神嫌いな僧侶
気が付けば俺たちは見知らぬ屋敷の前にいた。
「こ、ここはどこだ? それにこのぼろそうな屋敷は一体……」
「ぼろそうとは失礼ですねぇ。これでもきれいに保っているんですよ?」
慌てて後ろを振り向くと、そこにはさっきの男が立っていた。
「あなたが俺たちを兵士から逃がしてくれたのか?」
「はい。僕があなた達のピンチを救ったサエルです」
そういうとサエルは怪しい笑顔を浮かべた。
「実はですね、あなた達、もといタイラさんにお願いがあるんですよ」
俺にお願い?
というか……。
「なんで俺の名前を知ってるんですか?」
「名前なんてどうでもいいでしょう。ですよね、ナルファさんにガーナさん」
「なっ!?」
俺だけじゃなくて他の二人の名前も知ってるなんて……。
「なんというか、この人は怪しいです。今すぐこの場を離れたほうがいい気がします」
「同感です。名乗ってもないのに名前を知っているなんておかしいです……ぜ」
だよなぁ。
恩人ではあるが、善人にはとても見えない。
二人の言うようにこの場から逃げたほうが良いだろうか?
「おやおや、助けてあげたのに心外ですねぇ。それと、今この場を離れるのは得策ではありませんよ」
「……どういう意味だ?」
「この屋敷は街からそう遠くないところにあります。今ここを出ていけば、兵士さんとばったりなんてこともあるかもしれませんよ?」
「でも、それはここにいても同じことだろ?」
「そこは安心してください。この屋敷に人が住んでいること、そしてその住人が僕であることはほとんどの人に知られていません。それに、ここはさっきの森の反対側。しばらくは相手の目から隠れることができます」
その話を聞き、俺は考え込んだ。
怪しいことに変わりはないが、俺たちを助けようとしてくれていることもまた事実らしい。
正直、安息の地を欲していたところだ。
「……分かりました。サエルさんの頼みごとを聞く代わりに俺たちをここに置いておいてくれませんか?」
「ふふ、交渉成立です」
そういって、サエルは嬉しそうな顔をした。
「それで、俺に何をしてほしいんですか? お金なら持っていませんよ」
「お金には困っていないのでご心配なく。僕のお願いというのは、僕をあなたのパーティにいれてほしいというものです」
そのあまりにも意外なお願いに。
「……え?」
俺は戸惑いの声を上げるしかなかった。
「……というわけなんです」
なるほどな。
サエルさんの話を聞くとこういうことだった。
自分は僧侶をやっているが、回復魔法を使えない。
ただ、便利屋なら自分がパーティに入ることで回復魔法が使えるようになるからあなたの仲間に入れてほしいということだった。
「いろいろ言いたいことがあるんですけど、まずなんで回復魔法が使えないんですか?」
「回復魔法は神様の力を借りて使用するものです。そのため、神様への信仰心を持っている必要があります」
回復魔法ってそんなめんどくさいのか。
ゲームにもよると思うが、今までやってきたゲームの僧侶に感謝しなければ。
「ですが、僕は昔のある出来事がきっかけで神様のことが嫌いになったんですよ。そのときから回復魔法が使えないんですよね」
「これまでいろんな神嫌いを見てきましたが、僧侶で嫌いな人は初めてですよ」
「私の家も神様を信じていないが、それが僧侶でもいるなんて驚き……だ」
神嫌いな僧侶か。
何て矛盾する単語の組み合わせだろう。
「それで、なぜ便利屋だと魔法が使えるんですか? 俺は神様を信仰しているわけではないのですが」
俺は別に神様を信仰しているわけじゃない。
さっきの話通りであれば、俺も魔法が使えないはず。
それなのにサエルは使えると言い切っていた。
「なるほど。それでは質問を返すようで悪いのですが、なぜあなたは何の知識もなく魔法や剣が使えているのですか?」
……言われてみれば。
「本来スキルとは、十分な知識と技術をもってして初めて習得できるもの。それを無視して簡単に使えるなんておかしな話です」
サエルの言う通りだ。
俺は一回も魔法を使ったことが無いのにいきなり三段階目の魔法を使うことができた。魔法剣も高度なことをしているはずなのに見ただけで使えてしまった。
「それじゃあ、便利屋にはとても恐ろしい力が眠って……」
「そんなわけないじゃないですか。理屈で考えるなと言っているだけです」
…………。
「あなたみたいな素人が簡単に剣や魔法を使えるようになるんですから、信仰心が無くても回復魔法が使えても不思議じゃないでしょう?」
確かに不思議じゃないが……。
期待した俺の気持ちを返してほしい!
