第23話 あれ、魅せ方が変わった……?
「まぁ、色々とお前の性格は聞いているよ」
陽人の話題が出たので、僕はここで話題を切り替える。
「……は、陽人に聞いたってこと?」
「そうだ。お前、ちょっと扱いが大変だったみたいだな」
僕は聞こえない程度に鼻で笑うと、香織はげんなりした様子でこう言ってきた。
『うーん……そこまで落ち込まなくてもいいんだけどな』
「なに。私のこと……見損なった?」
「いいや。むしろ、陽人にお前のことを託されたぐらいだし」
「……それはそれでどうなのよ」
「いいんじゃないのか? 元彼にも幸せでいてほしいと思われているんだし」
そんな僕の言葉に、香織はもじもじしながら敏感に反応する。
「それで、どうなの……?」
「ど、どうって?」
「私のこと……どうするの?」
『あ、あれ……香織ってこんな下手に出るタイプなんだっけ?』
奥手というか正攻法ではないというか、香織はそんな手段で僕を口説いてきた。
「どうもしないよ。今まで通りよき理解者、よき親友でいればいい」
「……託されたのは、いいの」
「なんだよ。僕に娶ってほしいのか?」
「別にそんなことは言っていない……」
『いや、もうほぼほぼ言っているだろ』
「とにかく、美紀の受験もあるんだし、僕らも来年受験生だ」
「……恋愛には走れないってこと?」
「話が早いな。だから安心しろ」
僕は三秒ぐらい間を置いて、香織にこう告げておいた。
「お前が魅力的じゃないことはないからさ」
「そう、分かった。じゃあ、もう二つ目の場所に行きましょ。ちょうど日も暮れてきた頃だし」
彼女は澄ました顔でそう言った。
「お、おう」
僕に憤慨するわけでもなければ、自分を責めている様子でもない。香織は言葉にし難い感情でいるようだった。
そう言って会計をし、店を出ると彼女はこう呟いてきた。
「これから地下鉄ですすきのまで行って、そこから市電に乗るわ」
「……ど、どこに行くんだ?」
「私が一度行ってみたかった場所よ」
香織は久しく見せていなかった笑顔で、こちらを見つめる。
「な、なんだよ」
「別になんでも」
そうして向かった先は、「藻岩山ロープウェイ」の入口だった。
「僕は徒歩で登るよ……お金ないから」
「あ、ここのお金は私持ちだから、気にしなくていいわよ」
「え、でもそれは流石に申し訳が……」
「次、お金の話題したら怒るから、いい?」
「は、はい。ありがとう……」
『……香織の意地っ張りなところ、ここも言われてみれば面倒なのかもな』
やがてロープウェイで展望台に登ると、数える程度には人が佇んでいた。
皆、もれなく西向きに立っている。それもそのはずで、時刻は間もなく日の入りを迎えようとしていた。
「私たちもあっちに行くわよ」
そう言って香織も御多分に洩れず、市街地ではない西の方を向く。
「……ここなんて、来ようと思えばいつでも来れるんじゃないのか?」
少しして、僕は香織にそう尋ねた。
「一人で来ようとは思えないの」
「美紀と来ればいいじゃないか?」
「……やっぱり、そこは男性の存在って大きいと思うのよ」
「そうなのか?」
「カップルみたいな様相だからっていうのもあるけど、守られている感じがするの」
そう言いながら、香織は太陽から目を逸らして、僕の方を一瞥した。
「……分からないな」
「分からなくてもいいのよ」
やがて、僕は沈みゆく太陽を見つめて、ポッと心に火を灯す。そうして温かい気持ちになったところで、ボソッとこう呟く。
「たしかに綺麗だな」
「それ、私に言っているのかしら」
「それでも別にいい」
「別にってなによ……」
そんな掛け合いをして、日が完全に沈むのを待っていると、周りのカップルも「綺麗だ」と呟くようになる。その言葉に反応した僕は、香織にもう一つだけ質問をする。
「それでさ……これは例の赤点回避のデートに含まれるのか?」
「含んでもいいわよ」
「え、いいのか?」
「お好きにしてちょうだい」
香織は満面の笑みで僕と瞳を合わせると、太陽を背景にこう呟いた。
「どうせ今後もデートするんだから!」
その健気さは、僕の認識にあった香織の存在を、瞬時に打ち砕いていった。
そしてこのとき、僕には既に彼女ではないが、彼女と呼べる存在が、二人もできてしまっていた。
『……二人との関係を、一体どうしろって言うんだよ』
僕が背負うには、二人の存在はあまりにも大きすぎた……。




