~第35夜~「革命少女(その2)」「大商人メルキデウスと3人の娘」
さっそく天使は、少女に学問を与え始めます。
読み書きもままらなかった少女に、本の読み方を教え、自分でも文章を書けるようにしてやりました。
足し算引き算もできなかった少女に、数学を基礎から教え、因数分解を身につけさせ、二次方程式が解けるレベルにまで引き上げます。
天使は少女を図書館に連れて行き、本を読むように言いました。
オススメの本の概略を天使がわかりやすく解説し、少女はその指示に従って読んでいきます。
少女は、毎日毎日、図書館が開いている日は必ず通い、読書に没頭します。
図書館の本棚の端から順番に読んでいき、科学・文学・医学・生物学・薬草学・鉱物学・哲学などなど、あらゆるジャンルの知識を一通り身につけました。
「天使さん、どうもありがとう♪」と少女はお礼を言いました。
「どういたしまして♪これで、革命の基礎の基礎ができた。さあ、次は戦略・戦術だ」
そう言って、天使は少女に軍事を学ばせます。
世界各国の軍師・軍事戦略家の基本思想を叩きこみ、少女は急激に成長していきます。
それだけでは足りないので「人の心」も学ばせました。世の中の人たちがいかに困っていて、どのような助けを必要としているのか?を。
これをやっておかないと、単なる冷たい軍人になってしまいます。
天使は、少女の最終形態をそのような者にはしたくなかったのです。母親と父親が娘に接するように、能力だけではなく「慈愛の心」も持たせたのでした。
「さて、これで準備は整った」
「次は、何をすればいいの?天使さん?」
「次はいよいよ…」
天使は、少女を「革命軍」に入れさせます。
この時代、政府に反感を持つ人たちが大勢いて、国の各地でこの手の組織がいくつも誕生していたのです。
大人たちは驚きました。自分たちよりもはるか年下のかわいらしい少女が、天才的な軍事戦略を次から次へと繰り出したからです。
少女は「革命の女神」と呼ばれるようになりました。
ところが、ここで事態は急変します。
世界に穴が空き、別の世界へと道が通じてしまったのです。神様のしわざでした。
異世界との交流が始まり、国は急にうるおい始めます。
大量の物資が必要とされ、巨大な工場がいくつも建てられ、街には仕事があふれかえります。
人手はいくらあっても足りません。経済的に貧しい人たちが減り、革命の必要がなくなりました。
そこで困ったのは天使です。
「せっかくおもしろくなってきたところなのに~!神様のヤツ、何やってくれてんだ!」
もう1人困っている人物がいました。「革命の女神」です。彼女は自分の役割を失い、存在意義がなくなって、これからどうやって生きていけばいいのかサッパリわからなくなってしまいました。
天使は呆然とし、少女は「うつせみ」のごとく心がカラッポになります。この物語の最初の頃のように、部屋の中でひとりボ~ッと宙を眺めながら暮らすだけ。
でも、ここで少女は終わりません。なぜなら、1度革命の味を覚えた人間は、生涯その味を忘れることはないのですから。
「革命の女神」は、自分の居場所を探すため旅に出ます。この国からゆくえをくらまし、危険地帯へと出かけていきました。困っている人たちが大勢いる国。「救世主の助けを求めている人々」がいる場所へと。
きっと、そこには自分の存在意義があるはずだから…
*
「なんだか悲しい物語ね…」と、シェヘラザードは言った。
天使である僕は、その言葉に応える。
「そうですね。一種の『依存症』だったのかも。戦闘依存症。革命の味を1度でも知った者は、2度と逃れられはしない。終生、戦い続けるしかないのです」
「まさか、その天使って、あなたじゃあないわよね?」
「フフフ…さて、どうでしょう?それよりも、次の物語と行きますか」
そう言って、僕は新たな物語を語り始めた。
*
「大商人メルキデウスと3人の娘」
ある時、ある世界に、ひとりの男が住んでいました。
男は商人となり、苦労して一代で財を成します。それなりの財ではありましたが、「大金持ち」というわけでもありません。せいぜい一家が不自由なく暮らせる程度の額に過ぎませんでした。
今回の物語のメインキャラクターは、この男ではありません。男の息子の方。
商人の息子は「メルキデウス」という名で、父親の家業を継いで、やはり商人となりました。
メルキデウスは、商売の才があったようで、交易業界でメキメキと頭角を現していきます。「取り引きの心得」とでも言うべきモノを習得しており、お互いの利益のため最大限譲歩できました。
「自分だけが利益を上げる」のは簡単です。逆に「相手だけが利益を得る」のでは、自分が損をしてしまいます。両方が利益を上げることで、良好な関係を保ち、長く商売を続けることができるのです。
メルキデウスは、その最良のポイントを瞬時に見抜けました。一種の「才能」ですね。かつて、神様が望んだ「敵であり、ライバルであり、友人である者」の候補のひとりと言えるでしょう。
さて、時間が来たので、この続きは、また明日の夜といたしましょう。




