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兵士のリーダーさん

 「ここから出してください! これは不当な逮捕ですよ!」

 「さっきからうるさいぞ! もう少し静かにできんのか!」

 兵士に連行され、三人一緒の牢屋に突っ込まれた俺たちは、明日の取り調べまで暇を持て余していた。

 「くっ! 杖さえあれば私の魔法で子の牢屋ごと吹っ飛ばせるのに……」

 「杖があっても吹っ飛ばせないし、ここじゃスキルを使えないだろ」

 冒険者たちが暴れるのを阻止するために、牢屋にはスキル防止の結界が施されているらしい。

 「おい、ソード・エンティクル・ガーナ。お前だけ牢屋から出ろ」

 「な、なぜ私だけなんですか?」

 「貴族であるあなたをこんなところには入れておけない」

 「!? その女貴族だったんですか!」

 「ああ。上からの命令でほとんどの兵士は知らないがな」

 「そうだったのですね。先ほどの無礼は失礼しました」

 「いえ、それは気にしていないのですが。私だけでなく、この二人も一緒はだめでしょうか?」

 「いくらあなたの頼みでもそれは出来ません。明日の取り調べまで、お嬢様とこいつらは隔離せねばならんのです」

 こいつらとはひどい言い草だ。

 ガーナはごめんなさいとだけ言うと、兵士たちに連れていかれた。

 「……なぁ、ガーナが貴族って知ってたか?」

 「知っているはずないでしょう。あまり家のことを話しませんでしたから」

 そうだよなぁ。

 まさか、ガーナが貴族だったとは。

 「名前からしておそらくソード家の人間でしょうね。だとしたら私たち、とんでもないことをしていたかもしれません」

 「もしかして、すごい名のある貴族だったりする?」

 「はい。西のソード、東のシールド。この世界の二大貴族とまで呼ばれるくらいには有名ですよ」

 そんなすごい貴族だったとは。

 本人の許可があるとはいえ、結構なれなれしくしゃべりかけてしまっていたんだが……。

 親御さんに怒られないといいな。

 「なるほど、ソード家の人間だったとは。それならたかが冒険者に一千万も納得です」

 二人で喋っていると、そんな聞きなじみのある声が。

 その声の方を見ると……。

 「お前ってば何やってんの?」

 牢屋の地面からひょっこり顔を出したサエルがいた。

 「脱獄するための経路を確保するべく、屋敷から牢屋までずっと穴を掘っていたんですが、やっと今つながったんですよ」

 「もしかして、昼からずっとやってたのか!?」

 今は夜中十二時ぐらいだろうか。

 こいつ寝る間も惜しんで俺たちのことを……。

 「いや待て。魔王軍幹部を倒せば大丈夫って言ってたよな? 全然大丈夫じゃねぇじゃん!」

 「それに関しては謝ります。まさか制度が変わっていたなんて思いもしませんでしたよ」

 制度が変わっていたって、こいつ一体何歳だよ。

 「そんなことより、ガーナさんが貴族だったとは。僕はとっても驚きです」

 「話を逸らすな! ……ガーナのことに関しては俺も驚いてるよ」

 「貴族が絡んでいる以上、僕たちに権力で勝つことは不可能です。さっさと脱獄をしてしまいましょう」

 「そうしたいんだが、肝心のガーナが今は別行動だからな」

 さすがにガーナを置いて脱獄というのは少々気が引ける。

 「それに、俺たちが今逃げちゃったらガーナの立場も悪くなっちゃうだろ?」

 「そうですよ。ガーナを見捨てるなんて真似、私はしたくありません」

 「分かりました。では脱獄の決行は延期しましょう」

 そんな話をしていたところに、足音が響いてきた。

 「おい、看守が帰ってくるからお前は早く逃げろ」

 「おや、こんな夜分に見回りとは大変ですねぇ」

 「今はそんな嫌味はいいから早くいけ!」

 「分かりましたよ。では後ほど」

 そういってサエルは帰っていった。


 「起きろお前ら。新入りだ」

 「おはようございます、皆さん」

 そういってサエルが牢に投げ入れられた。

 「なんでお前は捕まってんの?」

 「実は穴から出るところを待ち伏せされていまして。後ろ向きのほふく前進だったものですから、いつものスピードが出せなかったんですよね」

 「なんでお前ってちょっと抜けてるところがあるんだよ」

 やってることはすごいのに、詰めが甘いというかなんというか……。

 「穴も塞がれちゃったので、脱獄は不可能になってしまいました」

 うーん、それはまずいかもなぁ。

 今からの取り調べで無罪になればそれでいいが、もし有罪なんてことになったら……。

 「ないものねだりしても仕方ないですよ。今は目の前の取り調べに全力で臨むまでです」