サエルの屋敷を借りれることになり、皆安心して眠ることができた。
それにしてもこれだけ広い屋敷に今まで一人で住んでいたとか。
部屋の一つ一つもきれいに保たれており、外見のぼろさを感じさせないほどだった。
朝の支度をして、リビングまで下りていくと。
「何やってんの」
「おはようございます。見ての通り魔トレですよ」
元気に腕立てをしているナルファとガーナがいた。
「おはようございます。ナルファが筋トレをしていたので、私もしようと思ったんだぜ」
「何度も言ってるでしょう。これは魔トレ。魔力を鍛えるトレーニングです」
どこからどうみても筋トレのほうが正しいだろ。
「えっと、魔トレって何なんだ?」
「まさか魔トレを知らない人間がいるなんて……。しょうがないですからこの本を貸してあげますよ」
そういって本を渡してきた。
本のタイトルは「魔トレのすすめ」。
……いや、よく見たら魔の部分がシールになっている。
絶対シールの下は筋の字だよな。
「しっかり読んできてくださいね。タイラも魔法を使うので、明日から参加してもらいます」
俺もやるのかよ。
力はつけておいて損はないから別にいいけどさ。
「おはようございます、タイラさん。昨日はぐっすり眠れましたか?」
筋トレを眺めていた俺の後ろに気づけばサエルが立っていた。
「ああ、おはよう。お前のおかげでぐっすり眠れたよ」
「それは良かった。戦うためにはしっかりとした睡眠が重要ですから」
そういっていつのまにか淹れていた紅茶を飲んでいた。
「なぁ。昨日から気になってたんだが、サエルって時を止めれるのか?」
「まさか。時を止めるなんて高度な魔法僕には使えませんよ」
「じゃあ気づいたら屋敷の前にいたり、知らない間に背後を取られていたり、さっきまでなかった紅茶ができてたり……この超常現象は一体なんなんだよ」
「まぁ、僕は人より足が速い自信があるので」
足が速いで片付けていい問題じゃないだろう。
いや、魔法使いに向いてない魔法使いや、戦士に向いてない戦士がいるような世界だ。現実離れした足の速さを持った僧侶がいてもおかしくない……よな?
「せい!」
「甘いな。剣の軌道が見え見えだ」
昼食を済ませ、ガーナにお願いをされた俺は。
「だんだん良くなってはいるが、まだまだだな。もう一度やるぞ」
「はい!」
ガーナに稽古をつけていた。
剣を使えるのが俺だけだし、ガーナよりも剣の扱いが上手な俺が師匠になるのは当然ではあるが……。
「それじゃあ構えろ。そして俺の動きについてこい!」
「はい!」
あまりこういう事を言ってはいけないかもしれないが、ものすごく楽しい。
まだ未熟な弟子を育て上げる師匠役をやれる日が来るとは思わなかった。
俺がやっていたゲームの師匠キャラはとにかく弟子のために尽くすところが魅力だった。
弟子を守るために命を投げ出すところは涙なしには見られないほどの名シーンで……!
おっと、つい熱くなってしまった。
稽古に集中せねば。
「いいぞ。その調子だ」
「はい!」
「ふっ、いい意気込みだな。では今からスピードを上げるぞ。ついてこれるな?」
「はい!」
……はい以外に言うことはないのだろうか。
なんか一人だけのりのりで演じていて少し恥ずかしくなってきたのだが。
「師匠、全然スピードが上がっていないのですがいつ上げるんですか?」
「そう焦るな。不意に来たときにも対処できるようにわざとタイミングをずらしているんだ。決してその場のノリで言ってしまっただけとかそういうのじゃないからな?」
「なるほど! そこまで考えていてくれたなんて……」
「そういうことだ。それじゃあ行くぞ!」
こんな生活が一週間ほど続いた、そんなある日。
「ねぇタイラ。そろそろ街に出かけに行きたいのですが」
「私も行きたい……な。そろそろここだけの生活がすこし退屈に感じてきました……よ」
「確かに俺もそろそろ限界が近い。だが安心しろ。今サエルが街の様子を見てきてくれているから」
さすがに一週間もほとんど幽閉状態だと、街に出かけたくなるのも致し方ない。
それに、今までサエルのお金とスピードで隣の街まで行って買い物していたが、そろそろそのお金も尽きる頃合いだ。
「ただいま戻りました」
「お帰りサエル。で、どうだったんだ?」
「ふふっ。とても面白い情報を持って帰ってきましたよ」
そういいながらサエルは一枚の紙を渡してきた。
「何々、『冒険者スズキタイラ、及びその仲間たちに懸賞金一千万トインを懸けることにする。見つけたものは捕縛し、兵士団に連れてくるように』」
紙にはでかでかと俺とナルファとガーナの写真とサエルみたいな似顔絵が載っていた。
…………は?
イッセンマントイン?
一トイン=一円だったよな。
つまりは一千万円の賞金首ということに……
「なぁ、これは冗談だよな? サエルがいたずらで作ったただの紙切れだよな?」
嘘であってくれと願う俺に帰ってきた言葉は。
「捕まらないように頑張りましょう。一千万の賞金首さん?」
あまりにも無情なものだった。
俺の異世界ライフ、終わった……。




