第26話 姉妹、仲睦まじくあってくれよ!
そうして、7月21日土曜日、終業式の日を迎えた。中学校の方も今日が卒業式ということで、僕と香織は美紀と待ち合わせることにしていた。
「ここで独占できるのも、同級生の特権ね」
「これは……独占しているのか?」
「私がしているって言ったらしているのよ」
「それで満足なら、僕はそれでいいんだ」
だが、香織の顔色に笑顔の二文字は浮かんでいない。
「……私は俊が好きよ」
「し、姉妹して告白するタイミングがどうかしているな……」
「だけど……」
「だけど?」
香織は一呼吸をおいて、こう言った。
「自分を犠牲にする発想はやめてほしいの。それでできることなら、私と……私たちと一緒に未来を育んでほしい」
僕に嫌われる可能性があるのに、彼女は僕の性格に突っ込みを入れた。
「犠牲にしているんじゃない。これは推し活みたいなもんだ」
「推し活……ってなによ?」
「僕は好きで二人のことを幸せにしようとしているんだ」
「……好きで」
『しまった……言い方が悪かった』
「好きで、ねぇ」
「こ、言葉の綾だから」
「別にそれは分かっているわ」
「分かっている」とは言ったものの、依然として笑顔を切らしたまま、中学校のある方に歩みを進めていった。
「あぁ、俊さん!」
対する美紀は香織と違って、僕に最大限の笑顔を振りまいてきた。
「今日も元気そうで良かったよ」
「はい! お姉ちゃんは……どうしたの?」
「どうもしていないわよ。ちょっと頭が痛いだけだから」
「……そうなの」
『うぅぅ嘘つけぇ!』
特別予定もない今日は、そのまま姉妹と解散するものだと思っていた。だが、道中で香織がこんな提案をしてきた。
「ねぇ、今から三人で大通公園のビアガーデンに行かない? ちょっと高いけど」
香織の顔には笑顔が戻ってきた。
「いや、誰も酒飲めないだろ……」
「お酒は飲まなくていいの。売店でご飯を買って食べるのよ」
「私は賛成だけどお姉ちゃん、頭痛いのは大丈夫なの?」
「冷たいものを飲んで吹っ飛ばすわ」
地下鉄で最寄りをすっ飛ばして、僕らは大通公園にやってきた。
「わぁ、色んなビール会社の出店がある!」
初めてのビアガーデンに高揚する美紀。
「とりあえず、席は取っておこうかしら」
対する香織は、冷静に行動をしている。僕が言葉遣いと背丈以外で、姉妹の差というのを初めて見た瞬間だった。
『……だけど、どっちもいいな』
「まぁ、こんな時間だから人気も少ないな」
「でも、こんな時間の割には人がいるわね」
「たしかにな」
そうして、各々食事と飲み物を買って、いざビアガーデンを始めることにした。
「……そりゃあ、旨いな」
「えぇ、美味しいです!」
「本当、この地に産まれてよかったわ」
そうすると、姉妹は揃って満面の笑みを見せる。僕の左右に座る姉妹は、まさに華だった。
「私って、凄い幸せを堪能していますね」
「えぇ、私もとっても幸せよ」
「僕も……それなりに幸せかも」
『なんだか、あまりの幸せと暑さで狂ってしまいそうだな……』
僕はここにある、ありったけの幸せを噛み締めていた。少なくとも、僕にはこの幸せが長く続くとは思っていなかった。
「……この夏、私は絶対に俊の心を撃ち抜いてみせるから!」
周囲のムードに巻き込まれたのか、香織は唐突にそう言ってきた。
「わわわ、私だって……俊さんの心を鷲掴んでみせますから!」
美紀も遅れを取ってそう告げる。必死そうな美紀は一気に顔を赤くする。
「はいはい……楽しみにしていますよ」
こうして、波乱の夏休みが幕を開けることになった。きっと、僕の人生で一番の華の時期になるだろう。
『……この先、一体どうなることやら』
僕は「ふぅ」と一息漏らし、ほんのりと笑顔を浮かべると、もう一口ラム肉を頬張るのだった。
このときの僕に、今後姉妹二人が織りなす暴挙を知るよしもなかった……。
―――第二段階につづく。
【最後に】
どうか★をください(切実)




