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真相

少し残酷な表現が含まれている可能性があります。

 令息の顔は怯えと泣きはらした痕でぐちゃぐちゃになっていた。

 さらに部屋の薄暗さと相まって怖さが倍増している。


「毒を盛っていないとはどういう意味だ?」

「僕が盛ったのは毒じゃなくて違う薬なんだよ!!」


 平静を装いながらジルが質問すると令息はベッドから飛び出てジルの服を掴んで助けを求めた。

 これには流石のジルも引いていた。


「何の薬だったの?」


 私が質問すると令息は汚い顔を私に向けた。

 こっち向くな。


「それは…ほ…」

「ほ?」


 私とジルは首を傾げて復唱した。


「惚れ薬なんだ…」


 ゲッ!?

 私とジルが軽蔑の眼差しで令息を見下ろした。


「だってイザベラは全く僕に振り向いてくれないし一度でいいから僕に微笑みかけてくれるイザベラを見たかったんだ」


 キモ…。

 えぐえぐと再び令息は泣き出した。

 ジルは気持ちを落ち着かせるため息を吐き出すと質問を続けた。


「それで混ぜた薬はほ…惚れ薬ではなく毒だったと?」


 惚れ薬の単語に抵抗を感じたな。


「毒は僕じゃなくてこの女が混ぜた…ひっ!」


 令息はジルと私の殺気を感じて再び布団に潜った。


「お前が渡したのはケーキだったんだろ?」


 布団が上下に揺れた。

 ジルは令息に近付くと布団を捲った。

 ジルの顔が歪んだ事からも直視したくない気持ちはお察しします。


「いいか。お前の軽はずみな行動の所為で無実の人間が処刑されようとしているんだ」


 処刑に変わったのは不敬罪も含まれたからですけどね。


「俺はお前をイザベラ毒殺未遂の犯人としてヘンリーに突き出すつもりだ」


 布団が小刻みに震えた。


「だがもしお前が知っている事を証言すると言うのであれば処刑は免れるように進言してやろう」

「ほ…本当に…?」


 令息はゆっくり布団から顔を出した。


「だから何故盛った薬が毒に変わったのか正直に話せ」

「俺が惚れ薬を飲ませようと考えたのはイザベラに失望されたからなんだ…」


 令息は順を追って話し始めた。

 始まりは舞踏会前からだった。

 イザベラから舞踏会の相手に私を誘う事が出来れば舞踏会で踊ってくれると約束されていたらしい。

 そのため意気込んで私を誘いに行ったけれど結果は…。

 しかしイザベラは舞踏会で令息と踊ってくれたそうだ。

 なら良かったのでは?とはいかなかった。

 令息はその時のイザベラの表情が自分に失望していると感じたとか。

 被害妄想が酷い。

 一度でも自分に笑いかけて欲しいと思った令息は惚れ薬を入手するため翌日街に出たのだ。

 笑顔一つの為に惚れ薬とかあわよくば感が強い。

 念願の惚れ薬を手に入れた令息は喜びのあまり浮かれていた。

 しかし少年にぶつかった時にうっかり惚れ薬を落としてしまったそうで、手前に転がってきた薬を確認せずに手に取ったそうだ。

 その少し後に黒いフードを目深に被ったスカートを穿いた女性と思われる人が転がっていた荷物を拾い立ち去って行ったと。


「一瞬その女性に惚れそうになったよ」


 この話のどこに惚れそうになる要素があった?


「だってその女性、イザベラと同じ匂いがしたんだ…」


 令息はうっとりと当時の事を思い出していた。

 イザベラと同じ匂いって…私達は顔を見合わせた。

 匂いだけで惚れた気持ち悪い令息は放っておいて、問題はイザベラの匂いという事だ。

 公爵令嬢のイザベラが使っている香水は恐らく一級品もしくは特注品だろう。

 その香水と同じ香水を使える令嬢などそうそういない。

 だとすると本人の可能性が高い。


「だがお前の買った薬が元々毒だった可能性だってあるだろう?どうして違うと言い切れるんだ」


 ジルの問いに恍惚な表情が一変し、奈落の底に突き落とされたように項垂れた。

 そしておもむろに着ていたシャツのボタンを外し始めた。

 ひーーーーー!!


