魔王軍幹部
「これより作戦会議を決行する」
俺たちは今までにないほど真剣な顔をして、リビングに集まっていた。
「現在俺たちには一千万の懸賞金が懸けられている。このままではこの屋敷で一生過ごすか、捕まってひどい目に遭うかの二択になってしまう。それを阻止するための案を皆には考えてほしい」
「はい。兵士を全員力でねじ伏せてしまえばいいと思います」
「サエル茶化すな。……さっきからずっとだんまりしてるそこの二人はなんかないか?」
手配書を見てからずっと黙り込んでいる二人に俺は声を掛けた。
「この私が指名手配されるとは……。犯罪者にはなるなと親にあれほど念押しされていたのに……」
「いいえ、皆さんは悪くありません。私がいけないんです。私の問題をパーティに持ち込んでしまった私が……」
「あんまり気を落とすなよ。俺たちは悪いことをしたわけじゃない。それに、誰かが悪いなんてことはないからさ」
気休め程度の言葉でしかないが励ましにはなるだろう。
というか、そうでも言っていないと俺自身も滅入っちゃう気がする。
「そうですよね。私たちは別に悪いことをしたわけじゃない。ちゃんと事情を話せばきっと分かってくれますよね」
「いえ、それは無理じゃないかと」
「おい、せっかく立ち直れそうな雰囲気だったのになんで水を差すんだよ」
「それに関しては申し訳ないですが、そんな簡単な話ではないんですよ。ただ、ここまで高額な懸賞金が出された以上、話し合いで解決するのは無理があります」
あまり考えたくはなかったか、サエルの言う通りだ。
数万ならともかく、一千万も出されているのだから、誤解を解くのは簡単なことじゃない。
「じゃあどうすればいいんですか? このまま私たちは諦めるしかないのですか?」
ナルファが不安そうに尋ねてきた。
「いえ、誤解を解くのなら一番手っ取り早い方法があります」
「本当か!」
「ええ、本当です」
沈んでいた空気が、少し軽くなった気がした。
「それで、その方法って言うのは……」
「誰もが認める功績を叩き出すことです」
「……つまり?」
「大物賞金首を討伐してしまうのですよ。そうすれば、この街、この世界で重要な存在であることを証明することができます」
「いやでも、功績を立てただけなら普通に逮捕されるんじゃないのか?」
「この世界では実力が全てです。いくら悪いことをしていても、魔王軍討伐に協力をしてくれるなら、喜んで見逃してくれますよ」
なんだその頭のおかしい設定は。
だが、今の俺たちにとっては嬉しい情報であるのは確かだ。
確かではあるのだが……。
「この辺りにそんな都合よく賞金首がいるのかって話だよな」
「その通りですよ。この辺りはとても平和なんです。魔物なんてゴブリンとスライム、たまにスライムの突然変異が現れるくらいで……」
ここは駆け出しの街。
弱い魔物を狩って、初級冒険者が中級冒険者を目指すような街だ。
こんな場所に大物賞金首が来るはずもない。
「なら、今から旅に出て魔王城を目指すのはどうでしょう? その旅路で幹部に会えれば疑いを晴らせます……ぜ」
「でも、旅を続けるのには金がいる。任務を受けれない俺たちじゃすぐに行き倒れるぞ」
あーでもない、こーでもないと話を続けていた俺たちの下に。
「出てこい犯罪者!」
威勢のいい声が響いてきた。
「ここにいるのは分かっているんだ。俺が正義の名のもとにお前たちを捕まえさせてもらう!」
……うるさいなぁ。
かれこれ一時間はいないふりを続けているのにまだ帰ろうとしない。
かといって屋敷に侵入するわけでもなく、ずっと叫び続けるだけなのだ。
「すいません。もう流石に我慢の限界なので、魔法を撃ってきてもいいですか?」
「もう少し我慢してくれよ。俺だってイライラしてるんだからな」
ガーナも口には出さないが、さっきからずっと耳を塞いで震えている。
サエルはというと……。
「おやおや、僕の屋敷に何か御用ですか?」
我慢の限界だったのか、冒険者に話しかけに言っていた。
……は?
