~第16夜~「魔法の仕組み(その2)」「ある文化人類学者の考察」
異世界との道が開通し、地球でも魔法を使える人たちが誕生します。彼らは「魔法使い」「魔術師」「魔道士」などと呼ばれました。もちろん、男性だけでなく女性も大勢います。
年齢や職業、家族構成などに関係なく「魔法を扱うのが得意な人」と「苦手な人」が存在します。
たとえば、母親が魔法使いだからといって、その息子も魔法に長けているわけではありません。
ただし、年齢は若い方が得です。
これは、なにも魔法に限ったことではないのですが、「物事を学習する」という行為は、若い方が物覚えが良く有利だというだけのこと。スポンジが水を吸収するがごとく成長していけるから。
もちろん、年を取ってからでも、研鑽を積み成長を怠らない人はいます。ただ、数が少ないというだけで。
あえて言うならば「精神的な修行をしている人」は有利でしょう。
たとえば、「ヨガマスター」「仏教の僧侶」「哲学者」「山伏」あるいは「独房に閉じ込められた死刑囚」といったように。
魔法もやはり精神力を消費しますからね。精神を鍛えている人は、魔法使い向きと言えます。
次に、回復魔法について語っておきましょう。
いかな魔法といえども、万能ではありません。ありとあらゆる傷が治せるような便利なモノではなく、あくまで「自然治癒できるレベルの傷」を急速に治す魔法に過ぎないのです。
たとえば、腕や足が欠損した場合、治癒不可能。指1本失っても、完全には再生できません。せいぜい指の根元の細胞を再生する程度。
それでも、血を止める効果はあるので、出血多量で死亡するリスクは軽減できます。
蘇生魔法。これも、あまり精度が高くありません。
確かに、1度死亡した生物を生き返らせることは可能です。けれども、死者だからといって誰でも復活させられるというわけでもありません。
そもそも死体が残っていないと意味がないし。たとえば、バラバラになった死体をよみがえらせたりという芸当ができるわけではないのです(神様であれば、お話は別かもしれませんが…)
ただし、iPS細胞による再生医療が進めば、科学との融合で「より高度な回復魔法」というものが将来誕生する可能性はあります。
死体が完全に失われた者を現世に呼び戻すことだって可能になるかも?
その場合も「記憶をどうするのか?」という問題は残りますけどね。どこかに記憶のバックアップを取っておいて、新しい脳に移行できるのか?あるいは、「魂」のようなものがあって、それを肉体に移し替えれば済むような話なのか?
疑問は尽きません。
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「ある文化人類学者の考察」
文化人類学とは、その土地の文化や風土といったモノを研究する学問。
たとえば、「何を食べて生きているのか?」「どのような作物を栽培しているのか?」「狩猟のやり方は?」「主食は?」「家畜は?」「着ている物は?」「どのような本を読んでいるのか?そもそも本自体存在しているのか?本があるとして、どのような媒体に記録しているのか?」といった感じで。
ある文化人類学者が研究のため、異世界へと降り立ちます。
地球と異世界の間に道ができたことは、彼女にとって非常にありがたいことでした。
元々は、オーストラリアや東南アジアを中心に、フィールドワークを行っていましたが、全くの未知の世界への扉が開かれたことで、彼女の興味はそちらへいってしまいました。完全に「異世界へと魅了されてしまった」のです(ちなみに「フィールドワーク」とは、研究の対象になる地域を実際に訪れて、現地の人と直接対話したり、共に暮らしたりして造詣を深めること)
異世界人類は、地球の文明レベルでいえば、軽く500年は前の生活をしています。
医学レベルや農業レベルは非常に低く、地球と交流する以前は、生産量の上がらない方法で農耕を行っていました。
顕微鏡や望遠鏡はもちろんのこと、メガネすら存在していませんでした。
…にもかかわらず、魔法が使える人がいたりもする。
地球人からすると、どう考えても「いびつな進化」を遂げているのです。
「魔法はどこからやって来たのだろうか?」と、女性文化人類学者は考えます。
実際に魔法使いや魔術師と会話して「古代の遺跡から発掘されたらしい」ということがわかってきます。
師匠の師匠のそのまた師匠が、どこかの遺跡へ冒険に出かけた際に、壁画や古文書を発見し、魔法を身につけた。それが、現代に伝わっている…という話でした。
ドラゴンやユニコーンなど、地球では見られない生き物も存在しています。そういった生物たちは、誰が生み出したのでしょうか?あるいは、人類が生まれる遙か昔から生息していたのでしょうか?
女性文化人類学者が出した結論。それは…
「世界は1度滅んでいる」
というものでした。
「世界は1度滅び、新しい文明が誕生した。その際に、農業や医術のような技術・知識は失われてしまったが、かろうじて『魔法』だけはこの世に残り続けた。そのカケラとでもいうべきモノを現代人がすくい取って、利用している」
そういう仮説です。
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「いかがでしょうか?シェヘラザード様」と、僕は尋ねる。
「そうねぇ。興味深い話ではあるけれど。ちょっと無理があるような気もするわね」
「私は、これを現実に存在した物語として語っております。けれども、それは『語り手としての立場』であり『聞き手』としては、また別の解釈があっても構いません」
「世の中には不思議なコトがいくつもあるものね。かつて、あたしもそのような物語を無数に語って聞かせたわ。愛する王様に向かってね。だから、語り手としての気持ちもよくわかる。お話というのは、実際に起こったコトかどうは別として、聞いている人が楽しめればそれでいいのよ」
「なるほど。そのような解釈もございますか。では、次は異世界の生物についてのお話とまいりましょう」
ちょうど夜が明ける時間となったので、その日は語るのをやめることを許された。
続きは、また明日の晩に。




