第9話 みんなに先輩のお弁当を自慢したい!! …けど?
「ふふーん♪」
思わず鼻歌を鳴らす。俺は今、気分が良い。それに比例して、脚も速くなる。
そうさ! 俺にはこの先輩特製の手作りお弁当があるのだから!
「いや〜、昼食の時間が楽しみだな〜。」
「あっ! おーい、広瀬くーん!」
「うん?」
呼ぶ声に反応して、後ろを振り返る。目と鼻の先から委員長が手を振りながら走ってきた。
「おっす、委員長。お早うさん。」
「早いね! てっきり遅れてくるとばかり…。」
息を切らせながらの軽口。だが、今の俺はそんな事を言われても気にしないのだ!
「ちょっと待って…、息、整えるから…。」
委員長は胸に手を当てて、スーハーと深呼吸をする。
「うん、落ち着いてきた。それで、広瀬君が遅刻をしなかった理由を聞きたいな?」
「ち、ち、ち。俺を甘く見ないで欲しいな…。」
わざとらしく振る舞う。
「今の俺は無敵だからさぁ…。例え、集合時間が、朝の3時だろうと遅れる事は無い。」
「あら、凄い自信ね。その心は?」
「ふふ…、これさ!!」
俺はバックからおもむろに例の物を取り出した。
「これって…、お弁当箱? 普通の物に見えるのだけど…。」
「やれやれ…、委員長は節穴だな…。この弁当の価値に気が付かないなんて…。」
「むっ!! 言うじゃない。それでどんな価値があるのかしら?」
俺の態度にむっとしたのか、口調が少し強くなった。
「よく聞け!! これはかの風街渚の手作りの特製弁当なのだ!!!」
ババンッと効果音を付けたのにも関わらず、委員長はポカンとしていた。
「どうした? 驚いて声も出ないと見える。分かるぞ…、その気持ち。」
「いや、逆の驚きなんだけど…。」
「逆…? ちょっと何言ってるか分かんない。」
委員長の態度は摩訶不思議だ。
「風街先輩のお弁当と、広瀬君が無敵な理由が分かんない。」
「はぁ〜、委員長には難しかったな。めんごめんご。」
「ムカカッ!! なによ! そんなに先輩のお弁当が嬉しいの!!」
「それはそうさ。先輩のってのも勿論あるが…、男子にとって女子の手作り弁当は物凄く価値があるんだよ!」
「ふーん? じゃあ女子なら誰でも良いんだ。」
委員長は軽蔑する様な、疑う様などっちつかずな目を俺に向けた。
「そんな目で観るな。別に誰でもって訳ではないぞ。知らない人からじゃ怖いだけだ。」
「ふーん…。だったら…。」
委員長は意を決した様に、言葉を続けた。顔はほんのり紅く染まっている。
「……たしの…。」
「うん? 何か言った。」
「だったら、私のお弁当でも元気になる?」
伏し目がちになりながら、俺に尋ねる。若干、声が震えている様にも感じる。
「えっ…、それはまぁ…、元気になると思う?」
「何で疑問形なのよ…。嬉しいか嬉しくないかのどっちよ。」
打って変わって今度は強気だ。情緒が不安定だ。
「嬉しいです!! 委員長が作った弁当を貰ったら嬉しいです!!」
思わず屈してしまう。有無を言わせぬ圧が俺を襲ったのだ。
「ふ、ふーん。そうなんだ。嬉しいんだ。へぇ〜、ふ〜ん。」
今度はやけに嬉しそうだ。一体なんだと言うのだ。
「まぁ…取り敢えず、俺は遅刻せずに来られたんだからいいじゃないか。」
不可思議な態度に恐怖を抱き、強引に話を変えようと試みる。
「そうね。…今日のところはこれくらいにしときましょうか。」
(今日のところは…?)
その言葉に疑問を感じながらも、戦況を鑑みて、あえて頭に封じた。恐らく、その方が良いだろう。
「ほら、早く行きましょう! 会議のまとめをしなくちゃ!」
「ああ…。」
そう言うと、二人で学校へと向かった。
軽快な足取りの委員長と、鈍重な足取りの俺。まるで二人の精神状態を表しているかのように…。
「えっと、昨日の会議だと…。」
「あっ、それはこっちとまとめておいて。今日のLHRで一緒にして、全員に渡すから。」
学校に着いた俺達は、さっそく昨日の議題の準備を始めた。
内容は林間学校について。来月、夏季休暇中に行われる課外授業だ。
会議で決まった事柄をクラス委員が後日のLHRでクラスの皆に話す。
「やっぱり委員長は頼りになるな。俺だけだったら、どう手をつければいいやら…。」
「謙遜しない。私だって一人じゃ何も出来ないわ。」
「そうは言うけど…。委員長は皆が認めてる。実際、立候補した時は満場一致だっただろ。」
「広瀬君だってそうじゃない?」
「俺のは立候補じゃないし…、体の良い押し付けだろ?」
「それでも、選ばれたんだから大丈夫よ。」
「そう言うもんかね…。」
(委員長の慰めに全ては納得出来ないけど…お陰で先輩に会えたしな…。)
「よし! これで一先ず大丈夫かな。後はこれを午後のLHRで渡せば…。」
「頼んだぜ、委員長!! 俺は後ろで応援してるからさ!」
「って…貴方もやるのよ!」
夫婦漫才?をやりながら、そんなこんなで時間は過ぎて行く。
そして! 待ちに待ったお昼の時間! 腹ぺこな生徒達の憩いの時間! 俺にとっても特別な時間!!
「さて…、何処で食べようか? やっぱり屋上か?」
「隆ー、昼飯食べようぜ。」
悩んでいる俺に菓子パンの袋を持った佐助が声を掛ける。
「おう、今日のお弁当はスペシャルだからな。観客が居ないと面白くない。」
「へぇ〜、スペシャルね。期待値上げるじゃないの。」
「裏切りつもりはないぜ。見せて…。」
「私達も混ぜてよ。」
「おっ!委員長達も教室でかい?」
声を掛けたのは、委員長とその友達の赤井。仲良しコンビだ。
「大方、今朝の事で気になったか。」
「別に…。」
「まぁ、多い方が自慢しがいがあるってもんよ!」
俺は再び弁当箱に手を掛けた…が、瞬間、閃く。
(俺は先輩の綺麗な盛り付けで美味い弁当を期待している…。それは間違って無い。しかし…!)
(果たして、この中身は俺の思っている物なのか? あの先輩が俺に作ったんだぞ!)
急に悪寒がしてくる。嫌な予感を感じながらも、恐る恐る弁当箱を開けた。
そこに待ち受けた物は………!
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