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第12話(月の学園勇者との戦闘-2)

 サナが本気を出すと言い出した。

 今の会話に一体何の問題が……と思って俺は先ほどのセリフについて気づいた。


「“魔王クエスト”ですぐに倒されてしまっては、イベントにならないだろう?」


 という自信のセリフだ。

 俺としてはこのイベントを出来る限り成功させるよう努力しなければならない、そう思ったのだ。

 何しろこのイベントは勇者学校の存続がかかっているという。


 それならばできる限り人の目を引かなければならない。

 それがすぐに片方が倒されてしまっては、見ている方はつまらないだろう。

 それこそアリと人間が戦ってどちらが勝つのか、など、見ていても何も楽しくない。


 更に付け加えるならば、相手のそういった力や技を学習し、自身の能力制御に役立てたいと考えていた。

 だからできる限り、こちらも簡単な技で軽く戦いつつ、少しずつ強めの魔法をしていき、ほどほどで戦闘を終わらせる……いわば、ショーのようなものを想像していた。

 だがこの様子だと、何となくだが……本気の勝負になっているような気がする。


 大体挑発などというような行為はほかの人にすべきではない。

 そしてもしも誤解されてしまったならば、その誤解は解いてもらうべきだろう。

 大丈夫、相手も人間だ、話せばわかってくれる。


 などと俺は自分に言い聞かせながら、


「すみませんでした、実は今のセリフは挑発ではありませんでした」

「今更怖気づいたの? でも駄目ですよ~……アイズは倒したら後で私が、思う存分看病させていただきますので安心してくださいね~……じゅるり」


 そう言ってサナは俺の方を見て、したなめずりをした。

 俺は、女性にたいして何度目かになる貞操の危機を感じた。

 などと俺が思っているとそこで、


「~~~~~~」


 サナが小さく何かを呟いた。

 小声のせいで俺は聞き取れないが、すぐに魔力の気配を感じてどういった魔法が使われたかを理解する。


「……なるほど」

「おや、今何をされたのかアイズはお分かりになるのですか?」


 そういったサナの声は自信に満ちている。

 確かにこの魔法を使えるのであれば、そうなってもおかしくはない。

 実際にこれと似たような魔法に俺も遭遇した事があるが、こんなものをよく組み立てたな、と俺は思ったものである。


 ただ、この魔法の良さである“不可視”はあまりよろしくない。

 見えないというだけで確かに、心理的な意味でも敵に付加を与えられるだろう。

 だが、見えない状態で何かをしても、なんだかよく分からずに攻撃が起こった、といった不気味さがあるだけで……何をやっているんだろう? よくわからない、といった状態になり興味を引けない可能性が高い。


 そうなると、結果としてこの“魔王クエスト”は失敗である。

 それにもう一つ俺は気になることがあった。


「その魔法の範囲、広げすぎじゃないか? いびつな形をしている」

「あれ、気づいちゃいました? いや~、ちょっと挑発されすぎたので、つい」

「え、えっと俺は、挑発する意図は全く持ってなかったのですが……」

「ご託はいいです。それで、どうしますか? ここでそのリボンをほどいて降参して私に渡しますか? それとも私に外させてもらえますか?」


 そうサナがうっとりとしたように笑う。

 すでにサナは勝った気でいるらしい。

 確かにこの魔法は高度なものでそう簡単に対処できる魔法ではない。


 常人であればなすすべく倒されるだろうが、一応俺は元“魔王”だ。

 今回のクエストでは、“魔王”となっているので元は付けなくてもいいかもしれないが……そういった存在なのだ。

 ならばまずは、そこらの常人とは違うという、“魔王”らしさを見せつけた方が良いかもしれない。


 でも、“魔王”らしさってどんなものだろうかと俺は少し考えたが、まったく思いつかなかった。

 もっと悪役っぽい何かをした方がいいのかもしれないが、いざそういったことをしようと思っても思いつかない。

 そのあたりの“役者”としての才能は俺にはなかったようだと俺は思いつつ、このイベントを成功させるべく俺なりに出来る限りのことをしようと決める。


 まずは、先ほど気づいたようにこの不可視の攻撃だが……、


「見えない攻撃は確かに危険だ。だが、このイベントにはふさわしくない」

「……イベント、ですか。確かにこの“魔王クエスト”はイベントですが……その余裕が崩れる瞬間を、見させていただきます」


 そう言って笑うサナだが、どこからどう見ても更に俺は煽ってしまったようだ。

 もう深く考えるのはやめようと俺は思ってそして、何の魔法を使うか決めて……指を一回、ぱちんと鳴らす。

 合図……というよりは、魔法を“発動させる”意思表示に近い。


 何もしないのにこの魔法が発動するよりも、合図とともに発動する方が見栄えもいいし……場合によっては同じ仲間に気づかせて、仲間が使った魔法だと安心させる効果もあったりする。

