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断罪イベント?

 ジルベールに背を向けてから数日が経った。

 最近では少しの休憩時間も教室にはいないようにしている。

 理由は時々感じるジルベールの視線から逃れるためだ。

 何か言いたげにこちらを見ている時があるのだが、私は決して視線を合わせなかった。

 今では私との噂も消え、最近ではジルベールとイザベラの噂話で持ち切りとなった。

 『二人で楽しそうに話していた』だの『やっぱりジルベールはイザベラ一筋だった』だの…くだらない。

 別に私とも何かあったわけではなかったのに勝手に脚色したのはあんた達でしょ。

 無責任な噂話に嫌気が差して廊下をイライラしながら歩いていた所為か『首席がジルベールに失恋した』という余計な噂まで追加されたのだった。

 余計なお世話だ!

 失恋してないし、そもそも恋愛に発展してないわ!



 昼休みになり食堂で昼食を選んでいた。

 この学園の食事は全て無料…というより学費に含まれている。

 貴族しか通えない理由の一つとしてこの食事も含まれた全ての設備が無料になる代わりに、底辺貴族の生活費を圧迫するくらいの高い学費が必要なのだ。

 それなのに何故底辺貴族が無理をしてまで子供をこの学園に通わせるかというと、上流貴族とお知り合いになれる唯一のチャンスだからだ。

 息子なら側近や取り巻きに、娘なら結婚相手をと貧乏な親達は一攫千金を虎視眈々と狙っているのだ。

 斯く言う私の親でもある男爵も私を引き取った理由はここにあった。

 そうでなければ私のような平民を引き取る事はなかったと男爵と継母が話をしているのを偶然聞いてしまっていた。

 私がこの学園生活を空気のように過ごそうと決意したのはこの冷めきった関係もあったからだ。


 昼食を手に取り持って行こうと振り返ると目の前に恰幅の良い中年親父が私を見下していた。


「お前がルブイン男爵令嬢か?」

「そうですけど…何か?」


 偉そうな中年親父は鼻で笑った。


「娘の言う通り礼儀のなっていない奴だ」


 誰だこいつ?

 胡散臭そうな顔で見返すと中年親父は怒鳴った。


「私は伯爵だぞ。礼儀を尽くさないか!」


 伯爵は腕を組み私を睨んだ。

 伯爵?伯爵が私に何の用なんだ?


「失礼致しました。私は…」


 礼儀を尽くせと言われたので不本意だがカーテシーをして挨拶をしようとした。


「喋れとは言っていない!勝手に喋るな!」


 礼儀を尽くせと言ったのはそっちだろ!

 急に怒鳴り、さらに理不尽な言い分に頭にきた。

 じゃあ、一切喋りませんから!!

 私は真一文字に口を結び、黙りを決め込んだ。


「お前は私の娘の友人を突き飛ばしたらしいな」

「お父様、この娘で間違いありません」


 伯爵の隣に立ち芝居がかった悲しそうな演技で伯爵に訴えたのは、イビリー’sのリーダーである伯爵令嬢だった。

 お前いたのか。

 親父の横幅がデカすぎて見えなかったわ。

 体を傾けると伯爵の後ろには他の令嬢達も大名行列のように連なっていた。

 大奥か!

 呆れ返る私を余所に親子は盛り上がっていた。


「全くお前のような野蛮な娘がこのような高貴な学校に通えるとは…制度を変える必要がありそうだな」


 野蛮って最初に突き飛ばしてきたのはそっちだけどね!

 後ろにいる私を突き飛ばした令嬢を睨むと令嬢は私から視線を逸らした。

 どうせ注意したら私が突然突き飛ばしてきたとか何とか言ったんでしょ。

 お前等みたいな奴等が上流階級とか世も末だよ!

 家の男爵といい、貴族なんて所詮腐った奴等の溜まり場なんだ。

 こんな腐った世界で暮らすくらいなら元の平民として暮らす方が余程ましだ。


「学園に任せるとお前の処罰が甘くなりそうだから、私が自ら処罰を下してやろう」


 命乞いをしろと言わんばかりの偉そうな態度の伯爵を無視して考えてみた。

 処罰をするにしても伯爵程度なら私を処刑する事までは出来ないだろう。

 妥当なところで学園追放。

 出来て精々平民落ちくらいだろう。

 起こるかどうかは分からないけど、ヘンリーの断罪イベントより罪は軽いはず。

 そう考えればここで断罪されるのはある意味幸運と言えるかも!

 よし!ドンとこい!!

