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雪解け

 断罪イベント?が終わり、私とジルベールは元お気に入りの場所へと来ていた。


「それで。話とは何ですか?」


 普通ならまずはお礼を言うところだが敢えて抜いた。

 別に私は平民になっても良かったわけだしジルベールに助けを求めた訳でもない。

 そんな冷たい態度にジルベールは苦笑いを浮かべた。


「サラの誤解を解きたくて」

「誤解って何のですか?私は何も誤解していませんが」

「俺とイザベラの関係についてだよ」


 そんな事どうでもいい。

 ジルベールがイザベラの事を好きだろうが私には関係ない。


「別に御二人がどのような関係でも私は何も気にしていませんから」


 ん?この言い方だと気にしている感じになってしまうか?


「いや!そうじゃなくて、御二人の関係は以前から知っていましたから!」


 言い換えるとジルベールが噴き出した。

 何が可笑しい。


「そんなに必死になられると気にしていますって聞こえるけど」


 恥ずかしくなり顔が真っ赤になった。


「か…揶揄いたいだけなら戻ります!」

「俺はイザベラを異性として見たことは一度もない」


 踵を返すとジルベールの真剣な声が返ってきた。

 驚き振り返るとジルベールのラピスラズリの瞳が私を見据えていた。


「俺にとってヘンリーとイザベラは兄妹のような存在だ。二人の幸せを願ってはいるが俺が幸せにしてやるとかそんな気持ちはない」

「どうしてそれを私に…」

「どうしてだろう。サラとは気兼ねなく話が出来る関係になりたいと思ったんだ」


 つまり親友ポジという事ですか。

 でも親友を監視するってどうなのよ。


「そう言いながら私の事、監視していましたよね?」


 ジルベールはばつが悪そうに視線を逸らした。


「見ていた事は謝るよ」


 やっぱり監視していたのか。


「でも別にサラを警戒していたとかじゃなくて…興味があったんだ」


 …ん?

 ジルベールの顔が赤くなった。


「サラって他の令嬢達と全く違う行動をとるから…その…見ていて飽きないというか…」


 珍獣か!?


「それはとても楽しまれたようで」


 頬を引きつらせながら睨むとジルベールは直ぐに弁明した。


「そうじゃなくてなんていうか見ていたらもっとサラを知りたくなったというか…仲良くなりたかったんだ」


 私の顔色を窺いながら照れくさそうに話すジルベールを可愛いと思った事は黙っておこう。


「でも他の奴等の目があるから教室ではあまり話しかけない方がいいだろ?公爵の息子の俺が男爵令嬢のサラに声をかければサラも知っての通り凄い噂に発展するから。そうなった時サラが嫌な思いをするかと思って…」


 教室であまり声をかけてこなかったのはジルベールなりに気を遣ってくれていたんだ。

 刺々しい感情が少し和らいだ。


「だからずっと話をする機会を窺っていたんだけど…まさか最初の接触が人命救助とか…焦ったよ」


 それに関してはぐうの音も出ない。

 確かにあれはジルベールが監視してくれていなかったら大変な事になっていたかもしれない。

 思い出して身震いした。


「話をしてみたら思っていたよりずっと楽しくて。もっと色んな話をしたいと思っていたのに…パンケーキを作ってくれた後は全く姿を見せてくれなくなって」


 ジト目で見られて視線を逸らした。

 避けていたことは否定しません。


「ようやく見つけたと思ったらまた寝てるし」

「寝顔見たの!?」

「何を今更。制服の上着をかけた時だって寝てたでしょ」


 そうでした。

 よく考えたら誰かが上着をかけてくれた時点で寝顔はバッチリ見られているという事だ。

 涎垂らしてないよね。


「お…乙女の寝顔を見るのはどうかと思いますが…」

「それ以前に素足で地面に寝転がる乙女もどうかと思うけど」


 何も言えない。


「心配しなくても可愛かったよ」


 何てことを言うんだこの人は!?

 私は頭から火を噴いた。

 この人天然誑しか?

 熱くなる頬を押さえているとジルベールがいつの間にか目の前に立っていた。


「サラが嫌ならもう付き纏わない。でももし友達になってくれるなら、またここで会いたい」


 ジルベールの真摯な態度に胸が高鳴った。

 もちろん破滅を回避するなら断るべきだ。


「いいですよ。この場所なら人目も付きませんし」


 口から出た言葉は頭で考えていた事とは真逆の答えだった。

 不安と嬉しい感情が入り混じり心はざわついていた。


「ありがとう、サラ」


 嬉しそうに笑うジルベールに混乱した心が安心へと変わった。


「私の方こそ食堂では助けて頂きありがとうございました」


 お礼を言いながら微笑み返した。

 この選択は果たして吉と出るか凶と出るか…。

 ジルベールの綻ぶ顔にこの選択は間違っていないはずと言い聞かせたのだった。



 和解は出来たが気になっている事があると伝えると立ち話もなんだしと地面に座る事にしたのだが、さすが公爵令息。

 私の座るところにハンカチを敷いてくれた。

 こんな紳士的な扱いを受けたのは初めてだ。

 学園の令嬢達が騒ぐ気持ちが少しだけ分かった。

 これ、後で汚したからとかで断罪されないよね。

 多少の不安を抱きながら恐る恐るハンカチの上に腰を下ろした。


「どうして私が何か知っているのか聞いたのですか?」

「その前に敬語を止めない?」


 早速本題に入ろうとするも話を遮られた。


「せめて二人だけの時は敬語を止めて欲しい。敬語を使われると壁を感じるし」


 タメ口の方が私としても助かる。


「分かった。この場所にいる時だけね」


 ジルベールは満足そうに頷いた。


「それでイザベラの事で何か知っているか聞いた時の話?」


 私はコクコクと頷いた。


「サラとイザベラを見ていたら一目瞭然だけど…」


 そんなに不審な行動をとった覚えがないけど。

 振り返っても心当たりはない。

 令嬢とは思えないような不審な行動はとったことはあるがイザベラとは基本関わりを避けていたから疑われる要素はない…はず。

 ジルベールはそれ以上何も答える気がなさそうだった為、他の質問をしてみた。


「イザベラは私の何もしない宣言に何か言っていた?」


 話をまとめようとしているのか少し考えてから口を開いた。


「『そう』とだけ」


 絶対もっと何か言っていたでしょ。

 じゃなかったら考える必要ないし。

 これも答える気がないのかと不信感を募らせていると今度はジルベールが質問してきた。


「それよりキャットって名前に何か意味があるの?」


 どうして突然…。

 英語の話をすると前世の話をしなければならなくなるし、かといって何処かの国の言葉だと話して根掘り葉掘り聞かれても上手くかわせる自信がない。

 確かに聞かれて困る質問って返事にも困るよね。

 自分の質問にはっきりと答えないジルベールにあたる権利は私には無いと悟った。


「何か不都合でもあった?」


 私の心を見透かすような瞳を向けてきた。


「キャットの名前を出したらイザベラが直ぐに猫だと分かったから」


 心臓が大きく脈打った。

 キャットを猫だと分かるってことは…やっぱりイザベラは前世の記憶持ちなんだ!


 この時の私達は忘れていた。

 午後の授業が始まってしまっていた事を。





読んで頂きありがとうございます。


次話から4話ジルベール視点になります。

重複する内容があるため気になる方のみ読んで頂ければ幸いです。

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