 そこで、観衆からざわめきが上がる。

 それはそうだろう。


 今彼らの目の前にあるのは、先ほどまで“不可視”だった魔法。

 縦横無地に張り巡らされた細い糸のような魔法が時に絡み合いながらそこら中に広がっている。

 それらに俺は“黄色い色”をつけたのだ。


 その一部は観客席の上空にもあって、


「見学をしている人たちの頭上にあれはないんじゃないか?」

「ちょっと張り切りすぎちゃいまして。でも、こんな一瞬で見えるようにしてしまうのですか。一応は、そういった魔法に対する耐性もつけてあったのですが、それを呪文もなしにこんな簡単に色づけしちゃいますか~……はは」


 サナが珍しく汗を書いたようにそう呟くのを見つつ俺は、とりあえず、


「観客の頭上にあるのは“消させて”もらう」

「……どうぞ~」


 そう許可をもらったので俺は、観客席にはみ出した分を消しておく。

 これでその範囲には、“魔法”は飛んでいかないようになった。

 そして俺は、


「さて、ここでそろそろおれも、派手な魔法で少し様子見するか。……色付きの炎や爆発がやはり派手だろうか。……それでいこう」


 そう呟いて周囲に色が三色ほどに変化する炎の球を生み出す。

 実の所色によって属性が変わり、例えばあおになっっと気に触れると氷系の魔法になるという、実は炎とはちょっと違った魔法なのだ。

 しかも破裂すると、氷の魔法の場合は周囲に氷の矢が降り注ぎ、砕け散るときには日の光を浴びて輝くのである。


 このイベントにはいいかもしれない、そう思いながらそれらをサナの方に向かって、


「受けてみろ!」


 そう叫び、打ち付ける。

 それらの色の変わる球を打ち付け、今回は魔法の解除キャンセルをつけずに攻撃する。

 飛んで行ったその球は、糸と糸が絡まりあった四角を作っている場所でまずははじける。


 乾いた音を立てて氷が散らばるのが見える。

 まずは攻撃を軽く防ぐようにあの糸で囲まれた空間で魔法を受け止めたが、そこで防御に触れた時点で俺の魔法が確定し発動し……今回は全て氷だったがために氷の矢がサナに向かう。

 けれど糸と糸の間の空間内で、その方向は変更されて、高く高く昇っていき、やがて俺の方へと向かってくる。


 攻撃の威力を弱めたり、攻撃を誘導したりといった、簡易的な空間操作といったような魔法だ。

 ただこの一つ一つの糸自体は簡単にかき消されてしまうといった性質があったりする。

 また、大きく空間をとってしまうと誘導が上手く出来ないといった弱点もある。


 などと俺が考えた所で俺の方に迫っていた氷を、簡単な防御魔法で粉々に砕いて周囲に散らせる。

 天気のいい日なので火の光を浴びて白く輝きながら地面にそれらは落ちていく。と、


「なかなかやりますね」

「そうだなそれで、もう少し戦闘をするか? それとも、そろそろ終わりにするか? 確か予定終了時刻はあと十分後になっていたはずだが?」


 そう答えるとサナが小さく乾いた声をあげて笑ってから、


「……あと十分も弄ばれるのはごめんです」

「では、奪わせてもらう」


 俺はそう返答し、徒歩でサナの前に歩いていく。

 途中の、先ほどの糸が弱く抵抗を見せていたが適当に解除してサナの前にたどり着く。

 サナは凍り付いたように固まったままだ。


 俺としては手を差し出してもらって外すのが都合がいいが、そうはさせてもらえそうにもなかったので、


「失礼」


 そう声をかけてサナの手を取り、リボンを回収する。

 なぜかサナの顔が真っ赤になっている気がしたが、どうしたのだろうか……と俺が思っているとそこでリボンを外したもう一つの手で佐那が俺の手を包み込み、


「ぜひ! お嫁さんにしてください!」

「ええ!」

「パーティ仲間でもいいです」

「で、ではまず仲間……というかお友達からということで?」

「はい!]


 サナが元気よくそう答えると同時に、周りに張られていた糸のようなものが完全に消え失せたのだった。


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