~第10夜~「異世界での単身赴任生活(その2)」「異世界復興物語」
「アンさ~ん!また1人捕まえてきましたよ~」
そう言われて安藤総一郎が振り向くと、「身分登録」の終わっていない冒険者を部下が連行してくるところでした。
「クッソ!ドラゴンキラーと呼ばれたこのオレが、なんでこんなおっさんに頭下げなきゃなんねぇんだよ!」
荒くれ者の冒険者は、この期に及んでブツクサ言っています。
「ダメダメ!盗賊風情はお役人に頭が上がらないって、昔から決まってるんだよ」と、総一郎は笑いながら言いました。
「オレは盗賊じゃないっつーの!」
「似たようなもんだろが。さあ、さっさと登録を済ませて、次からはまともに税金払え」
「ク~、世界がつながってから、なんだか暮らしづらい世の中になっちまったなぁ。昔は自由気ままにやってたのに…」と、荒くれ者はボヤいています。
「なんだったら、お前もこっち側の人間になるか?」と総一郎が誘いをかけると、「そうそう。僕もアンさんにスカウトされて、住民登録省の人間になったんだから」と、総一郎の部下も乗ってきます。
「クゥ…そうするかなぁ~?年のせいか、最近、体の節々も痛んできたし。モンスター狩るのをやめて、人間狩る方に転職するかぁ」などと、ボヤく荒くれ冒険者でありました。
数年後…
安藤総一郎も異世界での単身赴任生活に慣れ、「住民登録省」の人間として忙しく働く日々が過ぎていきます。
そんな、ある日、どこかで見たような顔の女性に出会いました。
「あ!」と、総一郎は声を上げます。
「杏!杏じゃないか!何やってるんだ、こんな所で!」
そう!アンアンこと、総一郎の娘の杏は、エルフのエクセオールを探しに異世界までやって来たのです。
「あ!お父さん!」
「『お父さん!』じゃない。お前、こんな危険な世界に何しに来た?」
アンアンは、これまでの経緯を説明します。
「だから、私はエクセオールを見つけなきゃいけないの!」
「『見つけないといけないの』って、お前。赤ん坊はどうしたんだ?」
「置いてきたわ。私にとっては、子供よりも愛する人の方が大事なのよ!」
「それにしたって、もうちょっと職業を選びなさい。職業を。経産婦なのに肌を露出した女戦士だなんて…魔法使いとか僧侶にしなさい!」
見ると、アンアンは大胆に肌を露出した格好をしています。
異世界では、この手の鎧が女戦士のスタンダードな防具なのです。防御力は低そうですが、仕方がありません。昔から、そういう風に決まっているのですから。
「だって、私、頭悪いから、これしかなれなかったんだもん」
「仕方がない。お父さんもついて行ってやろう」
「ええ~!いいよ、別に。私、1人で探すから」
「そうはいかんだろう」
こうして、総一郎は国家公務員の職を捨てて、娘のアンアンと一緒に旅をすることになりましたとさ。
*
「異世界復興物語」
安藤総一郎の友人に「井上虎五郎」という人物がいました。
虎五郎もまた総一郎と同じように異世界へと赴任してきています。
異世界への道が開かれて、派遣されてきたばかりの頃、虎五郎も総一郎と同じようなセリフをはいていました。
「コイツはひでぇなぁ…」
井上虎五郎の仕事は、異世界住民の生活を向上させること。
ところが、異世界一般住民の生活は予想をはるかに上回るくらい貧相なモノだったのです。
「農業は数百年前のレベルだし。下水道もない。水道だって蛇口をひねれば水が出るわけでもなし。よくて井戸か近くの川から水をくんでくる生活。さて、何から始めるかな…」
とりあえず、虎五郎は一般住民の農業指導から始めることにしました。それに加えて、教育改革。
みんなで協力して学校を建て、子供たちを学ばせました。
この時代、異世界での識字率は非常に低く、5%にも達していません。
都市部で学校に通っている子や、魔法使いを目指している子ならいざ知らず、田舎で農家をやっている子は、まともに本も読めない状態。もちろん、大人も似たようなもの。
その代わり力仕事ならお手のもの。森から木を切り出してきて木材に加工し、学校は瞬く間に完成しました。
子供だけでなく、希望する大人にも「文字の読み書き」と「簡単な計算」を教えます。
幸いなことに、世界各国から援助物資が届いた為、当面の食料や資金には困りません。むしろ、輸送費の方がかかったくらい。
それでも援助は非常にありがたく、虎五郎は到着する端からおしげもなく物資を配っていきます。
特にありがたかったのは、農作物の種でした。異世界の農業は、地球の数百年は遅れており、品種改良された最新の小麦・大豆・米・トウモロコシ・その他もろもろの野菜は、異世界住民の腹を満たしていきます。
残念ながら、そろそろ夜が明ける時間ですね。
それでは、この続きは、また明日の晩に。




