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イザベラという少女(ジルベール視点)

少し過激な描写が含まれています。

ご注意下さい。

 俺とヘンリーは従兄弟ということもあり、幼少の頃から一緒に遊ぶことが多かった。

 そこにイザベラが関わるようになったのは彼女がヘンリーの婚約者候補に選ばれた5歳の頃からだった。

 最初の頃のイザベラはとても我儘で自分の思い通りにならないと泣き出したり暴れたりと俺もヘンリーも正直あまり好きではなかった。

 俺はまだ付き纏われる事がなかったため良かったのだが、ヘンリーに一目惚れしたイザベラはとにかくヘンリーにベッタリでイザベラが会いに来たと聞くとヘンリーは直ぐに逃げ隠れては見つかるという日々を送っていた。


 そんな彼女が変わったのはヘンリーを探しに出ていた時に階段から転げ落ちてからだった。

 彼女は一週間くらい意識が戻らず、俺もヘンリーも罪悪感から毎日見舞いに行っていた。

 ヘンリーに至っては今回の件で責任を取って婚約者をイザベラにする事まで考えていた。

 しかし目を覚ました彼女の第一声は婚約者候補から外して欲しいだった。

 他の婚約者候補に嫌がらせまでして婚約者になりたがっていた彼女の変わりように俺もヘンリーも驚いた。

 ヘンリーはそんな彼女に興味を持ちその日以降毎日彼女に会いに行くようになった。



「イザベラは天使だ」


 15歳の時、イザベラに会った帰りに俺の家にやってきたヘンリーが胸を押さえながら呟いていた。

 あんなに嫌っていたのに凄い変わりようだ。


「だけどイザベラが可愛すぎて他の男達まで目を付け始めたんだ!」


 興奮するヘンリーが俺に詰め寄った。

 俺にそれを言ってどうしろと?


「そんなに気になるなら早く婚約すればいいだろ」


 婚約を強要出来るのはヘンリーの特権だろう。

 何を躊躇っているんだ?

 ヘンリーは項垂れた。


「イザベラが婚約しても学園に通い始めたら破棄する事になるから自分には関わらないで欲しいと言うんだ」

「学園ってまだ入学もしていないのに?」

「そうなんだ。理由を聞いてもはっきりとは教えてくれなくて…」

「じゃあどうするんだ?イザベラの不安が消えるのを待つのか?」

「…どうしたらいいと思う?」


 泣きそうな顔で見上げられた。

 俺に聞くなよ。


「ヘンリーは結局どうしたいんだ?」

「婚約したい」

「なら婚約すればいいだろ」

「でも婚約してイザベラに嫌われたら…」

「じゃあ止めれば」

「どうしてジルはそんなに冷たいんだよ!イザベラにも全く興味を持たないし!」


 ヘンリーは俺の体を掴んで揺すり始めた。

 鬱陶しい。


「俺が興味を持ってもいいのか」

「これ以上敵が増えたら困る!」


 今度は俺の胸に顔を埋めて泣き始めた。

 もうすぐ王太子になるのに大丈夫かこいつ。

 俺は深い溜息を吐いた。


「好きなら相手に好きになってもらえるまで誠意を尽くすしかないだろ」


 俺に言ったところでどうにかなるわけでもない。

 その日ヘンリーはしょんぼりしながら帰って行った。



 事件が起きたのはその日の夜だった。

 王宮からイザベラが誘拐されたと連絡が入ったのだ。

 勿論ウォーロック公爵邸からも捜索隊が駆り出された。

 俺が屋敷で動向を見守っていると自室の窓に何かが当たる音が聞こえた。

 窓を開けると王宮を抜け出して来たと思われるヘンリーがいた。


 俺は直ぐに庭に出るとヘンリーに駆け寄った。


「何やってんだよ!?」

「イザベラが誘拐された!!」


 いや知ってるし。


「もしかしたら最近イザベラに付き纏っていた伯爵令息が犯人かもしれない!」

「それマイスナー公爵に伝えなかったのか?」

「確信が無かったから…」


 それ嫉妬から疑っているだけじゃないのか?

