第20話 姉妹のどっちを選ぶ?
6月22日土曜日、授業が終わって、僕は一人、帰路を辿ろうとする。今日は姉妹との勉強もなく、久しぶりに誰とも言の葉を交わさずに帰れると、そう確信していた。
すると、下駄箱に着いたところでこんな言葉が聞こえてきた。
「今日は一緒に帰らないのか?」
声の主は陽人だった。久しく話していなかったものの、僕はどうにか平常心を取り繕った。
「別に付き合っていないからな」
「あんな美人、放っておいたらすぐに取られちゃうぞ……?」
「放った張本人がなに言っているんだよ」
なぜか、今日もまた一人での帰宅は許されなかった。
『なにかの呪いにでもかかったのか……』
「香織は今日も元気そうだったな」
歩道に入ると突然、陽人がこの話題をぶっ込んできた。
「いつもあんなもんだろ」
「お前が近くにいるからじゃないのか?」
「……なんだ、それは僕への当てつけか?」
「親友に楯突くほど性根は腐ってないよ」
少しの間、車の走行音だけがあたりを包み込む。
「それで、お前はどっちを選ぶんだ?」
僕が二の句を考えていると、陽人がそう尋ねてきた。
「どっちって……なんの二択だよ」
「決まっているだろ。姉妹のどっちと付き合うか聞いているんだよ」
僕は目を見開いて「へ?」という声を漏らしてしまう。
『二人きりだからって、ちょっと踏み込みすぎじゃないか……?』
「……は、陽人は大丈夫なのか?」
「別れたんだから、それ以上でもそれ以下でもない。今は切り替えているしな」
「それはそうかもしれないけど……」
「後ろ髪はひかれていないから大丈夫だ」
『そりゃあ、陽人はいいのかもしれないけどさ……』
僕は唇を押し付けあって、どうにか自分に対する不満を抑え込む。
「お前がどうにかして幸せにできるなら、お前に香織のことを幸せにしてほしい」
陽人は少し笑顔を見せてそう言った。
「……でも、美紀もいるし、お前から香織を奪った気がしてあまり気分が良くないんだ」
「こっちはたかだか一年しか付き合っていないんだから、お前が何年も付き合って上書きすればいい」
「なんでそう前を向いて歩けるんだよ……」
するとどういうわけか、陽人は髪をポリポリかいて顔を火照らせた。
「……俺には仲の良い女友達がいる。最近は色々と悩みを聞いてもらっていた」
『ん、ん……?』
「だから……新しい恋に向けてちょっと色々と考え始めているんだ」
「そ、そうなのか」
『……ほ、本当にバッサリ縁を切ったってことか?』
陽人は香織の存在を乗り換えようとしていた。そして、僕にはそんな陽人を邪魔する資格なぞなかった。
「後ろめたい気持ちとか、後退りしている自分とか、本当にそういうのないから」
「……分かったよ」
陽人の新しい恋を応援するべく、僕と香織が良好な関係を築いておくことは、手段として悪手ではなかった。
「付き合うかは知らないけど……それなりに仲良くはするよ」
「あぁ、頼んだ。お前ならやってくれると信じているからな!」
「……頑張ってはみるから」
そうして、陽人は立ち止まって手を差し伸べてきた。僕はそれを笑顔で握り、残っていた心の蟠りを解消していった。
『これで……僕も後ろめたい気持ちがなくなった。本気で香織のことを幸せにする資格ができた』
―――で、でも………美紀が。美紀もいるんだ。僕はどう動くのが正解なんだ……?―――
「あ、一つ言うの忘れていた」
僕が姉妹のことを思案していると、陽人はそう前置きを言って、こう続けた。
「俺は負け犬じゃないからな!」
「遠吠えすんな」
「と、遠吠えじゃねぇ!」




