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悪役令嬢の末路

 ジルが渡した調査報告書を重く受け止めた王宮はイザベラの意識が戻らないまま重鎮会議が開かれる事になった。

 内容はイザベラの王太子妃としての資質と毒を所持しようとした処罰についてだ。

 もちろん私やジルは参加出来ないため結果を待つだけとなった。

 間もなく重鎮会議が開かれる事もあり落ち着かない私はジルの部屋をウロウロ歩き回っていた。


「落ち着けよ、サラ」

「落ち着けないよ。だって本人が目を覚ましてないのに処罰を決めるとか。まだどういう意図で毒を購入したのかも分かっていないのに…」

「仕方がないよ。毒を購入した時点で良い事に使われないというのは容易に想像できるから」


 そう言いながらもジルもこれで良かったのか迷っているようだ。

 沈黙が続く中、ジルの部屋に入って来たヴィルマーから伝えられた。


「マイスナー公爵令嬢の意識が戻られたそうです」



 マイスナー公爵邸に着くと屋敷内は騒然としていた。

 執事にイザベラに会いたい事を伝えると短時間だけならと許可が出た。


 部屋に入るとイザベラは体を起こしてベッドの上で座っていた。

 毒の話を聞いたのだろうか、イザベラから哀愁が漂っていた。


「二人とも来てくれたの。こんな姿でごめんなさい」


 力無く笑うイザベラに私もジルも言葉を失った。

 黙り込む私達に苦笑いを浮かべたイザベラが口を開いた。


「ジル。少し彼女と二人で話がしたいのだけどいいかしら?」


 ジルは一瞬躊躇ったが私が頷くと部屋を出ていった。


「どう?これが悪役令嬢の末路よ」


 イザベラは泣き笑いのような複雑な顔で笑った。


「どうして毒を…」


 イザベラは俯きながら呟いた。


「貴方を嵌めようと思ったのよ」


 やっぱり私に毒を飲ますつもりで…。


「貴方に毒を盛られたとなれば貴方はジルの傍にいられなくなるから…」

「え?自分で飲むつもりだったの?」

「誰かに毒を盛ろうと考えるほど図太くないわよ」

「そこまでしてジルの事を?」

「幼い頃に前世の記憶が戻ってから周りが私に心酔していく姿がずっと怖かった。異常なまでのその感情がいつか敵意として向けられるのではないかと」


 私は前世の記憶が戻ってから数ヶ月しか経っていないけど、イザベラは幼少の頃から自分が悪役令嬢である不安と戦ってきたんだ。

 自分に敵意を剥き出しにしていた周囲の反応が急激に変わる姿を眺めながら、見えない未来に怯えて。


「そんな中で唯一態度が変わらなかったジルは私の安らぎだったのよ」


 たぶんイザベラにとってジルは色眼鏡でイザベラを見ない唯一の人だったのだろう。

 私もジルが受け止めてくれていたから自分らしくいられたのだと思う。


「だけど私の負けよ。恋に溺れてジルを手に入れたいと思った時点で破滅するのが悪役令嬢のセオリーだから」


 本当にそうだろうか。


「イザベラはこの世界がどういう世界か心当たりがあるの?私は前世の記憶を辿ってもここがどういう世界なのか知らないから」

「いいえ。ただ記憶が戻る前の自分はとても我儘だったからもしかしてと思っただけよ」

「だとしたら私達って前世の記憶に翻弄され過ぎている気がするの」


 イザベラが顔を上げた。


「本当は破滅系ヒロインも悪役令嬢もいなくて私達はただの男爵令嬢であり公爵令嬢なだけだと思う」


 そう前世と同じでそんなものを気にせず普通に生活するだけで良かったのだ。


「だけど貴方は自ら道を外した。今はその報いを受けているだけなのよ」


 イザベラの目から涙が流れ落ちた。

 え?私、何か泣かすような事言ったっけ!?


