第25話 好きの理由を言い合う姉妹
「……それで、なんで僕が北村家の買い出しに駆り出されたんだよ?」
日が傾いた時間に、僕は姉妹に強制されて近くのスーパーへ買い出しに来ていた。
「大丈夫ですよ。俊さんには付いてきてもらうだけなので」
「ど、どういうことだ……?」
「まぁ、黙ってみていなさい。あ、親御さんに晩ごはん食べてくるって言っておいて」
「わ、分かったけど……」
『……本当に意味が分からないし、もしかしたら、これって北村家で食べるのか?』
そうして、スーパーへ向かっていると、道中で香織がこんなことを言い出す。
「俊のなにが良いって、その生き方よね」
「ちょっぴり達観する生き方が……か?」
「そうよ。私はその生き方に心救われたの。そして、そこに心奪われた……なんてね」
「そ、それはどうもありがとう」
すると、それに追随するように、美紀も似たよう言葉を呟く。
「俊さんはとにかく人のことを否定しないんですよね。そこが好きです」
「お、おぉ、ダイレクトに言ったな」
「ちょっと! 好きって言葉は禁句だったじゃないの!」
香織から横槍が入った。どうやら、「僕の前で好きという言葉は禁句だ」というルールが設けられていたらしい。
「もうこの際、好きに想いを伝えたらいいじゃん……」
約束を反故にして開き直ったようにしか見えないが、美紀はそう本音を告げる。
「私は辛いときにいつも俊に救ってもらったんだから!」
「わ、私も交通事故から命からがら救ってもらいましたし!」
「……それって一度きりじゃない」
「それ言ったらお姉ちゃんだって、陽人さんのこと振っているでしょ!?」
「も、もともと崩壊しかけていたのよ!」
僕はこの会話に終止符を打つべく、ここで一声あげた。
「おいおい、誰が喧嘩しろって言った?」
僕は少し狂気を含んだ笑顔を浮かべて、二人に問い詰める。
「ご、ごめん……」 「ごめんなさい……」
だが、そこは良くも悪くも素直な姉妹なのであった。
「分かってくれればいいんだ。僕は二人を幸せにするために存在しているんだから」
「それは言い過ぎじゃないかしら……?」
「言い過ぎじゃなくなるぐらい、二人とも言い争ってくれていたけどな」
姉妹二人して顔を赤らめて、恥じらいの表情を顕にする。
『そんな顔するぐらいなら、無理に言い争わなくてよかったのに……』
“北村家”に帰宅すると、先に手を洗った美紀が僕にこう言ってきた。
「私とお姉ちゃん、どっちの料理が美味しいか教えてください!」
「……なんだ、主婦力でも測るのか?」
「正解です!」 「正解よ」
戻ってきた香織も一緒にそう言った。
「それだけで決定するわけじゃないよな?」
「さ、流石にそんなことはないですが……」
「そうよね。だって美紀、あんまり料理上手くないものね」
「れ、レシピが悪いの!」
二人はエプロンを身に纏って、いかにもな主婦の様相を呈する。
「じゃあ、私たち料理するから、今から三十分待っていて」
「……逆に三十分でできるのか?」
「えぇ。できるわよね、美紀?」
「や、やってみる……」
「無理はするなよ?」
「は、はい!」
そんな流れで、僕は暇を持て余すことになった。なので、二人のためにお手製の問題を作って、時間を潰すことにした。
『……二人が幸せになるなら』
「できたわよ」 「できました!」
「……その二人で被せて言う癖って、どうにかならないのか?」
「でも、私は嫌いじゃないわよ。なんかどこか姉妹っぽくて」
「私もこのやり口、わりと好きです!」
「それなら……いいのか?」
切磋琢磨したことで、姉妹は勝手にギクシャクした空間を解消していた。
「……どっちの飯も美味しいじゃないか」
美紀の作ったオムライス、香織の作った炒飯は、どちらも家庭的情味溢れる味わいをしており、僕は舌鼓を打っていた。
「それじゃ、勝負にならないですよ!」
「そうよ……せっかく作ったんだから、どっちか選んでよ」
「今回ばかりは不戦敗だな。次に作るなら、同じ料理を作ってくれ」
「そうね……分かったわ」
「はい! 分かりました!」
『……この機会が、姉妹二人の自分磨きに繋がっていたらいいんだけどな』
僕はそう想いながら、またスプーンを持って飯にありつくのだった。




