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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
23/1003

~第22夜~「才能の差(その2)」「ある死刑囚と神の取り引き」

「確かに」と、シェヘラザードは言いました。

「確かに、人にはそれぞれ向き不向きというものがあるわね。でも、それが『あきらめていい理由』にはならないわ」


「もちろん『向いていないから、即あきらめてしまえ!』と言っているわけではございません。それでも、自分の資質や興味に合わせて習得する能力を選んだ方が効率がよいことは事実にございます。シェヘラザード様」と、僕は答える。


「才能のあるなしは置いておいて。『効率のよいやり方』というのはあるんじゃないの?誰が使っても、より短期間で学べる習得方法のようなモノが。魔法の勉強にしろ何にしろ」


「それはあります。たとえば、古代のスポーツに比べて、現代のスポーツは技術も指導方法も道具も格段に進歩していますからね。農業1つ取ってみても、そうですし。医学であろうが数学であろうが、(みな)同じ。当然、魔法であろうとも」


「そう考えると、才能なんて、条件の中でも微々たるモノじゃないの?」


「そりゃ、昔の天才に比べれば、現代の凡人の方が有利ではありましょう。けれども、現代の天才が現代の条件下で学んだら?最新の指導法や道具を使えば、そこにはやはり優劣が生まれます」


「世の中ってのは、いつも競争ばかりなのね~」


「そう。それえに人類は進歩・進化できたのです。競争なくして進化の歴史はありませんよ。では、そろそろ前回のお話の続きとまいりましょう」


         *


「才能の差(その2)」


「お前はいいよな。才能があって」と、イチロー青年に話しかけてきた学生は、トマレット・ロックモンコウという名でした。

 ロックモンコウ家は由緒ある魔術師の家系で、父親のウゴケットは非常に厳しい人間であり、トマレットも幼少の頃より魔術の基本を叩き込まれたものです。


 …にもかかわらず、異世界(地球)から突然やって来た弱冠15歳の少年が、大人の魔術師顔負けの能力を発揮してみせたため、トマレットは驚愕します。

 そして、「自分がこれまでやってきた『努力』とは、なんだったのだろうか?全てを否定された気になる…」と、ひとりつぶやきました。


(生まれて初めて「コイツを超えたい!」というヤツに出会えた!)と、トマレットは強く思いました。強く!強く!心の底から!


 嫉妬心は人を大きく成長させます。

 トマレット・ロックモンコウの場合も、例外ではありませんでした。スズキイチローという大いなる目標ができたおかげで、これまで以上に勉学に励むことができたのです。

 ところが、その目標にはいつまで経っても追いつけません。それどころか、どんどん差がついていくのです。トマレットが、がんばればがんばる程、イチローとの差は広がるばかり。


「クッソ!なんでオレがこんなに努力してるのに、全然追いつけやしないんだ!きっと、何かズルをしてるに決まっている!」と叫んだものの、トマレット自身そうではないコトはよくわかっていました。


「これが才能の差…」


 あまりにも絶望的過ぎる差に、トマレットは一時期、魔術師を目指すコトをあきらめかけます。

 けれども、強靱な精神力で、その危機は乗り越えました。


 「魔法総合学校(マジック・アカデミー)」を卒業後、トマレットはその能力を生かし、国家所属の魔法軍で研究者として働き始めます。

 …が、長くは続きませんでした。アカデミーに残り学問を続けたイチローは、世間の脚光を浴びるような華々(はなばな)しい活躍をしているのに対して、何の功績も残せずにいる自分に絶望したからです。

 ある日突然、姿を消し、そのまま2度と職場に戻ってくることはありませんでした。


 トマレット・ロックモンコウが人々の前に再び姿を現し、世界に名をとどろかせるには、十数年の時を要します。

 …が、それはまた別のお話。時が来たら、お話しするといたしましょう。


         *


「ある死刑囚と神の取り引き」


 ある時、ある世界で、ひとりの囚人が独房にとらわれていました。

 囚人は何十人もの罪なき一般人を殺したため、死刑が確定していました。死刑執行の日まで、この狭い独房で過ごすのが、彼に与えられた罰なのです。


 狭く薄暗い部屋の中で、何をするでもなくボ~ッと宙を眺めるだけの日々。

 死刑囚は「早く殺してくらないかな…」と考えるだけ。反省など微塵もしていません。


 毎日毎日、宙を眺め続けていると、ある日、目の前の空間に神が降りてきました。

 どうやら看守には見えていないようです。なので、最初は「幻想だ」と思いました。ところが、神は男に向かって話しかけてきたのです。


「退屈そうだな」


 死刑囚は「その声すら幻想に過ぎないのだろう」と考えました。

 けれども、あまりにも退屈だったため、幻想の神に返答してしまいます。


「そりゃあ、そうだろう。こんな狭い部屋で、何もするコトを与えられない。楽しみといえば、3度の食事とクソをするコトくらいのものだ。これで退屈しない人間がいるか?」


「それは、そうだな。では、私が話し相手になってやろう」と神は答えます。


 するコトもなかった死刑囚は、神の誘いに乗ってやることにしました。

 それから、死刑囚は語り始めます。自分の生い立ち。それが、いかに不幸であったか?世の中の何もかもが嫌になり、自暴自棄になってしまったこと。初めて人を殺した時の快感。その後、人に手をかける行為に歯止めがかからなくなってしまい、ついには法の(もと)に罰せられてしまったこと。


 その様子を(おり)の外から眺めていた看守は「コイツもついに頭がおかしくなったか」と思っただけでした。それから「残り短い人生だ。好きにさせてやろう」と考え、独り言を止めもせず、放っておきました。


「他には?他には何かないのか?」と神は尋ねます。


 自らの体験を語り尽くした死刑囚に、もはや話すネタなど残ってはいませんでした。


「考えてみれば、薄っぺらい人生だったな。ちっぽけで薄っぺらい人生。この程度で語り終えてしまう程度に」と、死刑囚は答えます。


「ならば、私はもう行こうか」と神。


「いや、待て」と死刑囚。


 死刑囚はしばらく考えてから続けます。

「自分の経験はもうない。だが、空想でよければ語ろう」


 神はニヤリ笑って答えます。

「それはおもしろそうだ。続けたまえ」


 それから、死刑囚はありもしない空想の物語を語って聞かせ始めました。

 檻の外では、退屈していた看守が耳を傾けています。


 おっと。もう日が昇り終えていますね。

 それでは、この続きは、また明日の晩に…

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