「あいつ何やってるんだよ! 一時間の努力を無駄にする気か!」
「待ってください! なんだか様子が変です」
ナルファに言われ、こっそりと二人の様子を眺めていると。
「お前がこの屋敷の主か。おい、犯罪者を匿ってるんだろ。さっさと出せよ」
「そんなまさか。僕は犯罪者を匿ってなんかいませんよ」
「じゃあ、犯罪者がどこに行ったか知らないか?」
「風のうわさでは、隣町に逃げ込んだという情報がありますよ」
「本当か! ありがとな。お前のおかげで犯罪者を捕まえられそうだよ」
「いえいえ。とっても正義感がお強いんですね」
なんとかサエルのおかげで冒険者を追い返せそうだな。
「ああ。流石にこいつらは見逃せないと思ってね。ガーナってやつは一番弱い兵士に負けるらしいし」
……。
「ナルファってやつも魔法が凄くないんだろ。体も小さいみたいだから簡単に捕まえられそうだ」
……………。
「主犯のタイラってやつは便利屋とかいう対して強くない職業だし。それに女をさらう変態だろ? もはや同じ人間だと思いたくないね」
………………かっちーん。
「さっきから舐めた口ききやがって! 泣いて後悔させてやる!」
「出てきやがったな犯罪者。おとなしく俺に捕まれ!」
「うるせー! 誰がお前なんかに捕まるかよ!」
あまりの言い草にカッとなった俺たちは表に出て、冒険者に攻撃を始めた。
「よくも私の悪口を言ってくれましたね! “ファイアボール”」
「でも事実だろ? 俺の知ってるファイアボールはこんなに小さくないぞ」
「だが隙だらけだ。 “ファイアソード”」
「いや、隙だらけって言ってるあなたの方が隙だらけだよ」
女子二人がムキになって攻撃を繰り返しているが、一向にダメージを与えられる気配がない。
「想像よりも強くなくて良かったよ。さぁ、おとなしくお縄についてくれ」
「それは勝ってから言うんだな! “アナライズソード”」
「ぐはっ!」
アナライズソードは、消費魔力こそ多いが敵に一番有効な攻撃箇所めがけて攻撃できるというもの。
二人の攻撃に集中していた奴の背中に見事にクリーンヒットさせて見せた。
「背後から攻撃とか卑怯だぞ! こっちは一人で戦ってんのに!」
「一人で来たのはお前だろ! それに、裏切り者に情けをかけてやる義理はない!」
その言葉を聞いて、男はぴたりと動きを止めた。
「なるほど、まさか僕の正体を見破っていたとは。馬鹿に見えても、意外とやるんですね」
こいつは一体何を言ってるんだ?
「兵士に突き出してお金をもらおうと思っていたのですが、正体がばれてしまっては仕方がない。僕の正体を知ったものは消せと魔王様に消せと言われているのですよ」
そういいながら、男の体が変形していき……。
「魔王軍幹部、十二面相のカイジと呼ばれたこの僕の正体を見破った褒美に、あなた達を地獄に送ってあげますよ」
魔族の姿となって襲い掛かってきた。
「ちょっと待てよ! なんで正体を明かしてきたんだ!?」
「なぜって、あなたがそう言ったんでしょう? 僕を裏切り者だとね」
あれは同じ冒険者を売ろうとするなんて最低という意味だったんだが……。
どうやら最悪な形に受け取られてしまったらしい。
「これはチャンスですよタイラさん。こいつを倒して功績を作るんです」
絶賛ピンチなこの状況でサエルは嬉々として言ってきた。
「馬鹿なこと言ってんなよ。魔王軍幹部なんて真正面から戦って勝てるはずないだろ!」
「なら真正面から戦わなければいいんです。いくら幹部と言えど、想定外のことへの対処には時間がかかるでしょう。そして、僕たちならその想定外を容易に作り出すことができますよ」
「……分かった、分かったよ! それじゃあ、言い出しっぺのお前がトップバッターだからな」
「それは少しばかり緊張してしまいますね」
そうはいいながらも、全然楽しそうにしていた。
「カイジさん。あなたは今から3秒後に激痛でもがいているでしょう」
「なんだ? はったりなら僕には通用しないぞ……ぐっ!?」
さっきまで悠々と空を飛んでいたカイジは突如として墜落してきた。
「な、なにが起こって……!」
「簡単なことです。僕は三秒の間に、あなたに三万発のパンチを入れたんですからね」
「何だと!?」
三秒で三万発ってそんなことが可能なのか?
