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第6話(魔王クエストを受けることになった)

 “勇者王”役のカタリナと名乗った彼女は俺に、握手を求めてきた。

 特に何か罠があるわけではなさそうなので、手を握ると彼女は握り返してきて、


「一応は勇者王でもあるわけなのだけれど、そんなに無警戒に私の手を握っていいの?」

「罠がないかは確認していますから、問題ないです」

「そうなの? ……私もなまっているわね、まったくそんな検査がされたのには気づかなかったわ。でも……これはどうかしら」


 そこで握った手のひらに魔力を俺は感じる。

 炎系の魔法科と認識した時にはすでに、起こりうる事象の解除キャンセルを行っていた。

 発動しようとした時点で発動を抑えられた状態。


 つまり何も起こらない。

 ただ俺がカタリナと握手をしているだけである。

 するとカタリナはひどくうれしそうな顔になり俺を見て、


「最強の魔王、というのは本当のようだったから試してみたけれど、本当にすごいわ。これなら制限なしで戦えそう!」

「……俺は試されるのが好きではないのですが。それに今の魔法が発動したら、この部屋は吹き飛んで一般の方々が大けがをすることになります」

「え、えっと、そうね。試すことになったし、周辺への影響も……そうね。校長もいるし、ここは防御系の魔法がかかっているからこの程度の魔法が暴発しても大丈夫かと思ったのだけれど……そういえば念には念を入れて気を付けないといけないわね」


 そう言ってカタリナは大きく頷いた。

 そしてすぐに俺に、


「それで今回の“魔王”クエスト、ぜひ参加してほしいわ。これだけの力のある魔王ですもの、私もぜひ手合わせしたい」

「それは……」

「私も私にたどり着くまで全力であなたのそばでその……魔王美形図鑑に書かれている、中二台詞に関する誤解は解かせてもらうわ。だから、駄目かしら」

「う、それは……」


 そこでカタリナが、握手した俺の手をもう片方の手で覆うように握りしめる。

 女子にこうやって手を握られた経験などあまりない俺は、カタリナへの抵抗力が急激に下がっていくのを感じる。

 まず、まずい。


 危機感が俺の中で生まれるも逃げられない。

 そこでカタリナが、


「確かにこの平和な時代に勇者養成学校は必要なのか、といった話はありますが……それでも周りには魔物がいて、未開の森などもまだあって危険なことには変わりありません。ですのでそれに対抗する力を育てなければいけない……

そのためにもこういったイベントは必要なのです」

「……それは、気持ちはわかりますが……というか校長。他の同級生たちが出ないのは、魔王美形図鑑といった俗っぽい何かの実態を知っていたから、ということはありませんよね?」


 俺がそう聞くと校長は少し沈黙してから裏返った声で、


「……イエイエソンナコトハアリマセンヨ」

「……校長」


 俺が呻くようにつぶやくと校長が一度咳ばらいをしてから、


「だ、だが、できれば私としてもうけて欲しいと思っている。駄目かな?」

「……はあ、分かりました。ですが、俺の誤解は解いていただきます」

「そ、そちらなのだが……そういった所がいいと思っている女子の夢を壊すのはどうかな? と」

「ではこの話はなしの方向で」

「あ、やっぱり誤解は解こう」


 そう校長は頷いてくれたので、現状では……不本意な部分はあるが、当初の予定通り受けることにする。

 そこでカタリナが、


「では概要の説明は後程でいいかしら。これから今後の日程などを調整して冊子にまとめて、渡す形にしようと思うの。イベントだから多くの人に見てもらおうと思っているから冊子にして、一般の人にも配る予定なのよ?」

「……なんだか恥ずかしくなってきたのですが」

「大丈夫。貴方にも楽しんでもらえるイベントになるよう私達も頑張るから」


 そう言ってカタリナがギュッと強く俺の手を握る。

 俺はなぜか焦るような気持ちになりながら、


「で、ではこれから昼食をとりに行くので」


 そう言って逃げるようにその場から俺は抜け出したのだった。








 ウェルフはすでに食事を終えていたが、俺が学食で“きつねうどん”を選んですすりつつ話をするとそこで、


「え、勇者王のカタリナにあったのか……そっか……」

「なんでそんなに微妙な答えなんだ?」

「いや、確かあまりにも強すぎる勇者の少女で、“血まみれの希望ブラッディ・ホープ”と呼ばれていたような」

「……」

「あ、美人ではあるが戦闘狂ではあるらしいな。コアなファンがついているらしい。それで、実際に会ってみると……アイズの様子だと、そんな風ではなさそうだな」

「そうだな。……というか盛りすぎだろう、なんでキャラ付けしているんだ」

「その場のノリとかそういうものじゃないのか? それが受けて引けなくなったとか」

「はた迷惑な……」


 俺はそう呻きながら油揚げを食べる。

 味のしみ込んだ油揚げがうまい。

 そう思って咀嚼しているとウェルフが、


「でも“魔王クエスト”のイベントはぜひ見てみたい。アイズの戦闘シーンも気になるがやっぱり美人勇者が気になる」

「そうなのか? 転移魔法である程度移動しようと思っていたから、ウェルフも連れて行くよ」

「ありがとう、わが友よ!」


 といった話をしながら俺は、昼食のきつねうどんを食べ終えたのだった。

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