 「そうは言っても、相手は貴族だぞ? 都合が悪くなったら権力で無理やりねじ伏せてくるに決まって……」

 そこまで言った俺を見て、ナルファは。

 「ふっふっふ、いるじゃないですか。私たちのパーティにも貴族が」

 どや顔で言い放ってきた。


 「ガーナに聞けばわかります」

 「さっきからそれの一点張りだな。もっと他に言うことは無いのか?」

 どや顔の後、私に考えがありますというもんだから、ナルファに任せているのだが。

 「ですから、この場にガーナを呼んで事情を説明させれば、私たちの無実の証明になると言っているじゃないですか」

 「だから、口裏合わせられても困るからガーナさんと別々に聞いているって何度も言っているだろう!」

 ずっとガーナに聞けで押し通していた。

 確かに俺たちの証言より確実で、かつ絶対に裏切らないであろうガーナを頼るのは間違っていない。

 間違ってはいないが……。

 「もうお前は下がっていい。後は私が取り調べを行う。他の奴らも出ていって構わんぞ」

 そういって出てきたのはあの時の兵士のリーダーさんだ。

 他の兵士たちは全員出ていき、残ったのはリーダーさんだけだった。

 椅子に腰を掛けると。

 「申し遅れたな。私の名前はシルフィーだ」

 いきなり自己紹介を始めた。

 「どうしたんですかいきなり。俺たちを捕まえようとしたときはすごい気迫でしたけど」

 「怖がられては質問できないからな。それと、お前らが悪くないのは知っている」

 「悪くないのは知っているって。本当にどういう風の吹き回しですか」

 シルフィーさんの意図が全くつかめない俺は、何を言わんとしているのか分からなかった。

 「私はさっきまでガーナ様の取り調べを行っていたのだ。そこで聞いたよ、お前たちがガーナ様を助けてくれていたということをな」

 良かった。やっぱりガーナは俺たちのことを助けようとしてくれていたんだな。

 「それじゃあ、私たちを解放してくれるんですか?」

 「いや、実のところソード家の人間に圧をかけられていてな。絶対に犯人を許すな、娘を連れ戻せとな」

 やっぱりそう来るよな。

 娘のためにそこまでしてあげるのは立派だが、娘を想うなら俺たちを解放してほしい。

 「だが、私は罪のない人間を滅ぼしたくない。例え、貴族からの命令でもな」

 「つまり、貴族の命令に背くということですか?」

 「まぁ、そういうことになるな」

 「そんなことをすれば、あなたの立場も危うい。敵ながら、あまりおすすめはしませんよ?」

 サエルの言っていることは分かる。

 貴族の命令に背くなんて、後で何をされるか分かったものじゃない。

 「もちろんただでとは言わないさ。ついてこい」

 俺たちはシルフィーさんに連れられ、取り調べ室を後にした。


 「これは一体どういう状況ですか?」

 途中で合流したガーナに聞かれるが、俺もよくわかっていない。

 「私たちを見逃す代わりに条件があると言って、どこかに向かっているんですよ」

 「見逃してくれるんですか! それは嬉しいです」

 「ついたぞ。中に入れ」

 中に入ってみると、そこには広い空間と様々な武器が置いてあった。

 兵士たちを鍛える訓練場か何かだろうか?

 「これがお前たちの装備だ、受け取るがいい」

 そういって俺たちに装備を渡し、中央へと歩いて行った。

 呆然としている俺たちにシルフィーさんは言った。

 「私はあの日、兵士をやっていて初めて犯人を取り逃がした。例えそれが善人であったとしても、私はあの時のことが悔しくてたまらないのだ」

 そういって剣を抜き、こちらに突き出してきた。

 「勝てばお前たちを解放してやる。ただし、負ければお前たちを見逃すことはできない。……さぁ構えろ!」

 そう言われて、半ば気圧されるように武器を構えた。

 「準備はいいな? ……行くぞ!」


 「その程度か? これでは到底私には勝てんな」

 「強すぎるよ! 逃がす気ないだろ!」

 最初の一分で俺たちのパーティは壊滅状態。

 ナルファもガーナも数秒で気絶させられてしまった。

 かろうじて俺とサエルは逃げ延びているが……。

 「逃げているだけでは勝てんぞ? もっと詰めてきたらどうだ」

 「詰めたら即手刀で気絶させられるじゃん!」

 さっきから距離を取って魔法で対抗してはいるが、簡単によけられダメージになっていない。

 「なぁ、サエルの高速パンチで何とかならないか?」

 「生身ならともかく、あそこまで重厚な鎧を着られていては先に僕の拳が限界を迎えます」

 シルフィーさんはずっと重厚な鎧に身を包んでいる。

 こっちは生身なのにずるくないか?

 あの鎧さえ何とかなれば……!

 ……なれば?

