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重鎮会議へ殴り込み

 判決が出る前に急がなければいけないのは分かるが…急ぎ過ぎでしょ!!

 馬車は上下左右に揺れまくり。

 完全にドリフト走行である。

 いつ脱線するか分からない恐怖も相まって古い遊園地の遊具よりも危険なアトラクションと化していた。

 必死に馬車の座席部分を掴むも揺れが強くて手が離れてしまった。

 体は扉の方に飛んでいき焦った。

 放り出される!!

 ギュッと目を瞑ると体の動きが止まった。

 恐る恐る目を開けると目の前には涎が出そうなくらい逞しい胸元…じゃなくてジルが私の体を抱き寄せてくれていた。


「サラ、大丈夫?」


 耳元で囁かれて胸が高鳴った。


「だ…大丈夫…ありがとう、ジル」


 私、今きっと顔真っ赤だ…。

 座り直そうとジルの腕から離れるとジルが私の乱れた髪を耳にかけ直しながら微笑んだ。


「どういたしまして」


 ヤバい!心臓撃ち抜かれた!!

 一人悶絶していると向かいの席から鋭い視線を感じた。

 顔を上げると『俺の前で何いちゃついてんだよ』と言わんばかりの顔でヘンリーにガンを飛ばされた。

 もっと見せつけてやろうかなと思った事は黙っておこう。



 王宮に到着し馬車を降りると視界がグルグル回った。

 これ絶対三半規管に異常をきたしているよね。

 もし障害が残ったらヘンリーに損害賠償請求してやる!


 私達は重鎮会議が行われている部屋へと千鳥足で急いだ。

 扉の前には二人の騎士が立っており、会議はまだ終わっていないようだった。


「陛下にお話ししたい事がある。ここを通せ」

「陛下より何人も通すなとのご命令を受けておりますのでお引き取り下さい」


 ヘンリーが騎士に命じるも騎士達は槍を扉の前でクロスさせ入室を拒んだ。


「今回の会議の議題にも挙がっている重要な案件だ。陛下に取り次いでくれ」


 騎士達は顔を見合わせ相談すると確認のため一人の騎士が中に入ろうと扉を開けた。


「今だ!行け!」


 ヘンリーが中に入ろうとしていた騎士にタックルした。

 殴り込みとは言ったがもっと穏便な方法は無かったのか!?

 しかしここで躊躇うわけにも行かず、私は部屋に飛び込んだ。


「何事だ!?」


 中にいた偉そうな貴族数名が立ち上がった。

 最悪な状況だが引き下がるわけにもいかない。

 私は覚悟を決めて中央の空間に進み出た。


「突然の非礼をお許しください。サラ・イングリット・ルブインと申します。マイスナー公爵令嬢から聴取をした結果をご報告に参りました」


 カーテシーすると同時に退室させにくい内容をぶっこんだ。


「今更聴取したところで処罰は…」


 貴族の一人が鼻で笑いながら返答すると陛下が手を挙げて制止した。


「聴取した内容を聞いてからでも遅くはないだろう」


 陛下の言葉に一同は黙り込んだ。

 ヘンリーとは違い、威圧感のある声音に手汗を掻いた。

 この二人本当に親子か?