 私が嬉しそうに顔を上げると伯爵は少し怯んだが、咳払いをして気を取り直すと口を開いた。


「お前の処罰は学園追…」

「これは何の騒ぎ?」


 伯爵の断罪を遮って現れたのはジルベールだった。


「これはウォーロック公爵令息」


 先程までの威勢は何処へ行った。

 伯爵は掌を返したようにジルベールに頭をペコペコ下げた。

 踏ん反り返っていた時はデカく見えたが…小っさ!

 ジルベールは私の隣まで歩みより、私を一瞥すると伯爵に向き直った。


「それで?何をしていたんですか?」


 ジルベールの伯爵への問いに呆然としていた私も目が覚めた。

 ヤバい!

 ジルベールが関わるとややこしい事になる!

 もし私が乱暴な生徒だと判断されたらイザベラに危害を加えるとしてヘンリーに処刑を提示する事も出来てしまう。

 何でこのタイミングで現れるのよ。

 どうせなら断罪が済んでから来てよ。

 理由を述べるなと伯爵を睨むも伯爵は恐縮し通しで役に立たない。

 焦る私に追い打ちをかけたのは伯爵令嬢だった。

 お前しゃしゃり出てくるんじゃない!


「ジルベール様、聞いてください。彼女が私の友達を突き飛ばし怪我をさせたのです」


 伯爵令嬢は迫真の演技でハンカチを目元に当てか弱い女子を演じた。

 終わった…。終わったよ。16歳の人生か…。

 令嬢になってからも決して幸せだったとは言えなかった。

 一番幸せだったのは母が生きていた頃か。

 走馬灯のように天を仰ぎながら過去を振り返った。

 特に贅沢をした訳でもないし、慎ましく生きてきたつもりだ。

 それなのにたった一回令嬢と揉めただけで人生終わるとか…呆気ないものだな。


「それは…」


 由々しき事態ですよね。


「貴方方が挨拶を教えていただけだったように記憶しているが?」


 そう…挨拶を教えて…って!

 どうしてそれを知ってるの!?

 驚きでジルベールを見上げると「ん?」と微笑まれた。

 なるほど。監視していたわけですね。

 思わず顔を(しか)めた。


「二階の窓から沢山の令嬢が彼女を囲っていたのでいじめかと思い助けに向かったのだが、先に突き飛ばされた彼女が『挨拶の仕方ではないのか』と話しているのを聞いて令嬢の挨拶の仕方を指導していたのかと判断したのだが」


 この男マジですか?

 挨拶の仕方と言ったのは確かに私だが、生粋の貴族令息であるジルベールがその状況で挨拶と判断するとか…今の言い方だと誰が聞いてもいじめていたとしか判断されないぞ。


「まあ、俺もまさか伯爵令嬢ともあろう方が他の者を蔑むような真似はされないと思ってはいたが」


 ジルベールが不敵な笑みを浮かべた。

 その場にいた全員の背筋が凍った。

 さすが公爵令息。

 私の不敵な笑みとは比べ物にならない。


「それで伯爵は今日はどのような用件で来られたのですか?まさか伯爵のような方が子供の問題にわざわざ口を出しにいらっしゃるほど暇なわけではないですよね?」


 ジルベールは伯爵に視線を移すと伯爵の顔から凄い汗が噴き出した。

 まさに蛇に睨まれた蛙状態だ。


「いえ…今日は…そう!学園の寄付について学園長と話をしたいと思い伺ったのですが、学園長にお会い出来なかったので…」

「寄付ですか。それは有難い申し出です。早速私の部屋で書類に署名をして頂きましょう」


 ジルベールの後ろから登場したのは学園長だった。

 タイミング良すぎでしょ!?

 伯爵もまさかの展開に顔面蒼白となった。

 そりゃそうだ。学費と違って寄付は全貴族に金額が公開されるため下手な額を出すと笑い者になってしまう。

 そのため寄付金を出すのは裕福な侯爵以上の家柄がほとんどであり、見栄の張り合いにもなっている事から年々金額が吊り上がっていっているとか…。

 可哀相に藪をつついて蛇を出してしまったようだ。

 最初の威厳は何処へやら。

 伯爵は10歳くらい老けて20kgくらい痩せたような容貌で学園長に連行されていった。

 伯爵令嬢の取り巻き達も蜘蛛の子を散らすように姿を消した。

 残された伯爵令嬢は金銭面からも今後この学園に通えるかどうかも怪しい状態だ。


「サラ。話があるんだ」


 一段落ついたところでジルベールが小声で話しかけてきた。

 正直話をしたくはないが結果的にこの状況を解決してくれたのはジルベールだ。

 私は無言で頷いたのだった。



 


読んで頂きありがとうございます。

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