「ずっと不安だったのよ。ヘンリーとの婚約も破棄してもらえないし、ヒロインらしき人物が本当に現れるし。そのうち断罪されてしまう運命なのではないのかって…」


 イザベラは憑き物が落ちたような晴れ晴れとした表情で天を見上げた。


「でも何も考えずに普通に生きていれば良かったのね」


 もしかしたらイザベラは前世の記憶に囚われ過ぎて心が病んでしまっていたのかもしれない。

 これでイザベラの心は救われたかもしれないが毒を所持した罪は…。

 考え込んでいると廊下が騒がしくなった。

 何事かと入口に目を向けると勢いよく扉が開いた。


「イザベラ!!」


 現れたのはヘンリーだった。


「イザベラ良かった!どれだけ心配したと思っているんだ!」


 ヘンリーはイザベラを力一杯抱きしめた。


「私の事、軽蔑してないの?」

「軽蔑なんかするわけないだろ。むしろ俺が不甲斐ないばかりにイザベラを苦しめた」


 イザベラはヘンリーの腕の中で力強く首を振った。


「貴方を苦しめていたのは私の方よ。だって私はジルが…」

「何も言わなくていい。イザベラが誰を想っているか本当は知っていたんだ。それでも手放せなかった。だからイザベラが毒に手を出してしまうまで追い詰めた俺の責任なんだ」


 あんた私が毒を盛ったって断罪してくれちゃったけど、その責任はどうとってくれるのか。

 私は感動と怒りが混ざった複雑な涙を流した。


「ヘンリーはこんな私でも愛してくれているの?」

「当たり前だ!こんな事で冷める程、俺の愛は薄っぺらくない!」


 私は鼻をすすった。

 イザベラ良かったね。

 イザベラは自分に心酔する感情が怖いと言っていたけれど、ジル以外にもイザベラの事を変わらず愛してくれる人がいたじゃない。

 脳内は薄っぺらいけどね。

 イザベラは震える手でヘンリーの背に手を回した。


「ヘンリー、心配かけてごめんなさい」


 その言葉を聞いたヘンリーの肩が震えた。

 泣いているのか?

 それを眺めていた私にそっと隣からハンカチが差し出された。

 隣にはいつの間にか室内に入ってきていたジルが立っていた。

 私はハンカチを受け取ると鼻をかんだ。

 ごめん。鼻水が限界だった。

 今度新しいハンカチプレゼントしますから。


「でもヘンリーごめんなさい。私はもう貴方の傍にはいられない…多分修道院行きだから…」


 イザベラはヘンリーを押し返し哀し気に俯いた。


「絶対にイザベラを修道院には行かせない!俺が王太子として何とかしてみせる!」


 いや絶対お前何の策も無いだろ。

 ジルとイザベラも同じ事を考えていたのか苦笑いを浮かべていた。

 イザベラは毒を自分に使うと言っていた。

 死ぬかもしれないのに何故自分に使おうと思ったんだろう?


「お取込み中のところ失礼しますが…」


 挙手する私をヘンリーが鬼の形相で睨んできた。

 協力するの止めようかな…。

 ヘンリーを無視してイザベラに話し掛けた。


「死ぬかもしれなかったのにどうして毒を使おうと思ったの?」

「あの毒は少量であれば軽い中毒症状が出る程度の強さだったからよ」


 て事は…あの僕ちゃん令息多量に混ぜたって事か!?

 あわよくばどころか完全に真っ黒だよ!!

 しかしそういう事なら何とかなるかもしれない。


「王太子殿下。私を重鎮会議に参加させて下さい」

「お前は本物の馬鹿か?重鎮会議の意味が分かっていないのか?()()会議だぞ」


 お前に言われなくても分かってるわ!


「バカはお前だ!!」

「お前一度ならず二度までも…不敬だぞ!!処刑されないと分からないのか!?」


 何でこんなのが王太子なんだ?

 この国こんなんで本当に大丈夫か?


「お前こそ状況を見てものを喋れ!このままだとイザベラは修道院行き間違いなしだ!それを回避出来るかもしれないから頭下げて頼んでいるんでしょうが!!それとも何?あんたに何か良い策があるっての?」


 ヘンリーの胸を指で激しく突くとヘンリーは押し黙った。


「あんたの取り柄はせいぜい王太子っていう肩書きだけでしょうが!それを使って私を重鎮会議に殴り込ませろって言ってんのよ!」


 私はドシドシと部屋の入口に移動した。


「何してんの!時間がないんだからグズグズせずにさっさと歩く!」


 ヘンリーはピシリと立ち上がり歩き出した。


「俺…頭下げられた覚えがないんだが…」


 ジルの前を通り過ぎながらヘンリーがポツリと呟いた。

 そんなヘンリーにジルが出来たのは肩を叩いて労う事だけだった。





読んで頂きありがとうございます。

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[一言] イザベラ。。。。。ゆるせん!!!!!!!!!
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