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戦士なのに

 「まったく。これからは泣き癖は直せよ。俺が白い目で見られるんだからな」

 「それは仕方ないといいますか……いや、やっぱり私泣いていません」

 パーティを組んだ翌日、俺たちは街を散策していた。

 「誤魔化すなよ。俺、ギルドの職員に注意されたんだぞ」

 「それはタイラが悪いわけで……あっ、私のお気に入りの店が見えてきましたよ」

 いい感じに話をそらされてしまった。

 どう考えても10割……いや9割はナルファが悪いのに。

 そんな俺の考えをよそにナルファは店に入っていった。

 俺も店に入ろうとしたその時、

 「そこのお方、どいてください!」

 その声に振り向いた俺に見知らぬ女性が飛び込んできた。

 「いたた。あの、大丈夫ですか?」

 「いけない! 早く逃げないと……」

 逃げる?

 こんな街中でいったい誰から逃げるのだろう。

 「ぶつかってしまい申し訳ありませんでした。失礼します!」

 そういうとさっさと走って行ってしまった。

 「あっちに行ったぞー。捕まえろ!」

 呆気にとられている俺の横を数人の兵士が走り去っていった。

 何だったんだ、今の。


 「結局、その女性の特徴は分からなかったんですか?」

 「まぁ一瞬だったし、フードを被ってたからな」

 さっきの出来事をナルファに話したところ、買い物はやめてその子を探そうと言い出した。

 「それにしても、なんで探そうと思ったんだ? なにから逃げているか知りたかったのか?」

 「それもありますが、何より困っている人は助けたいじゃないですか」

 ナルファはそんな委員長みたいなことを言い出した。

 考えてみれば、常に敬語だったり、メガネをかけていたりで俺の前世の生徒会長に似ている。

 勉強も運動も常にトップクラス。誰にでも優しく、全校生徒のあこがれだった。

 ただ、なぜか俺には厳しかったんだよな。

 才能に恵まれたあいつにとって、凡人な俺はストレスだったのかもしれない。

 そんな昔のことに思いふけっていると、

 「もしかして、あの子じゃないですか?」

 ナルファが指をさした方向を見ると、そこにはフードを被った人がうずくまっていた。

 「確かにそうかも。あの、すみません……」

 俺が試しに声を掛けてみると……。

 「ひ、人違いです!」

 さらにフードを深く被ってしまった。

 「落ち着いてください。あなたを追いかけている者ではありません」

 その言葉を信じてくれたのか、フードから少しを顔を覗かせて、

 「あなたはさっきの……」

 俺の顔を覚えてくれていたらしい。

 「俺は鈴木平って言います。あなたに聞きたいことはいろいろあるのですが、まずはここを離れましょう。さっきからこの辺りを兵士が探しています」

 その言葉を聞き、彼女は慌ててフードを深く被った。

 「身を隠すなら街の外に出ましょう。人の目に付きにくいため、時間稼ぎにはなると思います」

 「えっと、あなたは……」

 「私はナルファ。この街一番の魔法使いになる予定の者です」

 「今はそういうのいいから。さぁ、行きましょう」

 ナルファの提案で俺たちは街の外に身を隠すことにした。


 街を出た俺たちはとりあえず、近くの森に避難をした。

 「ここならしばらくは大丈夫だな。それで、あなたのお名前は?」

 「私はガーナと申します。先ほどは迷惑をおかけしました」

 ガーナと名乗った女性はフードを取り、ほっとしたような顔をしていた。

 「気にしないでください。それより、なぜガーナさんはあんなに大勢の兵士から逃げていたんです か?」

 「そ、それは……」

 俺の質問に対して、ガーナさんは答えにくそうに顔を俯かせた。

 「まだ動揺してるのでしょう。いきなり質問攻めはかわいそうです」

 そんなことを言いながら、ナルファはガーナさんの前でしゃがみ、

 「無理に答えなくてもいいですよ? ただ、私たちはあなたのことが心配なんです。街中で兵士から逃 げなきゃいけないなんて、よっぽどの理由がないとまずありませんから」

 ほほ笑みながらそんなことを言っていた。

 泣きわめく子供みたいな一面とはまた違った、大人な雰囲気を感じさせた。

 「実は私、家出してきたんです。そしたら、帰ってこないことを心配した親が兵士や冒険者に私のこと を探すよう依頼しました。でも、私自身はしばらく家に帰りたくないので、それで……」

