~第25夜~「ある死刑囚と神の取り引き(その2)」「宗教国家エルドンラード」
「では、昨夜の続きとまいりましょうか…」と僕が語り始めようとすると、その言葉をシェヘラザードがさえぎった。
「ちょっと頭が混乱してきたわね」
「フム。どのように?」と、僕は尋ねて返す。
「まず、あなたのお話があって。その中に、死刑囚と神様が登場する。そして、横にいた看守も自分の物語を語って聞かせる。ここまではいいわね?」
「フム。その通りです」
「でも、そのお話の中に、『生まれ変わり』だとか『異世界同士がつながる』だとかいった設定が登場する。それって、実在のお話なの?それとも?」
「フフフ…さて、どうでしょうね。わたくしとしては、『実際にあった物語』として語っておりますけど。『異世界同士のつながり』も『神』や『死刑囚』や『看守』も、そこに登場する物語も。けれども、解釈は自由で構いません。シェヘラザード様や、このお話を聞いている別の人たちの」
「別の人たち?」
「『たとえば』ですよ。たとえば、私がお話ししたこれらの物語を、シェヘラザード様がまた別の誰かに語ったとして。それを誰かが、また別の誰かに伝えたとして」
「深く考えてると、頭がフラフラしてくるけど…まあ、いいわ。続きを話してちょうだい」
「では、お言葉通りに…」
そう言って、僕は続きを話し始めた。「神と死刑囚と看守の話」の続きを。
*
「実は、生まれ変われるかどうかは、皆、神の裁量に任されておる。死んだ人間をそのまま消滅させてしまうことだって可能なのだ。さて、お前はどうかな?」
死刑囚は神の言葉を聞いて、チラッと神の立っている方に目を向けました。
無論、看守からすれば、何もない宙を眺めているようにしか見えません。
「だが、これからもお前がおもしろい話を聞かせ続けてくれたなら、死後、お前を別の世界で生まれ変わらせてやろう。どうだ?この神との取り引き、受けるかな?」
その言葉を聞いて、死刑囚はコクリと大きく1つ頷きました。
その後は約束通り、神に向かっていくつもの物語を語って聞かせます。時として、看守も。
死刑囚と看守の話がいくつ続いたでしょうか?
ついに、死刑執行の日がやって来ます。
「ほんとを言うとな。お前さんに同情しとるんじゃ。同情し、親近感もわいてしもうた。長い間、お前さんの話を聞き続けたせいじゃろうな」と、死刑執行の直前に看守は語りかけてきます。
死刑囚は、ただ黙ってその言葉を聞き続けているだけ。
「…かといって、ここから出してやるわけにもいかん。お前さんに殺された者やその家族の気持ちもわかるでな」
「だろうな。だが、ありがとな」
軽く片手を上げながら短く答えると、死刑囚はそのまま自分の行くべき場所へと歩みを進めました。
刑は無事執行され、何事もなく終わりを告げます。
死刑囚であった男は死んだのです。
もちろん、ここでお話は終わりはしません。
神は約束通り、男を別の世界で生まれ変わらせました。
そこは魔法やモンスターの存在する異世界。生まれ変わった先の姿は、1匹の「スライム」でした。
運悪く、生まれ変わった直後にスライムは人間によって捕らえられてしまいます。
そうして、新しく開発された「トイレシステム」に利用され…
*
「え?それって、以前に話してくれた『下水処理のスライム』なの?人間時代に大勢の人を殺した罪を許さず、神様が異世界で罰を与えたってこと?」と、シェヘラザード。
「さて、どうでしょうね?その点に関しては、ご想像にお任せします♪それよりも、次の物語をお聞かせいたしましょう」
*
「宗教国家エルドンラード」
ある世界に、ある国がありました。国の名は「エルドンラード」
エルドンラードの住民は、皆神を信じ、その身を神に捧げて生きております。よって、国自体も宗教を中心にして動いておりました。
宗教と政治が一体化し、全ては「神に選ばれし王」を中心に回っているのです。
人々は、唯一神を信仰。地球で言えば「キリスト教」に近いモノがあります。
ただし、王がなんらかの理由で死亡した時(あるいは行方不明になった場合)次の王は、神託によって選ばれます。
そういう意味では、政治的・精神的指導者である「ダライ・ラマ」を擁す、チベット仏教に近いとも言えるでしょう。
王は「ソル・スプラーマ」と呼ばれ、国家運営においても宗教組織においても、最高の権力を有しています。
王に次ぐ力を持っているのが「アシット・ワリア」という地位の者。アシット・ワリアは、王のサポート役として、いわば「コンサルタント」のような役割を担っています。
同時に、王が未成年の内は、成人するまで政治も取り仕切る「摂政」としての役割もあります。
王であるソル・スプラーマも、サポート役であるアシット・ワリアも、あくまで「神の使い」の化身。決して神そのものの生まれ変わりではありません。
神は神であり、唯一絶対の存在であり、何人たりとも触れることのできぬ存在なのです。
さらに「ミルタ・ポ」と呼ばれる軍事担当の役職があり、これは「軍師」のような職務。戦争において王に助言し、時には前線に立って兵を指揮することもあります。
エルドンラードの民は、いかな神に仕えるものとは言え、身を守るための武力は必要だと考えているのです。
正義なき力が無価値なのと同じように、力なき正義は無力なのですから。
宗教国家エルドンラードでは「信仰と武力」両方を兼ね備えて初めて、人としてまともに生きていけると信じられておりました。
さて、この続きはまた明日の夜としましょうか。