 本日二度目の溜息を吐いた。


「仕方ない。俺が調べるからお前は王宮に戻れ」

「イザベラが誘拐されたのにのんびり王宮で過ごせない!」

「お前な。自分が王子だという事を忘れるな。お前の身に何かあったら誘拐されたイザベラも責任を負わされるかもしれないんだぞ」


 ヘンリーの胸を指で突きながら言い聞かせた。

 さすがにイザベラに責任は負わせられないと考えたのだろう。

 大人しく王宮へ帰って行った。

 それにしても面倒くさい事になった。

 俺はヘンリーの代わりに(くだん)の伯爵令息を調べる為に動き出したのだった。



 翌日。

 調べ始めて引き受けた事を後悔した。

 この伯爵令息…気持ち悪い…。


 イザベラと出会ったのはイザベラがお忍びで街に出掛けた時らしい。

 その時通りかかった店に文句を付けていた伯爵令息の頬をイザベラが叩いたそうだ。

 普通は怒るところかもしれないがこの令息…惚れたらしい。

 イザベラにその場で結婚を申し込んだとか。

 叩かれた頬が赤く染まっている中での申し込みとか恰好悪すぎる。

 もちろんイザベラは断って帰ろうとしたらしいが、イザベラを平民だと思っていた令息は無理矢理連れて行こうとしてマイスナー公爵邸の護衛騎士に拘束されたそうだ。

 それ以降、毎日のようにマイスナー公爵邸の周囲をウロウロしている姿を目撃されている。

 しかし今日は姿を見せていない。

 ヘンリーの予想が的中したか。


 俺は地図を開いた。

 もしこの令息が犯人なら計画は単純かもしれない。

 まず令息は爵位を引き継いでおらず親の庇護下にある。

 その為伯爵邸に帰らなければ行方不明として捜索されてしまうがそのような話は出ていない。

 さらにイザベラの食事の確保も必要となるため行動範囲は伯爵邸周辺に限られる。

 条件に当てはまらない場所を消していった。

 すると一ヶ所だけ隠れるのにも最適でかつ令息が目を付けそうな場所が伯爵邸の近くに残っていた。

 それは別の場所に建て直されて使われなくなった廃校である。

 沢山の部屋があるから隠しておくにも最適であり、さらに令息はこの廃校を去年卒業したばかりであり内部を知り尽くしている。

 俺は早速廃校へと向かった。



 昼間というのに廃校は薄暗く気味が悪かった。

 ここにいるかどうかも分からないし令息に見つかると逃げられる可能性があるため俺一人で来ていた。

 居なければ良し。居たとしても立て直してから来ても良し。

 とりあえずこの場所にイザベラがいるのか確認することを優先した。

 校舎に入り警戒しながら歩いていると二階の方から女性の小さな悲鳴が聞こえた。

 俺が急いで声の方に向かうと…。


「キャーーーー!!あっち行ってよ変態!!」


 床にはイザベラが自分で解いて外したと思われる縄があり、伯爵令息は逃げ出そうとしたイザベラに踏みつけられていた。

 その手には新しい縄を持っていた事から再度拘束しようとして反撃されたのだろう。

 これは放っておいてもそのうち自分で帰ってきたかもしれない…。

 踏みつけられている令息が今何を思っているのかについては、俺には理解出来ない領域なので省かせてもらいたい。

 呆然と立ち尽くす俺に気付いたイザベラの目から涙が溢れた。


「ジル…来てくれたの?」

「ヘンリーに頼まれてね」


 イザベラが俺の胸に飛び込んできた。

 床にうつ伏せで倒れている令息を横目で見た。

 確かにこれは怖かったよな。

 俺でも怖いから。

 イザベラの背中を撫でてやると床で寝転がっていた令息が怒りで全身を震わせた。


「僕のイザベラから離れろ!!」


 うつ伏せになりながら言われても…。

 とりあえず気持ち悪いし早く拘束するか。

 俺は令息の持っていた縄で腰をやられて動けなくなってしまった令息をグルグル巻きに拘束し、ついでに気持ちの悪い発言をしないよう布で口を塞いだ。

 あとは警備兵に引き渡すだけだが、イザベラを送り届けるのが先だと判断し令息をとりあえず放置する事にした。

 たとえ逃げ出せたとしても公爵令嬢を監禁した罪は重い。

 誰も助けてくれないどころか父である伯爵も見捨てるだろう。

 しかもこいつは坊ちゃん気質だから一人では何も出来ないため逃げたところで逃げ道はない。


 俺は放置しても安心だと判断しマイスナー公爵邸までイザベラを送り届けた。

 子供の俺が勝手に動いたとなるとややこしくなるし、公爵にはイザベラが説明するだろうと考え門前で別れる事にした。


「ジル。ありがとう。今度お礼をさせてくれる?」

「お礼ならヘンリーにしてやって。伯爵令息が怪しいってわざわざ俺に伝えにきたのはあいつだから」

「そう…」


 うーん。イザベラの反応がいまいちだ。

 ヘンリー何かしたのか?


「今日はゆっくり休めよ」


 頭を撫でるとイザベラの顔が真っ赤になった。

 女性の頭を撫でるとか失礼だったか。

 直ぐに手を引っ込め、そのまま俺は帰宅したのだが部屋に戻ると疲れてそのまま眠ってしまった。

 何か大事な事を忘れている気がするけど眠いからいいや。


 翌日息子が行方不明になったという伯爵の騒ぎで思い出した。

 伯爵令息の居場所を警備兵に伝え忘れて丸一日廃校で放置してしまっていたことを。


 この日から俺がイザベラに付き纏う令息を消したという不本意な噂が立つようになったのだった。

 




読んで頂きありがとうございます。

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