「僕のパンチは一ダメージにも満たないほどのか弱いパンチです。ですがそれも数が増せばそれだけダ メージも増えるのですよ」
サエルってこんなに強かったのか!
ただ一つ気になることは。
「なんでずっと寝そべっているんだ?」
パンチ攻撃を終えてから、こいつはずっと寝たきりなのだ。
「この攻撃は体力をものすごく消費することになるので……。すいませんが、回復魔法をかけてもらってもいいですか?」
サエルが回復魔法を欲しがっていた理由が分かったような気がした。
「させるか!」
回復魔法をかけようとした俺めがけて、カイジが突撃してきた。
「そうはさせません! “アナライズソード”」
「がっ!」
しかし、その横からガーナが剣を振るってくれた。
いくらガーナの剣でも、有効打となればそれなりにダメージが入る。
「くそ! 邪魔しやがって……」
「私は戦士。皆さんを守るために、絶対にこの先には行かせない! “アナライズソード”」
「見え見えのアナライズソードなんか当たるはずないだろう!」
そういってカイジは軽々と剣を受け止めて見せた。
アナライズソードの弱点は有効打を与えられる場所がない時だ。
警戒している相手にはどこを狙っても簡単に受け止められてしまうだろう。
「ふはは! 所詮この程度なんですよ。それが分かったらさっさとどいて……」
「“アナライズソード”」
「おい、無駄だと言っているだろう。正直ちょっとヒヤッとしたが、そう何回も使ってはお前の魔力が先に切れて……」
「“アナライズソード”、“アナライズソード”、“アナライズソード”」
「ちょ!?」
だが、一つの攻撃に集中すればもう一つの攻撃への反応が遅れる。
アナライズソードは不意打ちの他にも、連続して使うことが強いのだ。
ただ、アナライズソードは消費魔力が大きいし、何より使い手の戦士のほとんどが魔力をそんなに持っていない。
実際に、俺の魔力で試してみたが全然足りなかった。
この技は並大抵の魔力じゃ到底こなせない芸当だ。
そして、こんな芸当ができるのは……。
「“アナライズソード”、“アナライズソード”、“アナライズソード”」
「ぐっ! がっ! ぎゃっ!」
俺らのパーティのダメ戦士ぐらいだろう。
「いいぞガーナ! そのまま倒しちまえ!」
「そうしたいのですが、そろそろ魔力が限界です!」
「やっぱりガーナの剣じゃとどめまでは持っていけないか……。だったら後はお前に任せるよ」
そういって俺が送り出したのは……。
「どいてくださいガーナ。とどめは私が持っていきます」
俺らのパーティで一番攻撃力の高いナルファだった。
「はい! 後は任せました」
「全部が全部想定外だ! 足の速い僧侶に魔力の高い戦士だと!」
あまりにもひどい戦い方をされて、ご立腹の様子のカイジがこっちを睨んできた。
「だが、この魔法使いは大したことないはずだ。魔法使いなんて距離を詰めれば無力も同然……!」
そういいながら、ナルファに突っ込んでいった。
確かに普通の魔法使いならそれでもいいかもしれないが、ナルファは違う。
今回、ナルファには魔法を使うなと言ってある。
「これで終わりだー!」
その代わりに。
「せい!」
「ぐはっ……」
奴のむかつく顔面を思いっきり殴り飛ばせと言っておいた。
魔王軍幹部、十二面相のカイジ敗れたり。
