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第15話(“火”の勇者学園-2)

 こうして俺は、この勇者学園の少女との料理勝負をすることになった。

 といっても俺からすると、この戦いは大分俺に分が悪いような気がしないでもない。

 一応は訓練も兼ねて料理は作ったりはするが、ここにいる勇者達である彼女たちのような専門的な訓練は受けていない。


 こうなってくるとちょっとした小手先技が必要だろうと俺は考える。

 ちなみに本日の審査員の方々は、計6名。

 そのうち三人が人間で三人が魔族が審査員だ。


 だが味にうるさい人物たちばかりとの触れ込みで、本気で俺の料理を審査するらしい。

 ちなみにだが観客にもふるまわれることになっており、観客達にも投票権があったりする。

 だがここはまだ人間の領域であるためか、人間の方が多い。


 俺には不利な状況になっている。

 どうするんだこれ。

 俺はそう思った。


 先ほどのここの勇者であるシルフィアは俺を負かせる気満々なようだし。

 今回の“魔王クエスト”は、俺の冒険はここで終わってしまうのか……などと俺が考えつつ、けれど。


「イベントとしてここで負けたら、後のイベントに差し支えるのでは?」


 そう俺が校庭の真ん中にある調理場の方にやってきた所で、シルフィアに聞いた。

 すると彼女は俺の事を鼻で笑って、


「おや? 魔王様ともあろうお方が、負ける自信があると?」

「それはそうだろう。俺だって普通に生きている魔族だぞ? なんでもできる完ぺきな存在というわけではないからな。料理よりも魔力が多いから戦闘に取ったしている傾向にあったし……まさか料理の専門家が勝負を仕掛けてくるとは思わなかった」


 そう俺が嘆くように告げるとシルフィアは少し黙ってから、


「……確かにそういった意味で……一般人に料理のプロが戦いを挑んで徹底的に力を見せつけて勝利するのも、大人気がないですね。何らかのハンデを用意しましょうか」


 そう言って考え込んでから審査員の人達の方にシルフィアは何かを話していく。

 するとそこで何か言い争いのような話になっていた。

 どうしたのかと思っていると、シルフィアが戻ってきて、


「駄目ですね、貴方の分のポイント……得票数を1.5倍にして計算するのはどうかと提案しましたが、駄目でした」

「そうなのか……」


 俺はがっかりしつつ、だがこのイベントについて考えて、


「この“魔王クエスト”を勝ち抜き戦ではなく、勝った回数が六回のうち半分以上であればカタリナに挑戦できる、そういったルール変更はできないのか?」

「そちらの方は私の方の管轄ではありませんから……カタリナ様に話をした方がいいかと」

「わかった、話してくる」


 シルフィアにそう答えて俺は、カタリナの方に走っていく。

 すると彼女は微笑み、


「どうしたのかな?」

「いや、俺は料理の専門家でないから、シルフィアに負けるかもしれない。だがこの“魔王クエスト”のイベントは成功させたい。だから勝ち抜き戦ではなく、勝った個数が半分以上だからカタリナに挑戦できるといったルール変更はできないか?」


 そう俺はカタリナに提案する。

 イベントとしての成功を考えると、ここで負けてしまうのもどうかと俺は思ったのだが……。


「駄目ね、ここでルールの変更はできないわ。魔王である貴方に都合よくルールが変更されてしまうと、興ざめされてしまうかもしれないし。出来る限り貴方の力を見たいもの。……頑張ってね」

「……確かに急なルール変更は、俺にとって都合がいいように見えるか。出来レースだと思われるのもむつかしいか。……俺が負けたら他の同級生や先輩を引っ張り出せるのか?」


 俺はここで、この“魔王クエスト”が二回戦で終わるのではと思い問いかけるとカタリナがそこで……今まで見ないようなあくどい笑みを浮かべた。


「ちがうわ。『出させる』のよ。こちらとて、魔王である貴方たちの弱みを一つも握っていないと思っているの?」

「そういったものは注意しているはずなんだけれどな」

「ああ、そうなの? でも一人だけ引っかかった子がいるわよ?」

「……どんな弱みなんだ?」

「片思いの人物がいる、とだけ」


 どうやら色恋沙汰での弱みらしい。

 あまりよろしくないなと俺が思いながら、


「ちなみに再挑戦は可能なのか? この“魔王クエスト”は」

「それはまだ決めていなかったわね。……確かに負けたからリベンジイベント、って銘打ってやればまたイベントが開催出来るわね。負けたらその時はその案を使わせてもらうわ」

