~第327夜~「退屈な星のサルサラ(その15)」
巨大トラック内のリビングでテレビ画面を食い入るように見つめているアルマ・フォリア。画面の中ではメディア王となったチャルラタンが、司会者の質問に答えています。
「では、ミスター・チャルラタン。やはり、人類はお金の必要ない社会を作り上げられるというのですか?」
「ハイ。僕は、そう思いますね。条件さえ揃えば。それも時間の問題でしょう」
「ここまでのあなたの意見をまとめると、『人類はいずれお金を必要としなくなる』『その為にはいくつか条件がある』『条件の1つは衣食住の充実』『そして、もう1つの条件は労働の自動化』ここまでよろしいですか?」
司会者のまとめに対して、短く返事をし軽くうなずくチャルラタン。
「ハイ」
「では、仮にあなたのいうような世界が実現するとして、そこまでの時間は?何年くらいで達成できると思われますか?」
チャルラタンは右手をアゴの下にやり、上目づかいで天井を眺めながら、数秒間思考を巡らせてから答えました。
「そうですね…“30年”といったところでしょうか。もしかしたら、もっと早く実現できるかも。あくまで全人類が本気でこのプロジェクトに取り組めば…というお話ですが」
「30年…ですか!?わずか!?これまで2500年近くも貨幣経済に頼ってきた人類が、たった30年でお金を捨てられると?」
「ええ、時代の進歩は年々スピードを上げてきています。かつての1000年を100年で達成し、次の100年を10年で達成できるようになってきている。ならば、30年という時間は充分過ぎる時間だと思いますが」
司会者は、驚きを隠せないといった感じで頭を左右に振って答えました。
「信じられません!それは妄言や空論の類なのでは?」
「いいえ、決してそのようなコトはありません。事実、ある世界では、すでに電力の価格はほぼゼロに等しく、水よりも安いくらい。別の世界では、食糧の量産化が進み過ぎて、人々が食べきれないほどの作物が日々生産され続けています」
「それらを無料で配ればいいと?」
「ハイ。その通りです。日々の食事と基本的なインフラから始めて、徐々に衣料品や建築物まで無料化を進めていく。いずれは、全くお金の介在しない世界が誕生することでしょう」
ここで、司会者はさらなる反論を試みます。
「しかし、それは、いわば“社会主義”の世界なのでは?」
チャルラタンは、何ごとかを察したのか、あえて少し間を取ってから答えました。
「そうですね。そう言い換えても構わないでしょう」
「では、やはり失敗に終わるのでは?人類の歴史を振り返ってみると、社会主義国家というのは、理想は高けれど、現実にはことごとく失敗しているではありませんか?」
チャルラタンは、フ~ッと1つ大きくため息をついてから、語ります。
「確かに。歴史上では“社会主義”“共産主義”と呼ばれる政策のほとんどは失敗に終わっています。けれども、それは“時期が悪かった”からに他なりません。別の言い方をすれば、急速にかつ無理矢理に理想郷を作り上げようとしてしまったから。ユートピアというのは、そのようにして作り上げられるものではない。時が来れば自然に成立してしまうもの」
「今がその時期だと?」
「ええ。『社会主義は、極限まで資本主義が発達した先に生まれる』という言葉もあります。かつての未熟な資本主義社会では、どうあがいても成功しようがなかったのです。けれど、今ならば…」
「科学技術の発達した今ならば、実現可能だと?」
「その通りです。正直、僕自身ここまでのスピードは予想外でした。僕が若い頃…そうですね。今から20年ほど前には、まだそこまで到達するには300年以上はかかると思っていましたから。それが、今や異世界間での交流が活性化し、各世界は劇的なスピードで進化した!近い将来、世界からお金という概念は消え失せる。僕は、そう信じています」
「つまり、あなたが提唱するプロジェクトは、人類に新たなステージへの扉を開くというわけですね」
「ハイ。お金の存在しない世界は、必ずや人々を幸せにするでしょう。借金をする者がいなくなれば、資金難を苦に自殺する者もいなくなる。全ての人々が平等に、かつ自由に人生を歩める時代が到来するのです」
「素晴らしい!」
司会者は、感極まったように叫びます。
「このアイデアこそ、人類が求めていた究極のソリューションに違いありません!」
「ありがとうございます。それでは、最後に視聴者の皆様にお願いがあります。このプロジェクトについて、ぜひご意見をお寄せください。賛同の意見だけでなく、反論であろうが否定的な意見であろうが何でも構いません。きっと、そこから新たな建設的なアイデアも生まれることでしょうから」
そうチャルラタンはテレビの前の視聴者に向かって語りかけました。
ここまで見て、アルマ・フォリアは感動のあまり、身動きが取れなくなっています。
…と、次の瞬間、突然おたけびを上げ、立ち上がりました。
この続きは、また明日の夜に語るといたしましょう。




