~第328夜~「お金のない世界」
チャルラタンの提唱した「お金を必要としない世界」は、世間の人々に大きな衝撃を与えました。
ある者は「そんな世界、絶対に無理だ!」と断言し、別のある者は「素晴らしい!それこそが人類の理想とすべき到達点だ!」と絶賛しました。あるいは、「現実的には難しいかもしれないが、アイデアとしてはおもしろそうだ」「とりあえず、試験的にやってみればいいんじゃない?」などという意見も出てきます。
そもそも、なぜ世の中にはお金などというモノが必要なのでしょうか?
地球の歴史を紐解いてみると、遠い昔、お金という概念は存在しませんでした。人々は、皆、物々交換で暮していたのです。
けれども、そのやり方では、どうしても不便が生じます。肉や魚など腐りやすい物は長く保存がききません。そこで、貝殻や塩など長期間経っても劣化しづらい物が物々交換の中心となっていきます。これが、お金の始まり。
お米などの穀物がお金代わりに使われていた時代もあります。“年貢米”といって、お米で税金を納めたり。
その中でも一番便利だったのは、金や銀などの貴金属です。やがて、金や銀や銅は“貨幣”という形で取り引きされるようになっていきます。
ところが、金貨や銀貨は「量が増えると重くなってしまう」という欠点がありました。
そこで“紙幣”の発明です。文字の書かれた紙がお金として使われ始めます。紙自体にはたいした価値はありませんが、いわば“信用”で取り引きが成立していたわけです。
しかし、紙に文字を書いたり判を押すだけでは、簡単に偽造されてしまいます。紙幣を発行する国や宗教団体は、偽造されにくい紙幣を開発するため、やっきになりました。
印刷技術の発展と共に、紙幣もどんどん高度化し、偽造が難しくなっていきます。それでも、偽札は次々と作られ、犯罪者とのイタチごっこが続きました。
長い長い時を経て、今やお金は形すらなくなっています。
そう!大電子マネー時代の到来です!
それでも、“お金”という概念自体が失われたわけではありません。形は変われど、相変わらずお金は世界を、そして人々を支配し続けているのですから…
そんなこんなで、今日もまた世界中どこかで、多くの人々が「お金」をめぐって争いを繰り広げています。
現代の世の中でも、お金というものを当たり前のように使っている人は多いと思います。けれど、その「当たり前」はある日突然失われてしまう。それが、資本主義社会の現実なのです。
チャルラタンは、それを鋭く見抜いていました。
「いつか終わりの来るシステム。ならば、その終わりの時を見てみたい。自分が生きている間に見てみたい」と、そう思いました。
それでも、世界の中心にあり、現代社会の根幹を成しているお金という存在を、いきなりなくしてしまうには無理があります。
そこで、有志をつのって社会実験を始めることにしました。広大な土地に街を1つ作って、お金のない生活を始めようというのです。
世界はまっぷたつに割れ、猛反発と大絶賛を招きます。
特に、今の時点で大金を持っている人たちは、反対側に回りました。当然ですよね?とても大きな力を持っているのに、世の中からお金がなくなってしまえば、その力も失ってしまうコトになるのですから。
ところが、世の中には酔狂な人間もいるもので、大富豪の中にも率先してチャルラタンのプロジェクトに賛同する者も現れます。天才芸術家アルマ・フォリアもその内の1人でした。
こうして、ある星の田舎に1つの街が誕生します。
実験都市グランエクスベンチャー。そう名づけられた街に“お金のない人生”を体験しようと、ぞくぞくと人が集まってきました。あまりの人気ぶりに、最初に抽選が行われ入居者を決めたくらい!
それ以前に、ベーシックインカムという考え方によって大規模な実験が行われたコトがあります。ところが、こちらはあまりうまくいきませんでした。
なぜかというと、貨幣社会自体をなくそうとしたわけではなく、「全員に同じだけの額のお金を配ろうとした」からです。
世の中には「悪銭身につかず」という言葉もあるくらいで、人々の多くは、配られたお金をギャンブルに使ったりタバコやお酒などの嗜好品に散財してしまいました。
それもまた1つの世界の進化の形であったのかもしれませんが、当時の人々はその結果を“実験失敗”と判断してしまったのです。
今回チャルラタンが提案したプロジェクトは、かつてのベーシックインカムの失敗も踏まえて、綿密に計画が練られました。
「お金を配るのではなく、お金を使わなくさせる」「お金の価値を徐々に落としていき、最終的にはゼロにしてしまう」
この2つを基本方針として、プロジェクトは進んでいきます。
結果、最初に取られたのは“配給制度”でした。
“配給”というのは、お金ではなく食料品など物を直接配るコト。戦時下などで行われたこの古くさい制度が、実は未来の社会に妙にマッチしていきます。
この続きは、また明日の夜にいたしましょう。