「そうか……とりあえず今日はお試しだな。やれるだけやってみよう」


 そう俺は答えるしかない。

 サナもウェルフも、頑張ってください、応援しています、きっと大丈夫ですよ、といった気休めだが応援をしてくれた。

 こうなっては俺のできる範囲でやり切るしかなさそうだ。


 そんなこんなで結局のところ当初の予定通り行動しないといけない、といった結果だけが残る。

 とはいえ、負けても再度、挑戦イベントが組まれるというのだからその時は……出来る限りの準備と作戦を立てようと思う。

 今日の所は、様子見だ、そう俺が思って戻ってきてシルフィアに先ほどのカタリナの話を告げると、シルフィアが俺を不思議そうに見て、


「どうしてそこまで“魔王クエスト”をイベントとして成功させたいのですか?」

「引き受けた仕事だから。受けたのだから、成功はさせた方がいいだろう? その方が楽しいし」

「そう、ですか……」


 そう考えこむように呟いて、そこで審判の人にそろそろ始めてもいいかと聞かれたのだった。








 今回の料理勝負は、お互い好きな物を作っていいらしい。

 ただ、米にあうものであり、調味料などは一通りそろえているそうだ。

 後は食材だけを……食材?


 そこで俺は周りを見回す。

 ジャガイモや、ニンジンといったものが何一つない。

 まさか、と俺が思っているとそこで審査員の一人が、


「今日の料理の食材はあの山からとってきてもらう。それを使用して、利用理を作る上げるのだ!」


 と言っていた。

 どうやら山に入って食材を調達するらしい。

 どうしようかと俺が思いつつ、しかもこの人数全員分を賄おうとすると、どうなんだと俺が思っているとそこでシルフィアが、


「あの山には私たちの学園が手入れをして、料理で必要な食材を育てているのです」

「そうなのか……畑じゃないのか?」

「今回は山で育つようなものを中心に、といった事ですね。素材がどこにあるのか案内しましょうか?」

「いいのか? 助かります」


 そう俺が答えるとそこでシルフィアが俺の方をじっと見て、


「……本当にあの図鑑に書かれている者とは、全然違いますね」

「……俺はそれを見ていないのですが、そうですか」

「ええ、気に入らない性格の男だと思っていましたがこれなら……いえ、なんでもありません。せめて素材がどこにあるのかを教えます。……料理に関しては一般人ですから、この森に入って探せというのも酷でしょう。かまいませんね?」


 最後の言葉は審査員に向けたもので、その部分は良かったらしい。そして俺はシルフィアに何を作るのか聞かれたので、すぐそばにあったカレールーを指さして、


「カレーです」

「……そう」


 俺の答えに、シルフィアは呆れたようにそう言って、そして勝利を確信したかのように笑ったのだった。







 こうして俺は、シルフィアに連れられて山にやってきた。

 実り豊かなこの山は、食材を手に入れるための手入れがよくなされているあかしでもあるのかもしれない。

 そう思いながら食用のキノコを俺は見つけた。


「これは貰って言って構いませんか?」

「ええ、これは天然ものね。先に見つけておきたかったくらいだわ。でも、よく分かったわね」

「山に行った時の訓練の一環で。こういった食糧調達も大事だと言われまして」

「……魔王は上にふんぞり返っているイメージなのに、ちょっと違うみたいね」

「そういったことを一通り経験しないと、指示が出せないというのもあるとか。少し経験しておくだけでも部下との意思の疎通がしやすくなる、という目的があると聞いたことがあります」

