~第100夜~「ゴブリン族の商人ネグロ・ヴェルメリオ(その2)」
異世界から地球へやって来たゴブリンのネグロ・ヴェルメリオ、無料同然で仕入れてきた品物を売りさばいて、ボロ儲けします。
味をしめたネグロ。今度は、心の弱ってる人たちをターゲットに、魔法のアミュレットの販売を始めました。
アミュレットというのは、幸運を呼んだり、邪悪なモノを寄せつけないようにするアイテムで、多くの場合、ペンダントの形になっています。
日本でいうところの、神社でもらえる「お守り」のようなモノですね。
ネグロは、異世界で採れるきれいな石(きれいに光るだけで、ただの石)を加工して、それっぽいペンダントをたくさん作りました。
「シッシッシ!これで、また一儲けしてやるドン!」
いつものごとく手八丁口八丁で、アミュレットを売りまくります。
「ちょいと、そこのお兄さん!そうそう、アンタだよ。アンタ!浮かない顔してるけど、なんぞ悪いコトでもあったのかい?ああ、そうかい。そうかい。競馬で全額スッっちゃって、財布の中身がスッカラカンなのね。そんな時にゃ、このアミュレットが役に立つよ!な~に、値段ならお安くしとくから、そこら辺のATMで1万円札おろしておいで」
「オヤオヤ、そこのおばあさん。どうした?どうした?なになに?オレオレ詐欺にだまされて、悪い奴に300万円だまし取られたって?そりゃ、幸運が足りないからだよ。ほ~ら、ここに幸せを呼ぶ魔法のお守りがあるよ。え?値段?だまされた金額の100分の1にまけとくよ。2度と犯罪者にだまされないとなりゃ、安いもんだろ?」
こんな調子で、いたいけない一般市民から、小銭を巻き上げていくネグロでありました。
…と、最初の内は調子がよかったのですが、ある日、思わぬ事態に遭遇します。
「オイオイ、兄さん。誰に許可取って、こんな場所で商売してんだい?」
「見たとこ、アンタも異世界の人間だねぇ。いけねぇなぁ、地球であこぎなびじねすやってちゃ~」と、ふたり連れのオークにからまれてしまったのです。
オークというのは、ゴブリンよりも背が高く、ガタイもシッカリとしている戦闘向きの種族です。文献によっては、ゴブリンとオークを同一の生き物としていますが、この世界では別の生命体だと考えてください。
異世界から、この手の種族が地球にやって来て、街の用心棒をやっていることがよくあるのです。
(チッ…コイツは、マズいコトになったな。どうにか逃げ出さないと)と、ネグロは考えましたが、2匹のオークに先回りされて逃走できませんでした。
仕方なく、オークとオークの間に挟まれて、事務所へと連れて行かれます。
ネグロの肩はガックリとうなだれていますが、その実、逃げ出す機会を逃すまいと、隙をうかがってもいるのでした。
*
さて、連れて行かれた先は、ジャパニーズヤクザの事務所。
「兄貴!怪しいゴブリンを1匹捕まえてきやしたぜ」と、オークの片割れが話しかけます。
“兄貴”と呼ばれた人物が振り向くと、1匹のオオカミ男でした。
最近では、日本のみならず世界中にこの手の獣人が住み着いています。いろいろな異世界と地球がつながり、わけのわからない生物が次から次へと流入してきているのです。
それを見て、チッと舌打ちするネグロ。ギロリとにらむ兄貴。身を縮めておとなしくするネグロ。
「路上で、勝手にこんなもん売りさばいてたんでさぁ」と、テーブルの上にザ~ッと押収したアミュレットの束を流し広げるオーク。
「フンッ!なかなか、よくできてるじゃね~か。お前さんが作ったのかい?」と、アミュレットの1つを手に取り、丁寧に眺めながらたずねる兄貴。
「ヘッヘッヘ。どうです。うまいもんでしょう?よかったら、おひとつどうぞ。もし、大量にお入り用なら、ドワーフのヤツを雇って量産させますけど」と、下手に出るネグロ。
その言葉を聞いて、オオカミ男の兄貴は「フ~ム」と、しばらく思案します。
「よかろう。ひとつ、お前さんに仕事を頼むとするか」
「へえへえ、なんでも」と、ふたつ返事のネグロ。
「大丈夫ですかいこんな怪しいゴブリンなんぞ雇って」と、手下のひとりがいぶかしがります。
「テメエは黙ってろ!」
兄貴の一言に、オークはそれっきり押し黙ってしまいました。
「お前さんに頼みたいコトってのは…」と、オオカミ男の兄貴は、何やらネグロに耳打ちします。
*
それから数ヶ月の時が経過しました。
ここは、大都会東京。その真ん中にある新宿の高層ビル街。
高速エレベーターに乗って、ビルの40階まで上がると、そこはある宗教団体の神殿になっていました。
勝手にこんな風に改造しちゃって怒られないのかって?
ま、世の中、お金ですからね。お金さえ払えば、大抵のコトはまかり通るのです。
神殿の内部では、正装した司祭が、信者たちに例のアミュレットを渡しています。
「これなるは、神よりたまわりし神聖なアイテムにございます。このアミュレットさえあれば、いかなる悪霊・邪霊も近づくことかないません。今回は、こちらのアイテムを皆様に格安でお譲りしましょう」と、提示された金額は、ゴブリンのネグロが販売していた10倍以上の値段。
その様子を黒い幕の後ろから眺めつつ、笑みを浮かべるネグロ。
「シッシッシ!ま~たまた儲けさせていただきました!」
そう!ネグロの方もシッカリと仲介料を取って、懐を温めていたのです。
どうやら、しばらくの間は、地球でこの手の商売だけでうまくやっていけそうですね。
さて、そろそろお時間となったようです。
それでは、この次の物語は、また明日の夜といたしましょう。




