりの青年が、ウィスキーグラスを片手に酒をあおっています。
グラスの中には、氷がいくつかと半透明の黄褐色の液体。
カランと、グラスの中の氷が高い音を響かせた瞬間、青年は遠い世界を眺めていました。
「なぜ、こんなコトになったのだろうな?僕はただ、あの狭く小さな世界で、幸せに暮らし続けていたかっただけなのに…」
そう一言つぶやくと、青年は過去の出来事を回想し始めます。
*
「ハァハァハァ…」と、息を切らす少年。その隣で僕は思う。
(なぜ、こんなコトになったのだろうか?)
「オラァッ!たるんどるぞ!」
教官の怒声と共に、ムチがしなって飛んでくる。
「スミマセンッ!」と、即座に返答する少年。
周りには、少年と同じような境遇の者たちが、やはり教官の厳しい指導のもと特訓に励んでいる(僕もその中のひとりだった)
ただし、年齢・性別はまちまちだ。まだ10代にも満たない子供がいたかと思えば、明らかに40代以上のオッサンもいる。女性もいれば、オカマもいる。
(僕は、ただ部屋の中でゲームをしていたかっただけなのに…)
この続きは、また明日の晩とまいりましょう。