 兵士から逃げ続けいたってわけか。

 確かに家出したのに無理やり帰らされるのは嫌だな。

 俺でも兵士から逃げる選択を取るだろう。

 「そうですか。でしたら、しばらくは私たちと行動しましょう」

 その言葉を聞き、ガーナは驚いた顔をした。

 「いいんですか? でも、私といると兵士に追われるかもしれませんよ?」

 「そしたら私とタイラで返り討ちにしてみせますよ。家に帰りたくなるまで私たちが守ってあげます よ。タイラも賛成ですよね?」

 「ああ。俺も家出をしたことがあるから家に帰りたくない気持ちは分かるしな」

 俺の場合は一時間もしない内に家が恋しくなったのだが。

 「ありがとうございます。私のためにそこまでしていただいて……」

 しばらく兵士に追いかけられない安心か、仲間ができたことへの喜びか、ガーナは泣き出してしまった。

 「なぁ、この世界の女性は泣かなきゃいけない決まりでもあるのか?」

 「ちょっと、そっとしといてあげてください! 後、今誰を思い浮かべてその発言をしたんですか!」


 「先ほどはお見苦しいところを見せてしまいましたね」

 「気にしないでください。それと、そんなに離れていると守れないのですが」

 ガーナが泣き止み、俺たちは森を探索することにした。

 「一応戦士なので自分で身を守ることはできます。それに、お二方の邪魔をしてはいけないと思い……」

 「そんなに遠慮しないでも、私たちはもう仲間なんですから」

 その言葉を聞き、ガーナは少しうれしそうにしていた。

 その様子を二人して、物珍しそうに眺めていると。

 「あっ、すいません! 長いこと冒険者をやってきてはいるのですが、仲間ができたことが無いのでつい……」

 と恥ずかしそうに言ってきた。

 「別に恥ずかしがることはないと思いますよ。私も長い間、仲間がいませんでしたから」

 もはや俺の知っているナルファとはかけ離れた何かがそんなフォローをしていた。

 さっきからかっこいいことばかり言っていてずるいので、ちょっとからかってやることにした。

 「街一番の魔法使いなのに、仲間がいないなんてことがあるんだな」

 「そ、それは私のことを甘く見ている人が多かっただけで、決して声を掛けられなかったわけではありませんからね」

 早口で言い返してきたナルファは、こっちを睨んできた。

 「あの、タイラさん。もしよければなんですけど、私にも同じ感じで接してはくれませんか?」

 俺とナルファのやりとりを羨ましそうに見ていたガーナさんがそんなことを言ってきた。

 「それは構いませんが、多分ですけどガーナさんのほうが年上ですよね?」

 「年齢は関係ありませんよ。だって、仲間ですから」

 よほど仲間に憧れていたのか、笑顔でそんなことを言ってきた。

 「それなら気づかいしないけど、ガーナも敬語をやめてもいいからな?」

 「ありがとうござい……いえ、仲間ならサンキュー? それとも……」

 敬語をやめようと努力しているガーナを微笑ましく見ていると……。

 「見つけたぞ! あれが目的の女性だ!」

 突然、後方から大声が聞こえてきた。

 振り返ると十人の兵士がこちらに向かって走り出していた。

 「まずいな、もうこんなところまで来ているとは。いったん逃げ……」

 「“ファイアボール”!」

 逃げようとした俺とは反対にナルファは立ち向かっていった。

 「あ……つくないな。ファイアをはったりに使うとは言い度胸だな!」

 「なにやってるんだよ! 相手は十人いるんだぞ!」

 「タイラこそ何言ってるんですか! ここで迎え撃たないでいつ迎え撃つんですか!」

 その言葉を聞いたガーナも腰に携えていた剣を抜いた。

 「ナルファがそういうなら従います、じゃなかった従うぜ……やっぱり違うかも?」

 「今はそんなこと気にしなくていいから! とにかくやるぞ」

 迎撃態勢を取った俺たちを見て兵士たちは警戒をして距離を置いて立ち止まった。

