第10話(遭遇)
現れた少女はやけに俺をこう……俺に対して憧れるような何かを感じる。
ピンク色の髪が風にたなびくふわふわとしたような可愛い少女だが、秘めた魔力はカタリナには及ばないものの、勇者としてはふさわしいレベルである。
だがなぜこんな風に俺の前に現れているのか?
ふつふつと得体のしれない、嫌な予感が俺の中に沸いてくる。
これはもしや、例のアレが何か関係しているのかと。
そう思って黙っていると、
「いつも美形魔王図鑑で見ていました。やっぱり実物は格好いいですね」
「……ありがとうございます。ですが、俺も最近知ったことなのですが……あの図鑑に書かれている俺の性格などは、“脚色”された偽物なのです」
「え……」
「すみません。ですから、多分貴方の理想としている“俺”は存在していないと思います」
そう申し訳ないような気持ちになりながら俺がそれを告げると、彼女は先ほどの笑顔からがっかりしたような顔になり、
「そうなのですか? 本当は来ていただいたら、ぜひ言って欲しい言葉がありましたのに」
「言って欲しい言葉?」
「はい、魔王美形図鑑に載っている『この愚民どもが、この俺にひれ伏せろ!』というものです」
「……」
「もうすでにテーマのようになっていますよね……。もしアイズ魔王様が来たら、ぜひ言ってもらおうとみんな楽しみにしていたんですよ」
そういう彼女を見ながら俺は、まさかそんな事になっているとは知らず凍り付く。
そして俺はその図鑑に詳しいウェルフに、
「今の話は本当なのか?」
「……本当です」
「なんてことだ……」
俺は今すぐ自宅に帰るべきだと思った。
こんなことやっていられるか、と思ったのも事実なのだが……がっかりしたような目の前の勇者少女を見ていると、
「……一回だけだから。そのあと、普通に挨拶をして、今回のクエストを始めるという形でいかがでしょう」
「ありがとうございます!」
そこで先ほどの勇者少女が笑顔になってこの場を去っていく。
俺は、あの笑顔が守れたのでまあいいか。
後で誤解は解いてもらおうと思う。
そして俺はカタリナに事前にお願いをしておく。
「もし押し切られそうになっても、あの図鑑に書いてあることは真実ではなく、いたって平凡な性格ですと伝えてください」
「……今も押し切られた感じではあったからね。いいわ、任せて」
といった裏の方で話をして俺達は学園内に向かう。
そして大勢の人たちの中を歩いていく。
まるで何かを待ち望むような女子の視線。
その先には先ほどのピンク色の髪の少女が立っている。
そして再び彼女の近くまでやってくると、そのそばにいた実況役であるらしい女性がマイクを俺の方に向けてきて、
「ようこそいらっしゃいました、魔王アイズ様。これから“例のセリフ”をお願いします」
「……『この愚民どもが、この俺にひれ伏せろ!』」
その言葉に、きゃあああああ、といった黄色い歓声? のようなものが女子から上がる。
今のセリフのどこにそんな要素があるのかは分からなかったが、ここで俺はあることを固く心の中で誓う。
そう俺は、この設定を作った人物を必ずや見つけ出し、生まれてきたことを後悔させてやろうと……魔王らしいことを思い、決意する。
絶対に許さない。
と、そこでカタリナが実況役の女性からマイクをとりあげて、
「静粛に!」
そう、凛とした声で叫んだ。
その強い響きに皆の視線が集中する。
それを確認してからカタリナが、
「ありがとう。そして今回、皆にいっておかないといけないことがあります。それはこの魔王アイズ様は、その美形魔王図鑑に載っているような性格ではない事!」
その言葉に女子たちがざわめくも、カタリナは、
「性格は普通の一般人です。ですから、過度な期待は投げかけないように!」
そう言ってくれた。
心なしか俺の気持ちも軽くなってカタリナに俺は、
「ありがとうございます。おかげで助かりました」
「いえ、頼んだのはこちらですから。では、後はよろしくお願いします」
そう俺に話が回ってきて、自己紹介を普通な雰囲気で一通りする。
後はウェルフなどの友人の話をしてからそして、ようやく魔王クエストの開始の合図がなされる。
予想通り先ほどのピンク色の髪の少女が、今回の戦う相手であったらしい。
彼女は俺たちの方にやってきてから、
「学園代表のサナ・シルバーフロストです。今日はよろしくお願いいたします」
「魔王アイズです。今日はよろしくお願いいたします。お互い、学べるいい機会だと思っております。よろしくお願いいたします」
そう言って手を出すと、彼女の目がきらりと光った。
今の会話に何か問題があったのだろうか、と俺が思っていると彼女、サナは俺の手を握り、
「俺様系ではなく、やわらかい大人しいタイプというのもありな気がします。それを考えると、勇者王カタリナ様に、『血まみれのぼろ雑巾』にされてしまうのはやはり忍びない……これは、頑張って私がアイズ様を倒すしかありませんね」
「え? いや」
「勇者としての矜持を、今回は存分に見せられそうです。……学園内では手ごたえのない相手ばかりで、飽きていたんですよ」
そう言って、彼女……サナは笑ったのだった。




