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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
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~第39夜~「マジックドラッグ(その2)」「引きこもり強制更生団」

 さすがに、テレビのCMでは流れないものの、人のウワサやインターネット上の口コミで、マジックドラッグの効用は伝わっていきます。


「部長の営業成績が急激に上がったのって、マジックドラッグのおかげらしいぜ」

「向かいの家のヒロシくん、この前の定期テスト、学年で一番になったんだって。例の薬を服用してたらしいけど。まさかね…」

「隣のクラスの子なんて、ダイエットに成功したそうよ!」

「使うとお肌がスベスベになるんだって!」

 あるコトないコト、全部ウワサされます。


 そんなある日、テレビでプロ野球中継を見ていたお茶の間のみなさんに衝撃が走ります。バッターボックスに入った4番の強打者にモジャモジャのヒゲが生えたかと思うと、突然モンスター化してしまったのです。


 この日だけではありませんでした。

 20勝を目前にしていたエース球のピッチャーや、毎試合ダブルハットトリックを決めていたサッカー選手など、次々と魔物の姿へと変わっていきました。


 スポーツ界だけではありません。

 政治家・数学者・物理学者・経済学者・アーティスト・作曲家・マンガ家などなど、有名人が次々と同様の症状に(おちい)ります。


 ドーピング検査では引っかかることのないマジックドラッグですが、さすがにこうなっては副作用を疑わざるを得なくなってしまいました。


 結果、全面的に地球への輸入が禁止され、異世界においても製造・販売を停止させられます。

 困ったのは、マジックドラッグの販売企業。瞬く間に業績が悪化。株価も急転直下、上場廃止となり、会社自体がなくなってしまいました。

 ま、悪いコトでお金を儲けようとすると、こうなりますよね。


 ただし、異世界においては、獣人を中心として副作用が確認されていない種族は、いまだに密かに取り引きを続け、マジックドラッグに頼り続けている者がいるということです。


         *


「引きこもり強制更生団」


 最近、地球では「引きこもり」という現象が問題になっていて。この現象は、少年少女のみならず、いい大人が家から(極端な場合、自分の部屋から)外に出ようとせず、人との接触も避ける行為を意味します。

 ひとりふたりならいざ知らず、大勢がこのような状態に陥っているというウワサでございます。


 たとえば、地球には「日本」という国があって。「全人口の1%近く、100万人以上が引きこもり状態にあるのでは?」と言われております。

 そのほとんどは、まともに仕事もせず、親など家族の扶養下にあり、「世話をしてくれる人がいなくなった時にどうするのか?」と問われれば、「わからない」とか「先のコトは、その時になってから考えればいい」とか「どうしようもなくなったら、死ぬしかない」と答えるばかり。


 じゃあ、部屋の中で何をしているのか?というと…

 もっぱら、マンガを読んだり、インターネットで時間を潰したり、テレビを見たり、ゲームをして暮らすといった具合なのです。

 それも、若い内ならよいでしょう。半年とか1年とか。せいぜい2~3年ならば。けれども、引きこもり期間が10年20年と続いたら?もしくは、一生そのままだとしたら?

 そうなる前に、早めに対処した方がいいとは思いませんか?


 そこで生まれたのが「引きこもり強制更生団」にございます。

 この組織、「地球とつながった道を通り、異世界へと引きこもりたちを運び、冒険者として育て上げ、立派に地球に送り返す」というのを目的としております。


 もちろん、無料(ただ)ではございません。

 それなりの「料金」というものをいただきます。お値段の方ですか?まあ、そうですね。年間で声優の専門学校に通うくらいの金額でしょうか?

 それでも、一生引きこもりのままでいられるよりかはマシ考える親御さんたちにより、参加希望者はあとを絶ちません。

 毎月、数百人の引きこもり日本人が強制的に異世界へと送られていきます。


 え?帰還率ですか?そうですねぇ…

 実は、その…あまり高くないのです。100人が異世界に送られていき、1年以内に帰ってくるのは、せいぜい20~30人といったところ。

 おっと!勘違いしないでくださいね。残りの人たち、みんながみんな、向こうの世界で死亡したわけではございません。

 もちろん、向こうの世界で埋葬される。あるいは、死体となって帰ってくるパターンも、あるにはあるのですが。


 では、なぜ戻ってこないかというとですね…

 第1のパターンとして「居心地が()過ぎた」という理由。この場合、完全に異世界に居着いてしまい、戻ってきません。「誰が、あんな居心地の悪い地球の家族のもとへなど帰ってやるものか!」とばかりに、住み着いてしまうのです。

 上手く賞金などを稼げた人は、異世界に家まで購入して。


 第2のパターンとして、レベルが上がらないんですね。

 残念ながら、資質的に冒険者には向いていなかったという理由。この場合も、やはり異世界で別の職を見つけて、暮らし始めます。たとえば、道具屋だとか、花屋の売り子だとか、工場勤務だとかをして。

 これまた「実家に戻るよりかは、こちらの世界で暮らす方がまだマシか…」という心理になるわけです。


 さて、そろそろ夜が明ける時間ですね。

 それでは、この続きは、また明日の晩といたしましょう。

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