 トンビが鷹を産むということわざがあるが、この親子はどちらかと言えば鷹がトンビを産んだとても残念な例ではないだろうか。


「ありがとうございます。まず今回の事件は不運な偶然が重なった…」


 次の言葉で恐らく反発されるだろう。

 バクバク音を立てる心臓を落ち着かせるため一呼吸置いて続けた。


「事故です」


 これには貴族達も黙ってはいなかった。


「事故だと?何を馬鹿げた事を。毒を所持しておいて事故である訳がないだろう!」


 会議室は貴族達の怒声が響き渡るも、陛下が手を挙げると皆静かになった。

 何の茶番だよ。


「続きを話しなさい」


 陛下に促され口を開いた。


「皆様もご報告を受けられたようにマイスナー公爵令嬢は確かに毒を購入されました。しかし、その毒は自分に使うつもりだったのです」

「何を言うかと思えば馬鹿馬鹿しい。毒を自分で飲む奴があるか!」

「そうだ。マイスナー公爵令嬢はヘンリー王太子殿下と婚約破棄をしたがっていた。大方破棄が出来ないから毒殺しようとでも考えたのだろう」

「イザベラはそんな事を考えたりしない!!」


 私の後ろに控えていたヘンリーが貴族に怒鳴った。


「イザベラが婚約破棄をすると言ったのは全て私の為だ!!」


 へえ。たまにはカッコいい事も言えるんだね。

 ヘンリーが良い事を言ってくれたお陰で話を上手くまとめられそうだ。

 ここからが私の腕の見せ所だぞ。


「その通りです。マイスナー公爵令嬢は王太子殿下の事を常に考えていました」


 『え?そうだったの?』って嬉しそうな顔でこっち見るな。嘘だから。


「彼女が一度でも王室を汚すような真似をされましたか?婚約破棄をしたいならもっと簡単な方法はいくらでもあったはずです。学校生活を見ていても他の令嬢達を上手く統率なさっていた。王太子妃の資質は誰もが認めるものでした」


 後ろの男がうるさいくらい頷いているのだが…。


「しかしそんな彼女もまだ16歳の少女です。王太子の婚約者という重圧に不安が無かったわけではありません」


 『そんなの俺が支えてやる』って顔しないでもらえますか?

 あんた私の嘘に翻弄され過ぎでしょ。


「そこで彼女は王太子殿下のお手を煩わせないように自分の身は自分で守る術を身に付けようとしたのです」


 後ろの反応はうるさいが、前の無表情には緊張する。

 私は間違っていないだろうか…。


「王宮は決して安全な場所とは言い難いと存じます。裏では様々な思惑が暗躍している中で自分の身を守るには時に道徳から外れた行いも必要だと思います」


 これで納得してくれなければ終わりだ。

 緊張しながら話を続けた。


「イザベラはその方法の一つとして毒の耐性を付ける事を選んだのです」


 会議室がざわついた。


「そんな言い訳が通用すると思っているのか!?耐性を付けたいなら何故一人でやろうとしたんだ。その時点で誰かを毒殺しようと考えていたのは明白だ!!」


 私は怒鳴った貴族を指差した。


「このように少しでも粗があると非難をなさる方がいらっしゃるからイザベラは秘密裏に動くしかなかったのです!」


 指を差された貴族は顔を真っ赤にして全身を震わせた。

 私は指を下ろすと陛下に向き直った。


「イザベラが今回購入した毒は少量であれば中毒症状が軽く出る程度の物でした。調べて頂ければ直ぐに分かるはずです」


 無言の陛下を見据えた。


「これらの事からマイスナー公爵令嬢の毒殺疑惑は無実無根です」


 それまで黙って聞いていた陛下が重い口を開いた。


「話はそれだけか?」


 陛下の声音に心臓が嫌な音を立てた。

 失敗した…?


「ここにいる者達はこの国を支える重鎮達だ。口を慎むように」


 貴族達は勝ち誇ったような顔で陛下から叱責を受ける私を見つめていた。


「もう話す事がないなら下がりなさい」


 陛下の言葉に焦った。

 このままではイザベラは…!


「陛下!」

「下がれと言っているのだ!!」


 バタバタと入室してきた騎士達が私達を捕らえて会議室から引っ張り出された。

 閉じられた扉は騎士達にガードされ、二度と開く事はなかった。



 止むを得ずヘンリーの部屋にお邪魔して結果を待った。

 しばらくして使用人が重鎮会議の結果を伝えに来た。

 その結果は…。


 イザベラ 騒動を引き起こし、皆に迷惑をかけた罰で三ヶ月の謹慎処分

 ヘンリー 騎士に暴行を加え重鎮会議を汚したとして一ヶ月の謹慎処分

 私    重鎮会議に乗り込み重鎮達に無礼を働いたとして一週間の謹慎処分


 となったのだった。

 ヘンリーとイザベラの婚約については継続という判決が下った。


 これ私が一番損してないか?





読んで頂きありがとうございます。

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