 「なぁ、あの鎧を脱がせばお前は攻撃できるんだな!」

 「はい、恐らく」

 だったら一つ有用なスキルがある。

 「じゃあ高速で俺をシルフィーさんの近くに運んでくれ!」

 「了解しました。……行きますよ」

 そういって俺たちはシルフィーさんに高速で近づき。

 「“装備はがし”」

 「なっ!?」

 鎧はがしを成功させた。

 鎧はがしは脱ぐのが面倒な装備を簡単に脱ぐことができるスキルだ。

 しかも、このスキルは相手にも使うことができる。

 正直、このスキルは日々の着替えを楽にするだけのスキルだと思っていたが、意外にも活用方法があっ たらしい。

 鎧がなくなり、中から出てきたのは。

 「まさか鎧をはがされるとはな。便利屋も侮れん」

 とても美人な女性だった。

 「えっ、シルフィーさんって女性だったんですか!」

 「そうだが……。もしかして男だと勘違いしていたのか?」

 だって顔が隠れてたし、声はくぐもっててよく分からなかったし。

 「ありがとうございます。これで僕の攻撃が通り……」

 鎧がなくなったシルフィーさんに近づいたサエルの拳を、シルフィーさんは簡単に止めていた。

 「逆に礼を言わせてもらうよ。鎧がなくなったおかげで体が軽くなってお前のスピードについていけるからな!」

 そういわれてサエルは慌てて距離を取った。

 「正直これは想定外です。まさか僕のスピードについてこれるとは」

 「さすがにお前のスピードで動くことは不可能だが、お前の動きをざっとだが肉眼で見ることができる。少しでも見えれば止めることなど容易い」

 当たり前のことのように言っているけど、魔王軍幹部ですら止めれなかった拳だぞ。

 「さぁ、降参するか? それとも私に気絶させられるまでやるか?」

 もうここまでなのか……!

 俺は諦めかけ、訓練場の端の方を見た。

 するとそこにあった異様な光景が目に付いた。

 「おいサエル。あそこから適当なものもってこい。そしてそれと一緒に俺をシルフィーさんのところに連れていけ」

 「あそこといいますと……。おや、タイラさんも人が悪いですねぇ」

 「そうだな。俺もあまり乗り気はしないが、勝つためには仕方のないことだ」

 「何だ? まだ何かを企んでいるのか?」

 「それじゃあ、任せた」

 その声を合図に、サエルは再び俺をシルフィーさんの前に運んだ。

 「見えていると言っているだろう。これで終わり……」

 「“鎧着衣”」

 このスキルは鎧はがしとは逆のスキル。

 一瞬で装備を身に付けさせることができるのだ。

 俺とサエルが目を付けたのは罰ゲーム用と書かれた段ボールに入ったいろいろな衣装だった。

 おそらくそこら辺の兵士がおふざけで用意していたものだろうが、今は有効活用させてもらう。

 「なんだ? 今私に何を着せた……っ!」

 数ある衣装の中からサエルが持ってきたものは……。

 「お前って結構悪趣味だな」

 「まさか。一番上にあったものを持ってきただけです」

 メイド服だった。

 「ふふ、よくお似合いですよ」

 「み、見るな! 私にこんなかわいい服は似合わない!」

 シルフィーさんは赤面し、しゃがみこんで顔を覆ってしまった。

 「どうしますかシルフィーさん? 降参するなら着替えさせてやってもいいですよ?」

 そういうとシルフィーさんはキッとこちらを睨んできて。

 「馬鹿にするなー!」

 強烈な平手打ちをくらわしてきた。


 「おい、起きろ。釈放だ」

 目が覚めると牢屋の中にいた。

 牢屋の前には再び鎧を着ていたシルフィーさんが立っていた。

 「結局、あの後どうなったんだ?」

 「タイラさんが倒れた後、あまりにも隙だらけだったシルフィーさんを僕がぼこぼこにしてやりましたよ」

 「嘘をつくな! お前あの後、降参しないならメイド服を着ていたことを言いふらすと脅してきたではないか!」

 「そうでしたっけ?」

 とぼけるサエルにシルフィーさんが激昂していた。

 「シルフィーさん、助けてくれてありがとな」

 「礼などいらん。私がやりたくてやったことだからな」

 そして、シルフィーさんは俺たちを入り口まで見送ってくれた。

 「それじゃあ、また機会があったらよろしくな」

 「ああ。……ちょっと待ってくれ」

 この場を去ろうとした俺をシルフィーさんが呼び止めてきた。

 「その……メイド服の脱ぎ方を教えてくれないか? 今も鎧の下に来ているのだが、こういった服は着たことが無くて脱ぎ方が分からんのだ」

 「……お前らダッシュだ! 絶対にシルフィーさんに捕まるなよ!」

 「おい待て! くそっ、鎧が重くて……!」

 シルフィーさんには悪いが、平手打ちの仕返しぐらいはさせてもらおう。


 こうして、俺たちは無事に無罪放免となった。


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