~第37夜~「大商人メルキデウスと3人の娘(その3)」「あるウンディーネの恋」
「それで、構いません」と、旅人は答えます。
「では、こちらは一度お返ししておきますね」と、アルザが魔法のカーテンを手渡そうとすると、旅人はそれを断って言いました。
「いや。それも預かって置いてもらえるかな?どのような効果があるか、確かめる必要もあるだろうし」
「そうですか。では…」と、アルザは魔法のカーテンを引き取ります。
「どのくらい時間がかかるかな?」と旅人が尋ねると、今度はメルキデウスの方が答えます。
「そうですね。倉庫を確認するのに半日かそこら。取り寄せとなれば、なんとも言えませんが…最低でも1週間ほどは見てもらわないと」
「なるほど。では、私はその間に別の用事を済ませてくるとしましょう。何かあれば、こちらに」と言って、旅人は滞在先を書いたメモを渡してきます。メモを見ると、近くの宿屋の名です。
*
旅人が帰ったあと、メルキデウスとアルザのふたりは、さっそく魔法のカーテンの効果を確認します。
何気ない普通の窓に魔法のカーテンを設置し、カーテンを開くと、いつもとは全く違う景色が広がっています。ふたりが見たこともない場所で、確かに別の世界のようです。
ただし、カーテンは開いていても、窓は閉じていなければなりません。窓を開けると、その瞬間、いつもと変わらぬ風景の逆戻りしてしまうのでした。
「なるほど。これは、ただ『見るだけ』じゃな。異世界(地球)から伝わってきたテレビのようなものか。窓を開けると、いつもの場所に戻るのでは、窓を通って別の世界に行けるわけではなかろう」
メルキデウスの言葉にアルザも同意します。
「そうねぇ。でも、こんなモノでも、物好きなお客さんが買ってくれるかも」
「問題は、客の望みの品と釣り合いが取れるかじゃが…まあ、いくらか上乗せして別の商品か金で払ってもらうのもよかろう」
*
しばらくして、旅人はメルキデウスの店で望みの品を手に入れます。
手に入れたのは「ヒツジ飼いの杖」という道具。遠い昔に、ヒツジ飼いがこの杖で、言うコトを聞かない暴れん坊のヒツジをなだめたという伝説があります。
「どうもありがとう。では、これは上乗せ分だ」
旅人はそう言って、ズッシリと重い金貨の袋をメルキデウスに手渡します。
「いえいえ、こんなには受け取れません。『商品に見合った代金を』がわたくしどものモットーですから」
「まあ、そう言わず。超過分は、恵まれない子供たちにでも寄付してくれたまえ」
そう言って、旅人は去って行ってしまいました。
…と、ここでお話は終わりません。
旅人が戻った先は、例のロイト・ルネバンドール博士の研究室でした。
「おうおう、望みの品は手に入ったか」と、ルネバンドール博士はホクホク顔です。
「はい、こちらに」と、旅人(と思われていた人物)は、さっそく「ヒツジ飼いの杖」を手渡しました。
博士が杖を謎の装置に設置し、スイッチを押すとブ~ンブ~ンという音と共に装置は作動し始めます。
目の前の空間には半円形の透明な壁に囲まれた部屋があって、中には凶暴なモンスターが何体も飼われています。
ところが、装置が作動し始めた途端、モンスターたちは皆、おとなしくなってしまいました。
「どうやら、実験は成功のようじゃ」
博士の言葉に男も同意します。
「これで、ますますやりやすくなりますね」
ルネバンドール博士が研究していたのは「人間の指令に従わない生き物を従順にしてしまう方法」であり、ヒツジ飼いの杖が設置されたのは「魔法の道具の能力を何十倍にもしてしまう増幅装置」だったのです。
*
「あるウンディーネの恋」
「ウンディーネ」というのをご存じでしょうか?
ウンディーネは、水の精霊であり、大抵は美しい女性の姿をしていて、固有名詞ではなく一種の種族名のようなモノなのだとか。
「人間の男性に目をつけ、取り憑いて呪い殺す」とも「愛する男性と結ばれることで魂を得られる」とも伝えられております。
今回は、そんなあるウンディーネの物語。
ある世界に若い男が住んでいました。
男は金のない時だけ仕事をし、それ以外の時期は自由気ままに暮らしておりました。
ある時、男はにぎやかな城下街を訪れます。
街はちょうど祭りのシーズンで、人々は皆、奇妙な仮面をかぶって踊り歌い楽しんでおりました。男は楽しいコトが大好きなので、街の人々に混じって一緒に踊り明かします。
楽しげな雰囲気と音に導かれ、近くの森にある泉からウンディーネたちがやって来ます。大抵は、頭の賢い者たちでしたので、祭りが終われば自分の住みかに帰らねばならぬと知っていました。
ところが、ある若いウンディーネは、世間知らずでしたので、祭りが終わったあとも街に残り続けてしまいます。
祭りのあとがどんな雰囲気かご存じでしょうか?
それはそれは寂しいモノです。最初からこんなならよかったのでしょうが、にぎやかに楽しんだあとですから、余計に寂しさを感じてしまうものなのです。
ちょうど街の外からやって来た男と、部外者であるウンディーネが出会います。
おっと。そろそろ時間ですね。
では、この続きは、また明日の夜に。