「なぜこの僕がこんな目に遭わなきゃいけないんですか!」
「お前が魔王軍なのが悪い」
俺たちは気絶していたカイジを縛り上げ、反抗できないようにして街へと運んでいた。
だが、その途中に目を覚ましたカイジがさっきからずっとこの調子だ。
「大体、何なんですかあなたのパーティは! 魔法使いが力が強いなんて聞いたことありませんよ!」
「そんなことを言われてもなぁ。極度な馬鹿としかいいようがないよ」
「馬鹿でもいいですよ。そんなことより、魔王軍幹部にとどめだなんて、私の世界一の魔法使いへの一歩ですよ」
「世界一のゴリラの間違いでは……」
「まだ元気があるみたいですね。もう一発叩き込んでもいいんですよ?」
ナルファの圧に負けてカイジはすぐに降参していた。
「そもそも、なんでお前はこんなかけだしの街にいるんだよ?」
「言うわけないだろう。お前らなんかに」
「なら、力づくで聞くまでですよ?」
「わ、分かったよ! 俺は変装が得意だから冒険者になりすまして、強くなりそうな冒険者たちを潰し てたんだ。それと、もし冒険者と魔王軍が衝突した際には俺が冒険者側から登場して冒険者たちを動揺させるためだったんだ」
そんな物騒なこと考えてたのか。
こんなやつ放っておいたら冒険者たちは危なかったかもしれない。
……でもこれって倒してもよかったのか?
こんなイベントで消費するのは少々もったいない気もしてきた。
もっと終盤に出てくれば面白い展開にもなっただろうに。
だが、身の安全が第一なのでいまさら逃がすなんてこともしないが。
そんなこんなしているうちに冒険者ギルドにたどり着いた。
「お久しぶりですギルド職員さん。そしてお土産です」
堂々とギルドに入っていった俺たちは、ギルド職員さんにカイジを突き出した。
「お土産って、魔王軍幹部じゃないですか!」
ギルド職員さんの声を聞いて、周囲の冒険者たちが動揺していた。
「嘘だろ、あんな弱そうなやつらが?」
「あいつ便利屋だろ。一体どんな方法を使ったんだ?」
「そんなことより、あいつらって今指名手配されてる……」
そこかしこからそんな声が聞こえてくるが、俺たちは気にしなかった。
「おい! ここにスズキタイラがいるというのは本当か!」
ギルドの扉を思いっきり開けて、兵士たちが中に突入してきた。
「そんなに慌ててどうしたんですか? 兵士さんも俺たちのお祝いに……」
「しゃべりかけるな犯罪者! スズキタイラ及びそのパーティメンバーを人さらいの罪で捕縛させてもらう!」
そういうやいなや、俺たちのことを抑えつけてきた。
「おい離せ! 魔王軍幹部を倒したら罪がなくなるんじゃないのか!」
「誰に聞いたそんな話! 昔はそんな制度もあったが、そんなの廃止されるに決まっているだろうが!」
じゃあ俺たちの頑張りは無意味だってことだったのか。
「やめてください! か弱い女の子になんてことするんですか!」
「おいもう少し人数を増やしてくれ、こいつすごい力が強い! なにがか弱いだ、嘘ついてんじゃねぇぞ!」
「いや、離して! まだ実家には帰りたくありません!」
「兵長、例の女を捕獲しました」
「うむ、よくやった。引き上げるぞ!」
「待ってください! あともう一人の仲間がいません!」
「まだ近くに居るはずだ! 見つけ出して捕まえろ!」
こうして、俺たちは兵士に連行されていった。