「そう。……なかなかやるわね」


 などとシルフィアが言って歩き出そうとしたところで……たまたま突き出してしまったらしい鋭い葉っぱにシルフィアが振れてしまい、赤い一線が彼女の手の甲に走る。


「いたっ……私、回復魔法は使えないのに……薬、薬っと……あ」


 そこで俺は、彼女の怪我をした手を、正確には指先を手に取り引き寄せて、もう片手を彼女の傷の部分に軽くかざす。

 回復系の魔法は魔族でも人間でもそこまで効果に違いはない。

 だから俺の魔法も効くはずで、実際に一瞬にして傷が消える。


 かすり傷なのでそこまで大きな怪我ではないけれど、


「女の子の肌に傷がつくのは良くないから……あれ? どうしたのですか?」


 そこでシルフィアが凍り付いたように固まっている。

 そして俺に向かって何かを言おうとしているようだが、口を開こうとしてもすぐ閉じてうつむいてしまう。

 どうしたのだろう、と俺が見ていると、


「そ、そうですか、ありがとうございます。では、更に案内を……きゃああ」


 そこで足を滑らせて転びそうになったシルフィアを俺は、手を掴んで引き寄せるようにして抱きしめる。

 まったく危ないなと俺が思っているとシルフィアが、


「あ、え、あ……だ、大丈夫です。もう一人で歩けますから! って、ああ!」


 そう言って俺から離れようとして再度転びそうになったので手を引きながら俺は、


「……危ないので、手を繋ぎましょうか」

「……はい、ありがとうございます」


 こうして俺はそれからシルフィアと一緒に手を繋いで、森の中で食材を探し回ったのだった。









 結局俺が手に入れたのは、天然物のキノコをそこそこ沢山と、ニンジンとジャガイモと玉ねぎだった。

 どれも木になっている野菜で、そのうちニンジンは、“目の前にニンジンをぶら下げる”という諺にもなっている。

 その意味は、ニンジンの木の周りはニンジン好きの馬型の魔物が集まりやすいので、転じて、敵はすぐそばにいるので気をつけろ、という意味になる。


 そういった諺を俺ホモいだしつつそこに向かうと、ちょうど柵やらなにやらを超えた魔物がいたので適当に倒した。

 シルフィアが言うには、結構倒すのが大変な害獣であるらしい。

 ちなみに肉は食べられるのを知っていたので、肉の部分だけをいただいて後は軽く焼却処分にして魔石に変えてしまう。


 こういった魔物は確かに完全に倒すと魔力の結晶という魔石にもなるのだが、程よく倒すとこういった肉などが手に入る。

 ちなみにその分魔石の質が減少するかどうかは、その魔物の性質による。

 また、食べられる魔物や動物と、そうでないものもいるのでそのあたりの区別も必要だった。


 今回は食べられる方だったのでありがたく頂戴して、カレーの材料にすることにする。

 そんなこんなで食材を手に入れて帰ってきた俺達だが、流石はシルフィア。

 手際よく食材を調理して、炒め物からスープまで、複数品を作り上げている。


 これにどう勝てばいいんんだ、もう小手先の技を使うしかないなと俺は思いながら、手に入れた新鮮な肉や野菜、キノコをいためて水を入れて煮込み始める。

 とりあえず人数がいるので、大鍋てぐつぐつ煮ることに。

 時々かき回しながら、小手先の魔法を使う。


 そして食材が程よく煮えたら、カレールーを入れて、軽く味見をする。


「うん、これで大丈夫そうだな」

「私の方も完了です」


 そこでそう告げたシルフィア。

 こうして制限時間前ではあったが、試食することに。

 カタリナやウェルフ、サナには俺がカレーを持っていくと、


「私、カレーは好きなんだよね……え?」

「俺も。それに大鍋で作ると美味しい……ナニコレ、今までで一番うまい」

「ア、アイズ様の手作りカレー……まずはスマホでとってから、いただきま……美味しすぎて死にそう」


 などと次々と感動の声が聞こえて俺は良かったと思う。

 そして投票が始まり、開票が行われて、


「魔王、アイズの勝ち!」


 それを聞いたシルフィアが衝撃を受けたように、


「な、なんで」

「私たちの分の量が少なすぎです。それにカレーは美味しかったですよ~」


 といったような観客の声。

 実は色々と失念していたのか、複数の料理をしたのもあってそれぞれの量がシルフィアは少なかったのだ。

 そうするといきわたる料理も自然と少なくなって、それが……食べ盛りの学生には評判が悪かったらしい。


 しかも俺のカレーにもある細工がしてあった。

 そこでシルフィアが俺のカレーの味を見て、


「お、美味しい、どうやったらルーでこんな……」

「カレーのルーに合わせた最適なうま味調整を魔法で行った。甘味などを水中に溶け出される分などを調整し、一部合成もしたか」

「な、何ですかその魔法は……」

「俺オリジナルの魔法だ。とりあえずはほどほどに美味しい物が作りやすくなる、程度のものだが」


 そう返すとシルフィアは、どうやって? 魔法で? そこまでうまく? ……考えつかない、と言って頭を抱えていたが、


「とりあえず俺は勝ててよかったよ。このまま魔王クエストは続けられそうだ」

「……そうですね。はあ、もっと大人数分用意しておけば状況も変わったかもですが……いえ、負けは負けですね。魔王アイズ」


 そう言って彼女は手を出してきたので俺は彼女の手を握る。

 すると彼女は少し黙ってから、


「私も負けたので仲間になってあげるわ。あ、あの月の学園勇者もいるのってそういうことよね? 負けたら魔王の仲間になったりとか……お料理係はいると重宝するわよ」

「え? いえ、そんなルールがあるのですか? 俺は聞いていないのですが」

「え? 私はてっきりその、あれ、本に書いてあって……」


 どうやら何かの本を読んでシルフィアはそう思い込んだらしい。でも俺はその好意は嬉しかったので、


「では、もしダンジョンに潜るといった時がありましたらよろしくお願いします。仲間というか友達としてお願いします」

「う、うん……まずは友達から……友達から……」


 そうぶつぶつとシルフィアが言っているのを聞いて俺は、何かが間違っているような気がしたが、とりあえずは気のせいだろうとかたずけて……シルフィアも一緒に期待というので、彼女とも一緒に次の学園に向かうことになったのだった。


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