 「相手が三人だからと油断するなよ。相手二人の素性が分からぬ以上、何をしてくるか分からんからな」

 警戒されるのは嬉しいが、今回ばかりは素直に喜べないな。

 素性を知っていれば油断してくれただろうに、奇襲を仕掛けるチャンスを失ってしまった。

 「私が前衛で囮をします。ですので二人は後方から魔法で支援してください」

 「わかりました」

 守る対象に前衛をやらせるなと思われるのだろうが、今のパーティにはガーナしか前衛職がいないので仕方ないことなのである。

 「行きます! “ファイアソード”」

 炎を剣にまとわせ、ガーナが突っ込んでいった。

 「魔法エンチャントスキルが使えるとは、ガーナは中々やりますね」

 「魔法エンチャントスキル?」

 「武器に魔法を付与させるスキルです。武器の技術の他にも魔法力や魔力を求められるのでかなり高度なことなんですよ」

 「つまりガーナは剣と魔法が使えるハイスペックってことか?」

 「そういうことになりますね」

 まじかよ。

 そんなに強いなら逃げることなかっただろうに、どうして逃げ回っていたんだ?

 「きゃあ!」

 その疑問に答えるように、ガーナが弾き飛ばされていた。

 「おい、大丈夫か!?」

 「大丈夫です。でも、ごめんなさい」

 「謝らなくてもいいよ。それより、魔法剣を使っても倒せないなんて、一体あの兵士は何者だ?」

 一番弱そうな兵士にやられるなんて、一体あの兵士たちはどれほどの特訓を積んできたんだ……。

 「いや、自分軽く剣を振っただけっすけど」

 ……え?

 兵士の発言を聞き、俺は慌ててガーナのほうを見た。

 「その、昔から剣を扱うのが苦手なんです。戦士なのに力より魔力の方が優れているという少しばかり変わった体質を……」

 「それならそうと先に言ってくれよ! ちょっとカッコつけちゃったじゃん!」

 お互い恥ずかしくて顔を赤くしていると、

 「ガーナの仇です!」

 ナルファが半泣きになりながら兵士たちに突っ込んでいった。

 「仇も何も、譲さんは死んでないだろ!?」

 「うるさいです。よくも私のパーティメンバーにひどいことをやってくれましたね!」

 そういいながらナルファは思いっきり杖を振り、ゴブリンたちのように兵士をぶっとばしていた。

 もはや八つ当たりだが、今がチャンスだ!

 「二人とも、兵士が気絶しているうちに逃げるぞ!」

 「ほう、誰が気絶してるって?」

 逃げようとした俺たちの前に、兵士のリーダーが立ちふさがった。

 「あの杖攻撃喰らって起きてるとか、あんたもなかなかやるな」

 「ふん、あんな見え見えの攻撃、当たる方が難しいな。まったく、どいつもこいつも腑抜けだな。帰ったら鍛えなおさねば……」

 「分かりました。降参する……わけないだろ! “ファイアソード”」

 諦めたふりをした俺は、地面に落ちてた剣を拾い不意打ちを仕掛けた。

 よし、これは決まった!

 だが俺の剣が届くよりも先に、兵士が俺の剣を叩き落とした。

 「馬鹿が。無駄な抵抗はやめておいた方がいいぞ。ガーナ様はともかく、お前らは殺してしまっても構わんのだからな」

 剣先を向けてきながら、兵士はそんな恐ろしいことを言ってきた。

 「さぁ、身柄を渡してもらおうか」

 不意打ちは失敗、ナルファもガーナも完全に怯んでしまっている。

 万事休すか……。

 「おやおや、兵士が一般人を脅すなんて」

 その声の先を見ると、糸目の男性が立っていた。

 「何だ貴様。仕事の邪魔をするというのなら、まずはお前から始末するぞ」

 「それは困りますね。僕は彼らに用があるので、仕事を完遂させたくないのですよ」

 そういうと、いきなり俺たちの目の前に移動してきて、

 「では、連れていきますね。失礼します」

 ……は?

 状況を理解する間もなく、俺たちはこの場を離れることとなった。

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