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異世界千夜一夜  作者: 大西平洋(ヘイヨー)
~いろいろな小話~
22/1003

~第21夜~「虚神(その2)」「才能の差」

 さて、神を殺そうとした男に与えられた罰とは何だったのでしょうか?そして、異世界へと送られた男に与えられたモノとは?

 それは「全てを粉々にしてしまう能力」でした。「触れるモノ全てを分子のレベルにまで分解してしまう」という恐ろしいチート能力です。


 最初、男は気がつきませんでした。なぜなら、能力の発動条件を満たしていなかったからです。

 能力の発動条件。それは「激高して相手に触れる」というもの。


 この世界にやって来た男は、周りの人間たちと同じように漁師として働き始めます。

 ある時、釣り竿につけていた糸がからまってしまい、男はつい腹を立ててしまいました。


「クッソ!なんだ、こりゃ!めんどくせぇ!」


 そう叫んだ瞬間、男が触れていた糸と釣り竿は粉々に分解され、この世界から消えてしまいました。


「!?」


 男は驚きましたが、何が起こったのか理解できません。

 その後も似たようなコトが何度も起こり、徐々に自分に与えられた力を把握していきます。


「そうか、オレが怒ると、触れているモノがこの世界から消えてしまうのか…」


 ならば、怒らなければいいだけのことではないか、と男は考えます。

 その後は、決して感情を高ぶらせず、冷静沈着に淡々と人生を送るようになりました。


 やがて、男は地元の娘と恋に落ち、2人は祝言(しゅうげん)をあげます。

「めでたいなぁ。やれ、めでたいなぁ」と、(みな)も祝福してくれました。

 ところが、そこは夫婦のこと。いつまでも、波風が立たずに暮らせるはずもありません。

 そもそも夫婦というのはそういうモノなのです。他人同士がひとつ屋根の下に暮らすわけですからね。いさかいの1つや2つ起きるに決まっています。むしろ、ケンカしながら仲を深めていくものなのですから。

 そんなわけで、この男も些細なコトでケンカをし、声をあらげ、愛する妻を小突いてしまいました。


 その瞬間、何が起こったかは、もうおわかりですよね?

 そう!妻は、瞬く間に分子レベルに分解され、この世界から消えてしまいまったのです。


 感情をコントロールする(すべ)を身につけたはずの男でしたが、やはり一緒に暮らす者となると、油断してしまいます。「心を許している」からこそ、喜びだけではなく怒りの感情すらもあらわにしてしまうのでした。


 その後も、似たようなコトが何度も起こりました。

 何度も!何度も!何度も!

 ほんの些細なキッカケで感情を高ぶらせたかと思うと、相手に触れただけで、分子に分解されてこの世界から消滅してしまうのです。


 ついに、男は人と触れることをあきらめ、人里離れ、1人孤独に暮らすようになります。

 それにも限界が来て、ヤケになった男は世界を滅ぼすことに決めました。

 周りの人々が幸せそうに暮らしているのに、自分だけが孤独な人生をしいられることに耐えられなくなってしまったのです。

 そうして、片っ端から人に触れ、分子に変えていきました。


 人々は恐れおののき、男のコトをこう呼ぶようになります。

 「虚神」と。読み方は「きょしん」とも「うつろがみ」とも言われております。

 虚神は死ぬこともできず、今も世界を滅ぼし続けているそうです。


 そう!

 皮肉な話ではありますが、ついに男は神になったのです。かつて、自らが討ち倒し、取って代わろうとした神に…


         *


「才能の差」


 「魔法総合学校(マジック・アカデミー)」に入学したスズキイチロー青年は、在学中、たゆまぬ努力を続け、懸命に学び続けました。

 魔法学はもちろんのこと、ありとあらゆる分野に興味を示し「せめて基礎だけでも」と、一見魔法に関係なさそうな勉強も欠かしません。


 そんなイチローを見て、喜んでくれる人ばかりではありませんでした。

 もちろん賞賛の声をかけてくれる者は大勢いましたが、その一方、心の中では嫉妬心をメラメラと燃やし続ける者も多かったのです。


「お前はいいよな。才能があって」と、声をかけてくる学生がいます。

 その言葉に対して、イチロー青年は数秒間考えてから答えました。


「才能?そんなもの、あったかどうかはわからないよ。ただ子供の頃から好きなコトをやり続けてきただけで」


(ケッ!それが才能だっつーの!嫌味なヤツ!)と、学生は心の中で思いました。


「才能」とは、一体なんでしょうか?

 この学生が思ったように、「無心になって続けられる」のも才能の1つでしょう。

 けれども、同じように何かに没頭して、それでも芽が出ない者たちは大勢います。それこそ、星の数ほど!

 時間だけ数えれば、イチロー青年よりも努力している者はいるでしょう。でも、結果は出ない。その場合「才能がなかった」とも言えるのではないでしょうか?


 たとえば、同じだけの訓練を受けて、人間とエルフでは目に見えて成長度が違います。走ること、跳ぶこと、剣技、弓矢の扱い方、どれを取っても人間はエルフには勝てません。

 そりゃ、「優秀な人間」と「能力の低いエルフ」を比べれば、時には超えることもあるでしょう。けれども、優秀な者同士、あるいは平均値を比べた時、明らかに人間とエルフの間には差が存在します。

 いわば、それが「才能」というものなのでは?


 (わたくし)は思うのです。

「人には『向き・不向き』が存在している」と。

 たとえば、イチロー青年が物心ついた時から魔法に興味を示し、新たな組み合わせを発見し、次々と新しい魔法を生み出していったように。ある特定の分野において、興味や資質が合致した時、人は信じられないほどの力を発揮する。

 逆に、興味がない(もしくは興味はあるのだが、資質が合わない)モノに対してどんなに時間やエネルギーを注いでも、結果につながらない。

 これこそが才能の正体なのではないか、と。


 おっと、もうすでに日が昇ってしまっていますね。

 それでは、この続きはまた明日にしましょう。

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