「サラ!見るな!」


 顔を両手で覆うも指の隙間から見ちゃうのが人間の性。

 令息がシャツを脱ぐと全く魅力のない胸元に小さな生き物が引っ付いていた。

 これは…ネズミ?

 令息はえぐえぐ泣きながらネズミを捕らえようとするも素早いネズミは令息の体のあちこちに移動した。


「本物かどうかお店で実験したらこの通りだよ…」


 これには私もジルも苦笑いを浮かべるしかなかった。


「よ…良かったじゃないか。ネズミだけでも好いてくれて…」


 ジル。それフォローになってないから。

 しかもジルが令息の肩に手を置いたらネズミがジルの手を攻撃しようと走ってくる始末。

 完全に惚れてますね。


「良くないよ!何とかしてくれ!」


 手を引っ込めたジルの手を掴もうとする令息からジルは距離をとった。

 だってネズミが怒っていますから。


「それで確信して薬を使ったと」


 令息は涙か鼻水かわからないモノを流しながら頷いた。


「ねえ、僕どうなっちゃうの…?」


 どうなっちゃうって故意ではないから処刑は免れるだろうけど…。


「毒では無いにしても公爵令嬢に怪しい薬を飲ませようとした罪は償わないといけなくなるだろう」


 口にしたくないのはわかるけど、薬名は惚れ薬ですよ。


「どちらにせよお前に与えられた選択は処刑か投獄かだ。処刑にならないだけでも喜べ」

「そんな…」


 ごめんね。私の不敬罪の所為で処刑が追加されちゃって。


「ねえ、ちなみにそれって舞踏会翌日のどのくらいの時間だった?」


 ネズミの件で一つ気になる事が出来た私は令息に尋ねた。


「直ぐにでも欲しかったから朝一で行ったけど…」


 朝一という事は…。

 考え込む私にジルも私が何を考えているか気付いたようだ。


 この後、令息はジルが呼んだ警備兵によって連れて行かれた。

 残された私とジルの間に重苦しい空気が漂った。


「イザベラを調べる必要があるな…」


 空気を断ち切るようにジルが口を開いた。


「イザベラはまだ意識が戻ってないんだよ」


 無駄な問答だと分かっているが本人の許可が無いのに調べる事には抵抗があった。


「王太子の婚約者が毒を購入したとなると本人の許可など関係無く強制的に調べる必要がある」

「王太子殿下が反対するかも…」

「反対はさせないよ。令息の証言とキャットのとった行動を突き付けて、イザベラの無実を証明する為にも捜査するようにもっていくから」


 令息が薬を確認するためにネズミを使ったようにイザベラも試していたとしたら…。

 午後に私達の元に来たイザベラの手に使用した毒の匂いもしくは成分が付着していたとしたら…。

 キャットはその毒に反応した事になる。


「どちらにせよイザベラの部屋に令息の買った薬の小瓶が見つからなければ問題無いわけだから…」


 その場合、キャットは…。


「何だか後味が悪い結末だね…」

「こればかりは仕方ないよ」


 でも、もしイザベラの部屋で小瓶が見つかったらイザベラは毒を誰に使うつもりだったのだろうか?

 ヘンリー?ジル?それとも…私…。

 『破滅するのは私かあなた、果たしてどちらかしらね』

 イザベラの言葉が頭から離れなかった。



 後日、イザベラの周辺が調査された。

 そこで学園が用意したイザベラの屋敷から小瓶が見つかった。

 成分の結果中身は…惚れ薬だった。



 どうでもいいがよりによってすり替わったのが惚れ薬とか…。

 寝ている間に見つかるとか女子としてはこの上なく恥ずかしいよね。

 こればかりはイザベラに同情してしまった。





読んで頂きありがとうございます。

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